第43話 君がくれた翼
仲間が邪神に撃墜された瞬間を、
「る……
引き裂かれた
「これは……〈
「なかなか派手な有り様だのう」
その巨体の後ろから、半裸の瑠仁郎がひょっこりと姿を現した。
「うむ。離脱の手間がちと
「な、泣いてませんッ!! これは敵を
「そうでござったか。さすがは香夜世ど……ぬほぉっ!!」
「ルジ!」
「……どうやら……攻撃が
「瑠仁郎ぉおおお~っ!!」
「和尚……あとは任せ……ご、ざ…………」
「瑠仁郎……」
幽慶に支えられたその腕の中で、瑠仁郎は静かに目を閉じると、スヤスヤと寝息を立て始めた。
ひとまずは安堵しつつ、
「ルジはしっかりと仕事を果たしてくれた」
邪神の尻尾を指差す。迎撃される瞬間、抜かりなく結び付けられた
共に戦い抜いてきた仲間同士、多くの言葉は要らない。
「これが最後だ。僕たちの力は必ず通用する」
致命傷となりうる一撃――すなわち、この場では
戦況を見極めながら、潤葉は師へと呼びかける。
「先生……ご教示願います!」
土煙舞う戦場の中心で、師弟の視線が重なった。
「おうよ、見せてやらあ――」
「――
立ち昇る虹の軌跡は分厚い防壁を易々と縦断し、邪神の胴体もろとも真っ二つに斬り裂いた。
「ぐぉお、お……っ、おのれぇええ……ッ!! だが、まだ…………ッ!」
四肢がバランスを維持できぬほどの
その瞬間こそが、
「和尚!」
「任せい――
狙い撃つは巨獣の尻尾、
「これはッ……!? き、傷が……治せぬ…………!」
破邪の力。それ自体は邪神に
光はさらに、邪神の身体を構成する闇の最も濃い部分を浮かび上がらせる。
(弱点はあそこか)
眼鏡のレンズの奥から、澄んだ深緑の瞳が見つめていた。
「行ってらっしゃいませ、潤葉様」
そう言って、恋人はとっておきの
迷いなく抜き放つ二刀は、
「〈
すでに教主の命の
「口惜しや……何も、成せずして……絶え果てようとは……」
野望を阻止した男を見上げる眼差しに、もはや恨みは残っていないかに見えた。
「正道を行く者よ……
「そんなことはない」事の是非はどうあれ。「精一杯を生き抜いたあんたは美しい」
「そうか…………――――」
そのまま息を引き取った。程なくしてその
辺りに渦巻いていた瘴気は均衡を失い、空間の亀裂へと逆流する。あとは放っておいても『扉』は自然に塞がれてゆくだろう。
一人
集まって来た弟子たちを
「ルジ公は無事かい?」
「はい。おかげさまで」
全員無事――と潤葉が答えるより先に、折よく本人が目を覚ました。
「むぅ……邪神は……もう倒したのでござるか……?」
「ああ、終わったよ。カヤが僕に力を……翼をくれた」
「何とッ!? そ、そんな尊い場面を見逃すとは……無念ッ!」
ショックのあまり瑠仁郎は再び意識を失った。
幽慶は苦笑いしつつ、瑠仁郎を地面に寝かせると、教主の亡骸が消え去った跡へ向かって手を合わせる。
「……世が世ならば、争わずに済んだものを」
やる方ない思いを、皆で噛みしめる。
「どれだけ大きな力を身に着けようと、救えるものってのは、
「先生……」
「けど、そこで絶望しちゃいけねえ。行動した分だけ自分も、世の中も確実に前に進んでる。オレはお前さんの成長を見て、改めてそう思ったよ――
つられて空を仰ぎ見る。陽はいつしか沈み、群青色の天幕が頭上を覆っていた。
北天を極星が、南天を十字の星宿が、瞬きながらそれぞれの航路を緩やかに進んで行く。
今は姿が見えずとも、同じ空のどこかで輝く月に想いを馳せて。
* * *
★
https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818093075404653286
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