第42話 不退転
邪神・
八尾の銀狐を
その前脚の一振りは大木を薙ぎ倒し、後ろ脚の一蹴りは岩壁を粉砕し、尻尾のそよめきすらも山肌を削り取った。
少数の例外を除いては。
「的がデカすぎるってのもやりづれえなあ」
邪神の攻撃を
あまつさえ、『扉』から流れ込む瘴気は、邪神の傷をたちまちのうちに癒してしまう。
「食えぬ男よ。加減を測っておるな?」
「バレたか。まあ、案外オレが遊んでる間に弟子たちが何とかしてくれるかもしれんぜ?」
人類の頂点たる
邪神の体を足場に宙高く跳躍し、振るう刀から剣圧を雨あられと浴びせかける。
身を
(あれが……僕の目指す高みか)
師の背中は遠い。英雄と邪神の一騎討ちは、まるで神話の再現だ。飛ぶ鳥を落とす勢いの超新星といえども、割って入る余地はないかに思える。
「弟子だと? ……ああ、何やら大口を叩いていた小虫どもがおったのう」
八本の尻尾が立て続けに大地を薙いだ。風圧が
「
ただ一人、
無論、引き下がるつもりがないのは潤葉とて同じだ。
「カヤ」
「わかっています」
助け起こす香夜世の眼差しも、自分たちの立場を悟っていた。邪神にとって
それを承知のうえで、敵をこの場に
「ルジも無事かい?」
「かたじけない」
「ああ。無礼は承知で、逆に先生に囮になってもらおう。何としても僕らの手で勝機をたぐり寄せるんだ」
あくまで気休めだ。直撃を喰らえばどのみち命はない。
「備えは万全にござる」
瑠仁郎が懐から取り出したのは、
仲間に先んじて、潤葉が進み出る。
「僕が道を切り開く――」
師の立ち回り方を最もよく知るのは、弟子である自分だ。
相手はかつてない強敵。
「――〈
今ある最大威力の絶技をもって挑む以外の選択はない。
それでも、邪神の
ところが、である。
交差する双刃はあっさりと巨獣の踵を斬り裂き、黒い血
「ぐぅっ、
驚いたのは邪神ばかりではなく、
(……届いた!?)
ダメージは軽微、されど敵の意識を逸らすには充分だった。
同時に裏から回り込んでいた
「
間一髪、奇襲を察知した邪神が尻尾で瑠仁郎を叩き落とす。
それを目にするや、色を成した
「こん畜生ッ!」
轟々と
だが、それすらも致命傷には至らない。一息吸って吐く間に、傷は塞がり始めている。
「ぐぉ……ふ、ふ……我と
「冗談じゃねえ、付き合ってられるかよ。ここいらが更地になっちまう前に決めてやらあ。それに――」
刀を構え直す
「とどめを刺すのはオレじゃねえ」
邪神の尾先に
* * *
★
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★幽慶 イメージ画像
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