第40話 修羅となれ
空間の歪みは、霊脈を通じて遠く離れた場所へ作用を及ぼす。
例えば、西方の地オルカナで異界への『扉』が開かれたとする。その影響は反射的に、はるか海を越えたイムガイのとある地点に現れることが予測された。
旧都から大きく東に位置するキホダトの山間部に、烈士チーム・
小高い丘に
「和尚、見張りを交代しましょうか」
「うむ」
返答の間も、老僧の目は遠く夏空を見つめたままだ。
「……もう少し、お独りにして差し上げるべきかとも思ったのですが」
「気を使ってくれるな。あやつとの別れは済ませた。心残りはない」
行き違う背中が、心なしか小さく感じた。
オルカナへ向かう
(無理でも送り出すべきだったのか……いや)
それはできない、と潤葉は心中で発した。
将の一声は、隊の規律を保つことも、曲げることもできる重みを持つ。だからこそ、感傷的な決断は許されない。
(
今頃、幕府はイムガイ各地で同時多発する暴動の鎮圧で手一杯だろう。
考えるまでもなく、それらは
世に破滅をもたらす邪神を、魔界への『扉』から呼び込むために。
時は間もなく訪れた。
眼下に広がる
「事象発生! ルジ、峡谷の様子は?」
「敵の進軍は確認できず、でござる」
「カヤ、作戦・
「承知しました」
黒アゲハの式神が四方へと散って行く。
(峡谷を通らないとなれば、ここへ来る方法はただ一つ――)
潤葉の勘は当たっていた。
歪みの渦を取り囲むように、突如として多数の人影が立ち現れる。獣人と半獣人で構成された異装の集団は、
その数、ざっと百を下らない。
(やはり、直接ここへ転移して来たか)
個人で扱うには高度な資質を要する転移術だが、大掛かりな儀式を執り行うことで実現を可能としたのだ。人的資源に優れた教団にこそできた
(だけど
式神が向かって行った方角から、続々と部隊が集結する。
湖畔の合戦で共闘した戦友たち――
一触即発の
「聞け、
「我らは
冥遍夢の教主である。年の頃は五十をとうに回っているはずだが、妖艶な美貌にはいささかの衰えも
「百慶の望みだと? 知った口を……」
本人の意志など問題ではなかった。すべて織り込み済みで、教団は
無論、
それらをまとめて解決する一手こそが、当の作戦であった。
「和尚、もはや迷いは無用です。我ら一丸、修羅となり、狂信者どもを、
「聞こえているぞ、
教主は輿を飛び降り、声を張り上げる。
「
教主の手の上で数珠が
化け猫、化け狐、化け狸――理性を失った半獣たちが、烈士部隊へとまっしぐらに襲いかかった。
「何と
「和尚、これは一体……」
「おそらくは、体内へと直に魔物を召喚したのでしょう。具現化する過程で混じり合って、あのような姿に変異したものかと」
「
息巻く
「ああ。これより総攻撃を行う――全員この
抜き放つ太刀の刃先に茜差す。丘を駆け下りる足並みを追い越し、振るう大太刀の刃は西陽を閃かせ、異形たちを斬り伏せてゆく。
狙うべきは教主の首級だ。
* * *
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https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16817330669060272095
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