第33話 迫る危機

 衛兵を吹き飛ばして、人力車は走り続ける。

 街道を上り、城の城門を破壊して人力車は走る。

 城の階段を上り、玉座に座っているルーギャシー国王と危険人物の奥様を発見した所で急停止する。


「そろそろ来る頃だと思っておったぞ、リークよ」


 ルーギャシー国王の目にはクマが出来ていて、奥様は絶世の美女だった。

 何と言うかゴリラだと思ってたんだがちょっと残念だ。

 絶世の奥様という言葉が合うだろう、ドレスと言う形ではなく、戦闘服なのが怖いが。


「ほう、お主がリークか一度手合わせ」


「すみません、時間がありません」


 シェイザーとカエデちゃんが人力車からふらふらと落ちてきた。


「そこの2人は大丈夫なのか」


「はわわわわわ」


「やべーなこんな危険な乗り物を知らないぞ」


「すみません、がんばりました」


「今回の内乱の事だが、メルム卿は捕まえた。お主の村に行った奴等はすまぬ」


「いやいいんです、あいつら雑魚で今頃山でひーひーしてるだろうから」


「ははははは、数万の兵士を雑魚呼ばわりか」


 奥様が笑っているがスルーしよう。


「今この国に恐らく街や村で殺戮の限りを繰り返すシェイガーが向かってます。勇者と魔王と会いました。死んでましたが、勇者はシェイガーにやられたそうです」


 ルーギャシー国王が真っ青になっていく。


「それでは妻でも叶わないぞシェイガーには」


「はっはっは、我が旦那は私頼りだったという訳か、いっちょ殺しにいってくるかな」


「やめい、お前を失うのは耐えられん」


「そうかい、ならリークならいいのかい」


「いや……」


「いえ、僕1人じゃいきません、僕にはシェイザーとカエデちゃんとカナシーがいますから」


 ルーギャシー国王の顔が真っすぐにこちらを向いた。

 リークはこくりと頷くと。


「後は任せてください、ルーギャシー国王はこの国でふんぞり返っていればいいんです」


「はは、ははは、がはははははは」


 いつもの笑い声に戻ったルーギャシー国王は頷き。


「なんでも言ってくれ、出来る限りのフォローはする」


「それならそうですね、豪華な宴でも開きましょう」


「そうじゃ、今すぐに」


「今すぐに発ちますのでそれは無理です」


「そ、そうか、なぁリークよ、お主を見つけた時、天から与えられた奇跡だと思った、そして、今そなたは勇者の如く役割を担おうとしている。お主は今より勇者となるのだ」


「それも却下です」


「はへ」


「僕は幻想ショップの店長ですから、店長以外の何物でもありません」


「じゃあ、店長が人間達を救うのか」


「それで良いじゃないですか、どこかのお店の店長が人々を救ったそれで良いんです。でしょ? カナシー」


「はっはっは、そうじゃのう、その方が何より面白いな」


 カナシーはふわふわと浮かび上がりながら笑っている。

 もはや人の目など気にしておらず、兵士達は真っ青になっている。


「では後は任せるぞ」


 その時だった。


「大変です。城門の外に化け物がいます」


「この魔力、シェイガーだ。ありえない事になってるぞ」


「早く行きましょう」


「はい!」


 兵士が叫ぶと、シェイザーが魔力で感知し、リークが走りだす。

 それに答えるようにカエデちゃんが頷く。


 リークは勇者じゃない、彼は幻想ショップの店長だった。


 まだ13歳の少年は取り合えず走った。


 3名が走って城の門を出ようとしたまさにその時。

 渡し橋が吹き飛んだ。

 そこから1人の大柄な男性が入ってきた。

 服のあちこちは血まみれに染まり。

 傷だらけだった。

 顔はシェイガーだが、突如成長した感じだ。

 腹のあちこちには何度も刺したであろう傷口があり、剣が突き刺さったままだった。 


 背中のあちこちから矢が飛び出ており、血がどろどろと流れる。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおお、ミリーナどこだあああああああああああ」


「シェイガーお前もう頭が」


 シェイザーの瞳から涙が流れていた。


「その秘儀とやらは体を成長させるのか? 君達は少年か青年の狭間だろう、あんなに大人になるのか」


「ああ、そうだ。秘儀を使えば、体は成長する。魔族は体内の心臓にあるコアを破壊されないと死なない。いくら体をもがれようとばらばらにされようと生き続ける。秘儀はそれを利用して体を痛めつける自傷行為を利用したもの。それによって力が増幅されるが、傷を治療してもコアは衰退する、あれはもう助からない」


「なぁ、シェイザー、あいつはレベル9999より高い、僕達は殺す気でやらなきゃならない、いけるな?」


「ああ、もちろんだ」


「それとこれは確実なんだがデバフ魔法系は効かない、そこは期待しないでくれ」


「カエデちゃんは星の腕輪を上手く使ってくれ」


「シェイザーは防御に優先してくれ、愛の防具は守りたい愛に反応する。大切な人以外にも仲間やこいつらは守りたいと強く念じろ」


「はい」「おうよ」


 カエデちゃんとシェイザーが答えると。

 3人は走り出した。


 シェイガーは右手だけで城の壁をつかみ取る。

 まるでクッキーのようにサクサクと掴みとる。

 気づけば、城そのものが崩れかける。

 

 リークはスキル:軍神を発動させる。

 飛び散った瓦礫の隅々まで場所を理解すると、スキル:超人を発動。

 レベル9999の状態で動くものだから、人には見える事の出来ない神の領域に達する。

 

 それを追いかけるようにカエデちゃんが飛来する。

 星の腕輪は流れ星のようにもなりうる。そして星のように無数に存在する事が出来る。

 今のカエデちゃんは何百人と実態を持っている。


 シェイガーの右手と左手に握られた魔剣。

 生者を殺し力を吸収する。シェイザーの魔剣とは違い死体を残す。

 シェイザーの魔剣は死体を吸収し失くしてしまう。

 それらを造ったのは2人の祖父であり魔王だ。


 ぶんと右から左に一閃するだけで、城そのものが両断される。

 その行いだけで大勢の兵士が殺されたようだ。

 

 さらに魔剣そのものの光が増幅される。


 その魔剣の軌道はカエデちゃんを狙いリークを狙っていた。

 その正確なスピードで避ける事が出来なかった。 

 神の領域に達するスピードでも星のような動きをする無数のカエデちゃんでもレベル9999越えの攻撃は回避できなかった。


 その軌道線状にシェイザーが立っていた。

 無数の瓦礫に当たり、それでも立ち尽くしていた。

 顔面から血が流れ、それでも歯を食いしばって、斬撃をガードする。


「あにきいいいいい、俺は最高な友達、いや仲間に出会った。兄貴に殺させる訳にはいかねんだよおおお」


「ありがとう、シェイザー」


「シェイザー動くよ」


 カエデちゃんがシェイザーを支えて、星のように動く。

 

 リークはシェイガーの真後ろに飛来すると、自分の心に反応するただの剣を構えた。

 どこからどう見ても、普通の剣。鉄の剣にも銅の剣にも鋼の剣にも銀の剣にも見える。普通の剣。

 

 リークは思い出す。


「僕はもっともっとお店を繁盛して金持ちになってやるんだああああああああああああああああ」


 リークの心はお金が欲しかった。

 そしてなにより。


「従業員くわせてくんだああああああああああああ」


 凄く現実的だった。

 

「最高な物つくっちまったから、次は金だあああああああ」


 夢はいっぱいあればきっと良い事あるだろう。そう欲深かった。


「お前を、ミリーナさんてやつに合わせてやるよおおあの世でなあああああ」


 すごく残酷だった。


 リークのただの剣は一閃した。

 それだけで、爆弾かと思える衝撃が走り。

 城は激動に揺れていた。

 天井は崩壊してきて、兵士の死体が転がる。

 

 シェイガーは振動に耐えながら方向を上げると、また一閃を放とうとした。


 それを愛の防具で防御力が強化されたのか、アタッカーソードとシールドソードでシェイザーは防いだ。


 シェイガーは魔剣を放すと、拳でリークの顔面を殴ろうとする。

 きっとカボチャのようにふぼって爆発するだろうなと死を覚悟した。

 だがそこに次から次へとタックルをかます星の腕輪を使ったカエデちゃんが飛来する。


 最後の1人、本体になると、その拳でシェイガーの拳と渡り合う。


 シェイザーもカエデちゃんも吹き飛ぶ。


 リークの体は瓦礫の石等でぼろぼろになり、血だらけとなっている。

 

 空気を吸いながら。


 スキル:ゴーレム製作を発動。ゴーレムが瓦礫から作り上げられていく。

 それを片っ端からシェイガーにぶち当てる。

 積み重なったゴーレムを吹き飛ばすシェイガー。


 スキル:雷帝の角を発動させる。右手と左手から雷撃をほとばしらせ、シェイガーの顔面を丸焦げにする。

 スキル:ボンバーを発動、辺りを爆発させまくる。爆炎でシェイガーが見えなくなる。

 スキル:スプラッシュ、ハンマー級の衝撃を飛ばす。

 スキル:スキル:スキル:スキル:スキル:スキル:スキル:スキル:


 リークは今まで覚えたスキルを次から次へと連発していく。

 少し弱ったシェイガーに向けて再びただの剣を構える。


「さっさとミリーナに合わせてやるっつてんだろうがあよおおおおおお」

 

 ここにちょっとした冷たい人間がいるが。

 そんな事は気にせず。リークのただの剣は適格にシェイガーの左胸を突き刺した。

 左胸からコアが爆発すると、辺り一面が光に包まれて。


 沢山の笑い声が聞こえてきた。


【シェイザーすまねーな、あっはっは、そこの店長に感謝だな、こんな簡単な事自分じゃできねーぜ、狼人間の娘もいい奴みつけたな、あーあ楽になっちまったぜ】


 光がぴかぴかと輝き。

 シェイザーが叫び声をあげた。


「あにきいいいいいいいいいいいいい」


「ふぅ、ちょっと疲れましたな、こんな時にヒールが使える奴がいればいいんですが」


「ふ、私を忘れたか」


「カナシーさんは幽霊でしょ」


「そうだな、ヒールくらいは出来る。この王国全てのな」


「はい?」


「もう満足したさ」


「ちょっと待ってくださいよ、まだあなたから教えを」


「もう商売の基本は大丈夫だ」


「はい?」


「商売の基本は従業員を養う事だ、さぁゆけ」


 カナシーの光が次の瞬間爆発した。


「はいいいいいい」


 リークは唖然としながら。


 この王国全土に光は灯った。


 この殺戮劇場が茶番かと思える事が起きた。

 死者が蘇ったのだ。

 今までシェイガーが殺してきた人達。


「嘘だろ」


「カナシーさんそれはないですよー」


 シェイザーの呟きと、リークは嘆いた。

 もうこの世界にはカナシーはいない。

 そしてリーク達の怪我も治療されていた。


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