第21話 ワールドダンジョン

「え、ここって、カナシーの故郷なの?」


 リークがそう尋ねると、カナシーはこくりと頷いてから。


「私はワールドダンジョンに捨てられた子供だ」


「とんでもないな」


「ですね」


 リークとカエデちゃんがそう呟き。


「さぁ、モンスターを捕まえるのだろう」


「そうさ、モンスターから素材がっぽり作戦開始だ! 先に捕まえないといけないけど、えーと捕縛の腕輪で、弱らせてから攻撃で、でも僕の攻撃って……」


 リーク達が遭遇したモンスターは猪みたいなモンスターだった。 

 鑑定すると【リックボアー:レベル20】というもの。


「よーし」


 リークは服の懐に隠していた白い犬と黒い猫を取り出して、アンクレイサーの斧とランクレイサーの槍を出現させた。


「わん」

「にゃあ」


 という合図の鳴き声を受けた。

 斧と槍を振り回すと、一撃でリックボアーを倒してしまった。

 死体となっている。

 死体にデバフを発動させてスキル回収完了。

 後は余った解体スキルを使用して素材に変換【ビッグボアの牙】を手に入れた。


「阿保か」


 透明なカナシーの手がリークの頭をぽんとかする。


「え、しまったあああああ」


 リークは事の重要さに気付く。


「ダメだ。僕が攻撃したら一撃だ。武器もこれしかない」


「お前には素手があるだろうが」


「カナシーは僕に死ねとおおおおお」


「あとカエデちゃんもいるだろうがああああ」


「う、うちですか!」


 リーク達は作戦を練り始めた。


 目の前に再びリックボアーが出現する。

 まずリークから先制パンチとばかりに。


「ドスッ」


 と嫌な音を立てて、ビッグボアーが倒れた。


「リーク強すぎいいいいい」


 カナシー思わず突っ込む。


「どうしよう、これでは、次はカナデちゃん行くんだ」


「はいです」


 別のリックボアーが出現、カエデちゃんが拳を振るって叩き落す。


「ドチャン」


 リックボアーは爆発して死亡した。

 ほぼ即死だったと思われる。


「リークよりつええええええ」


 恐らくこれはカナデちゃんの方が素手のスキルが高いからだと思われる。

 これにリークの付与した腕輪とかを装備させたら凄い事になりそうだ。 

 リークはふへへと妄想を繰り返していると。


「何を考えておるか知らんが、大ピンチだという事に気付いているか、これではモンスター牧場の意味がないぞ、リーク!」


「そこまで強く言わなくてもー」


「何を言うか、私はなモンスター達に追いかけられたいんだ。皆でわーわーやりたいんだ。あそこだと人間に懐くみたいだからな」


「逃げてくんじゃ」


「リークよ幽霊も人間も同じじゃ、分かるな?」


「は、はい」


 カナシーの瞳がマジにぎらついていた。


「さて、どうするか考えるのじゃ」


「そういえば、手加減パンチと手加減キックってスキルをおっさんから盗んだよ」


「それじゃ、ナイス盗み、ナイス盗賊!」


「それ誉め言葉なの?」


「きっと誉め言葉なのです」


 カエデちゃんが追記してくれたので、きっと誉め言葉なのだろう。


 リークはとりあえず近くにいたリックボアーに手加減パンチを炸裂させた。

 リックボアーは吹き飛ぶと、動かなくなり、ぴくぴくと立ち上がる。


「それ手加減じゃなくてほぼ死にかけパンチじゃん」


 カナシーが思わず突っ込むと、リークはうんうんと頷き。

 その時だ。異変が生じた。捕縛の腕輪が光、渦が巻き起こる。そこにリックボアーが吸収されていく。


「おおおおおおおお、これでモンスター牧場にリックボアーがいるぞ」


「凄いのう、これで動物たちに懐かれる未来が私には待っているぞ」


「さぁ、やりましょう」


 まずリーク達は草原地帯で片端からモンスターを手加減パンチと手加減キックでノックアウトして捕縛の腕輪で回収していった。

 草原地帯からモンスターがいなくなると、また沸き上がってくる。  

 そのサイクルはダンジョンならではの法則だった。


 ちなみにカナシーとカエデちゃんは後ろで応援しているくらいで何もしていない。


「ふぅ、疲れた。力の制御って難しいんだね」


「それはもう、当たり前だ。お前がおっさんをパンチしたらイチコロで殺人事件が発生するぞ」


「それは恐ろしいな」


「とりあえず、後でモンスター牧場に戻った時にでも、どんなモンスターを回収したか確認しよう、今は回収しまくる事を優先にしたいと思う」


「それもそうだな」


 カナシーはそう頷き。


「何か匂いますね、なんだろう、土煙のような」


「何か来る?」


 リークの眼前に広がる光景。

 無数の土煙。

 そこにはドラゴンが50体程走っていた。

 

「ドラゴンて空を飛ぶものじゃないのか?」


「あれは、スピードドラゴンじゃな、ああして速い者を競いあっているのじゃ」


「なるほど、でもあれ」


「こっちきますよおおおお」


 カナシーは遥か空に浮遊するだけで無事だが。

 リークとカエデちゃんは走り出した。

 リークの超人スキルにより、物凄く速く走って逃げる事が出来る。

 カエデちゃんが追い付けないかと心配したが。

 カエデちゃんは狼人間なので、四足歩行で高速で移動する。

 2人は並列しながら走っている。


「あの森に逃げよう」


「でもあの森、とても大きいです。1つの切り株がテルハレム王国くらいあります」


「巨大すぎて笑えるが、行くしかない」


 2人は走って走って走りまくると。果てしない切り株の周りをまわり、スピードドラゴンの走る方向から隠れる事が出来た。


 だがそこには10人くらいの冒険者の死体が転がっていた。


 リークとカエデちゃんは思わず悲鳴をあげそうになった。

 

 1体のリザードマンが立っていた。

 全身が宝石のようにぎらぎらと輝いていた。

 その光は果てしなく空の向こうにまで轟いていそうだった。

 

 そいつはこちらを蛇のような瞳でぎょろりと見た。


 リークは思わず鑑定していた。


【ダイヤリザードマン:レベル1200】


「あのーカナシーさん、これ聞いてないんですが」


「うむ、私も知らんぞ、レベル1200て」


「これってあれですか、オークハイキング並みですかね」


「おめでとうレアモンスターだ。そいつも捕まえろ」


「カナシーさん? お前バカですかああああ」


「ぐおおおおおおお」


 ダイヤリザードマンは尻尾をバネのように利用して、地面をはねた。

 高く空に昇ると、ダイヤの重さなのか高速で落下してくる。


「あれ、まじで捕まえるの!」


「無理ですよ、お兄ちゃん!」


「いや、きっとお前達なら捕まえるがんばるんだ」

 

 リーク達の遠吠えが響き、カナシーの意味不明な自信が響いた。


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