第9話 オリハルコン

 リークとカナシーが向かった先は、結構ぼろぼろの鍛冶屋であった。

 1人の老人がえっさほっさと声を上げながら、武器を製作していた。

 その武器の出来栄えはとてつもなく眩しかった。


「お主がリンネーだな」


「おじいちゃんだから、あっちがリンネーよ」


 家の片隅の影に隠れて椅子に座っていた女性がリンネーという名前だそうだ。

 タンクトップに作業着を身に着けており、ハンマーを片手に握っている。

 

「で、ひい爺さんの親友のカナシーさんが何のようだい」


「えええ、ひい爺さんの息子があの爺さんでその子供がきっとカナシーさんの親で、頭がおかしくなりそう、というか、カナシーは一体何歳なのさ!」


「秘密に決まっておろう」


「親ならとっくの昔に疫病でおっちんださ」


 リンネーがそう言った。 

 

「そうか、それは残念だが、私の目的はお前だリンネーよ噂は聞いているぞ、最高のインゴット製作所だろうここは」


「いんやあっちの鍛冶屋だ。爺ちゃんは手伝ってくれてるだけさ」


「それだけ聞ければいい、リーク出してやれ」


「はい、500金貨」


「ぶほ」


 リンネーは口から唾を吐き出して仰天した顔になった。

 カナシーはげらげら笑っていたが、老人はひたすら仕事をしていた。


「さて、交渉に入ろうか、500金貨で何を買うんださ」


「そんなのは決まっている」


 カナシーの口の端がにんまりと吊り上がった。

 リンネーはぶるっと鳥肌でも立ったのか震えていた。


「オリハルコンのインゴットを10枚よこせ」


「あんたバカかあああああ」


「それだけの金貨だと思うが?」


「まったく、今取りに行ってくるさ、あっちは地下に向かう、その金貨大事にしまっときな、交換する時に貰おう、このあっちが持ち逃げなんてする外道だと思われたくないからね」


「それはすみません」


 リンネーが鍛冶屋の地下に向かうのを眺めながら、老人はひたすら外で鍛冶仕事をしていた。

 暖かい風が吹き、涼しい風が吹く。


 老人は楽しそうにひたすら鍛冶をしている。

 まるで魂を込めているかのように、いつしかリークは見入っていた。


「少年、鍛冶に興味があるのか」


「はい、とても、興味があります」


「なら、良い事を教えよう、物を作る時、そこに魂が無い事を知らねばならない、魂を与えるのは鍛冶師の仕事だからだ。魂がある物に魂を与える事は出来ぬ。この剣は魂が出来上がった。わしの魂が入ったおかげだ」


 老人はにんまりと頷き。


「安心しろ少年、お前には才能がひしひしとある。それを感じさせてくれる何かがある。わかったな少年」


 そう言って老人、つまりリンネーの爺さんはそう教えてくれた。

 物を作る時、そこには魂がない、魂を与えるから物を作るとされ、魂がある物に魂を与える事は出来ない。


 不思議な言葉だと思ってリークは反復していた。


「さぁ、もってきたよ」 

 

 リンネーが持ってきたのは見たこともない色をしたインゴットだった。

 銀色と金色を混ぜたような不思議な色合い、純粋の輝きは感激を感じさせてくれる程だった。


「はい、500金貨」


「確かに受け取ったぜ、オリハルコンのインゴット10個渡すぜ、何作るんだ」


「僕の武器となる斧と槍だよ」


「ぶほ」


 またリンネーは唾を吐き出す。

 危なく顔面にかかる所を避けていたリーク。


「カナシーが関わってるから手取り足取り作り方を教わったんだろうが、オリハルコンを舐めるなよ、その硬さは鉄よりも鋼よりも銀よりも金よりも固い。そしてオリハルコンには魔物が住んでいると言われている。その魔物を上手く使役出来るかな?」


「やってみますよ、最高な相棒を沢山作るんですから」


 リークは胸を張ってうなずくと、リンネーは親指を向けて頷いた。


 リークとカナシーは10個のオリハルコンのインゴットを異次元倉庫を発動させて、そこに収納した。


 2人は雑談を交わしながら、幻想ショップに辿り着く。

 いつも通り異世界製作所に到着し、リークの心はドキドキとハラハラにまみれていた。

 

 考える暇もなく、カナシーは言った。


「いまから1週間、この部屋から出る事が出来ないと思え、命をかけてお前の相棒をふたつ作る。出来るな?」


「はい!」


「1つ尋ねる。なぜ剣をつくらない」


「剣術のスキルの数が少ないからです。斧術と槍術のスキルの数が異常にあるから、その分強くなれると思いました。それに僕は剣にこだわっていません」


「よろしい、ではイメージして作れ、基本は叩き込んだ。あとは想像性と独自性と根気だ」


「はい!」


 リークは鍛冶場を使ってオリハルコンの武器製作を始めた。

 炉を使っても全然柔らかくなる気配を見せない、何度も空気を吹き込み、肺が焼けるのではないかと思うほど。


 何度も何度もオリハルコンのインゴットを叩きつけては、何度も何度も繰り返した。


 全身に玉の汗を浮かばせ、シャツもズボンもぐちゃぐちゃになり、いつしかリークはパンツ1枚で鍛冶をしていた。


 皮膚が焼ける音が聞こえる。

 それでもひたすらハンマーを叩きつける。


 皮膚が焼けても回復スキルで少しずつ回復していく。


 空気が無くなりそうになったり、悶えてきそうになったりしてもひたすらハンマーや金槌や色々な物で殴る。


 普通の鍛冶の常識ではオリハルコンは通用しない。

 ありとあらゆる道具を使った。

 2日が立ち、4日が立ち、6日たった。

 

 全身から汗が流れ切ったかのような状態になる。

 もう汗は出てこないのではないだろうか。

 その時全身の中になる何かが動いた。


 それが魔物と呼ばれるものらしい。


 意識の中に浸透していき、体と頭を繋ぎ、そこに生まれる何か。


 空気を吸い上げ、空気を吐き出す。


 魔物を口の中から吐き出す。


 そこには斧と槍が置かれてあった。


 眼をかっと開き、心臓がドクンドクンと脈動を立てる。

 輝きが続き、その輝きがうごめき、その憎悪や怒りや楽しさや喜怒哀楽等が頭に叩き込まれる。


 そしてその魂をまとめて、武器に与えたものを吸い上げ、そして自分の魂を含めて与える。


 その時、斧と槍が完成した。


 リークの全身が脱力感と共に、足がくじけた。

 地面に倒れてそのまま意識を失いそうになり。


「まったく、あんたとんでもないよ」


「すまない、リンネーに1週間後来てもらうようにしていた」


 リンネーは異世界製作所にどかどかと入ると、リークを背負って、置かれてある板をベッド替わりにして横たえた。


 ボトルのような入れ物から塩水のようなものをゆっくりと飲まされる。


「おめでとう、あんたとんでもない武器を造ったわよ、魔力が宿ってる。それもとんでもない魔力、あの武器達はあんた以外使われる事はない、いや使おうとしたら、たぶんとんでもない事になる。あんたを主としている。名前を付けてやりな」


 リークはごくんと頷き。

 ゆっくりと立ち上がり、とぼとぼと歩き。

 腰を曲げて、名前を授けた。


「君は斧、アンクレイサーだ。君は槍、ランクレイサーだ」


 アンクレイサーの斧とランクレイサーの槍は眩しい輝きを放って、空間から消滅し、次の瞬間そこには白い犬と黒い猫がいた。


 その場にいた全員が唖然とした。


「嘘だろ、それは伝説に残るほどの」


 リンネーの呟き。


「この目で見るのは久しぶりだ。武器に与えた魂を具現化してしまうとは」


「というか、僕は犬と猫の魂を与えた訳じゃないぞ」


「それは具現化、付喪神と呼ばれてる。お前の願いや怒りや思いがその武器を動物に具現化させたのだ」


「ワン」

「ニャ」


 疲れ果てたリークは白犬と黒猫に囲まれて顔中を舐めまわされていた。


「これってさ、どうやって武器にすんの」


「大丈夫、武器にするとイメージしてみろ」


 カナシーがそう告げると。

 リークはそれをイメージした。

 右手と左手に斧と槍が収まっている。


「おめでとう、お前は幻の武器を手に入れた」


「ああ、ありがとう、リンネーさんも」


「いんやお前の力だ」


「さてと、また製作したいんですけど、その前にやる事があります」


「そうだのう、なにを?」


「商売人ゴンザレスの鑑定スキルを盗む事です。どうせリンネーさんに僕の事情説明したんでしょカナシー」


「まぁそんな所だ」


「ゴンザレスは危険だぞ、小さな村を盗賊に襲わせて、その村人の子供を捕まえて奴隷にしている。とんでもない奴だ。本拠地は草原村から出て、山の麓にお屋敷がある。城のようなお屋敷で、兵士が100人はいるぞ、いくらお前でも……」


「大丈夫です。どうしても鑑定スキルが欲しいんです。それに奴隷達も解放したいですし」


「そうか、力にはなれんが応援しているぞ、インゴットとかそういうものが欲しい時はいつでも買いに来い、割引してやる」


「ありがとうございます。とても助かりますよ、じゃあ、行きますか」


「ばかたれ、ちとは休憩せんか、飯でも食え、いつもの喫茶店でな」


「はは、まずは着替えますね」


 リークはとぼとぼと歩き出した。

 斧の付喪神アンクレイサーの白い犬、槍の付喪神ランクレイサーの黒い猫。

 2頭の相棒達はどこまでも付いていくとばかりにリークを追いかけた。


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