Runaway・D (後編)
「なんだ、意外と簡単じゃないか」
屋上。ファル=シオンは辺りを見回して、伏兵がいないか辺りを見回す。
体の周囲には、四つの水の輪が回転していた。
森の中に潜んでいたラストクロスの研究所。視界の端では、建物の窓から出ている黒煙が立ち上っていた。
「君しかいないよ。出てきなよ」
肉眼では捉えていない。相手の有する水分で分かった。
何も無い屋上の地面――が、ぐにゃりと歪んで、移動する。
「見えてるよ、水波刃(ウォーターブレイド)」
指先を不可視の敵へ向けると、ファルの周りに浮いていた水の輪の一つが鞭のように飛びかかる。
水の鞭が地面を切り取った。同時に鮮血が飛び散る。
不可視だった敵が姿を現した――カメレオンと合成した改造人間だったようだ。
周囲の色と擬態した姿が、死体となって現れる。
「ジャベリン1も、この程度なら大丈夫かな?」
先ほどから聞こえていた爆音も聞こえなくなっていた。智が暴れすぎて建物ごと破壊してしまうのかと心配だったが、ファルは任務がほぼ完了したことに満足する。
麻人への制裁は別に、他の任務では適度に達成させておかなければ、最悪ジャベリンが解体されてしまう。適度に成功と失敗の加減を保っておかなければ。
なにぶん、組織の上層を目指しているわけではない。自分がここでソーサリーメテオの構成員であるのは、全て姉のためだ。
裏社会ならば、病に侵された双子の姉を治療できるはず。だからこうして、自分自身が組織の構成員になっている。
第二呪文に目覚めた事は自分でも意外だったが、それでも組織の幹部としての忠誠心も無ければ昇進なんて目指す気も無い。
もし、このまま麻人と一緒にいてその間に姉が完治したのなら、仏頂面で説教をたれてくる麻人と組んで、姉と一緒に組織を抜けることも――
風が慌てたように吹き荒れた。
頭の上を見上げると、巨大な蝙蝠がいた。
いや――
蝙蝠の形をした飛行機体――マンバット。
たしか、大崑崙という裏社会の組織が作り上げた小型ジェット機だったと思い出す。
ファルはそのマンバットから二人の人影が飛び出したのを見た。
こちらと対峙するように、その二人が着地する。
感嘆の声を漏らすファル。
「へぇ」
二人ともラストクロスの幹部だった。服装で分かる。
片方は十分に成人したオールバックの人間。ただしもう一人は、片腕が巨大な甲殻類の腕と鋏になっている改造人間だった。
あくまでも見た目だけの判断。
オールバックの男は、見た目はそのまま、人間としての形を保っているが、その中身……保有する水分の様子で、この人間も改造人間だと分かる。明らかに人としての基準をはるかに超えた体躯が収まっていた。
「天秤座と、蟹座ですか」
一気に幹部が二人も出てきた。
ここは天秤座の領地なのは知っていたが、天秤座の他に蟹座も現れた。
「戦果を挙げて昇進する気は無いのですが」
独り言のつもりだったが、聞こえていたらしい。
「おい、どーするライブラ? やっこさんかなりデキるらしいぜ」
片腕が甲殻類の鋏になっている男。蟹座が隣にいる天秤座の幹部へ言っている。
天秤座のほうは、こちらから視線をはずさないまま、蟹座を手で制した。
「ここは私の領域だ。始末は私がつける」
天秤座の男が前に出て、構えを取った。
相手はラストクロスの幹部。今までの雑魚とは違う。用心して本気でやっておこうと、ファルは胸中で緊張を高めた。
「来い! 青き翼竜(ブルーワイバーン)!」
水の輪が形を崩し、今度はファルの体に張り付く――水が鎧の形を成し――第二呪文ヴァリアブル――変身が完了する。
ファルの変貌した姿を見て、蟹座が口笛を吹いてきた。
対する天秤座は、構えを崩さず静かに見据えていただけ。
天秤座は半身の構えで視線を向けているものの、どこか捕らえ所が無い、こちらに向いていてもこちらを見ていないといった眼で、ただ静かに。
――目の前に現れた。
「ッ!」
一瞬。目を閉じまた開いたその間に、天秤座の幹部はファルの目の前で身を低くした構えを取っていた。
速い――
そう思った直後。
ファルの体が爆発した。自分の意思に反して。
体がその場で引きちぎられるような衝撃に襲われ、まとっていた水の鎧が四散する。
ファルが意識を失うと、今度は地面を激しく転がる衝撃で意識を取り戻した。
何が起こったのか把握できない。見えなかった。
一瞬で肉薄してきた天秤座が見えただけ。自分が何をされたのかも分からないまま、ファルは爆発するような衝撃と、地面を転がる衝撃を連続で浴びせられた。
何が起こったのかわからず体勢を立て直し、今しがた自分がいた場所―天秤座へ向く。
「ほう、頑丈だな」
落ち着き払った天秤座の声。
ラストクロスの幹部、天秤座は未だに身を低くして、拳を腰だめに構えた姿勢のまま。今ゆっくりと体を起こした。
天秤座の手には、何も無い。武器すらも無い素手だった。
まさか、ただの拳打だったっていうのか!
ファルの第二呪文、ヴァリアブルで作られた水の鎧は、激しい水の流れを起こしているため、弾丸ですら余裕ではじき返す。はずだった。
鎧の水流よりも速い拳打だったとでも――
ファルの思考はそれで遮られる。
また一瞬で天秤座が目の前に現れた。正面上方。
横に飛んで回避する。
が――
天秤座が振り下ろしてきた踵で、逃げ送れた右腕が当たる。
腕から硬いものが折れる音がした。
時間差でやってきた猛烈な腕の痛みに、ファルが折れた腕を抱えてうずくまった。
「おいおい、相手は子供だぜ」
観覧していた蟹座の野次が飛んできた。
だが、天秤座はそれを無視したまま、ファルを見下ろしている。
本当に、素手で……なのか
激しい腕の痛みに苛まれながら、ファルは周囲に飛び散った水を呼び集め、対して天秤座は後方へ飛んで距離を開けた。
「水波刃(ウォーターブレイド)!」
刃のように鋭い特性を持つ水の鞭が、天秤座へ襲い掛かる。
それを天秤座は――事も無く避けた。
「くそ!」
さらに激しく跳ね回すように、支配している水を操るファル。
それでも天秤座は、跳ね回る水の鞭の中で避け続けていた。薄皮一枚ですら傷を追うことも無く。
「くそ! くそ! くそっ!」
当たらない。一撃たりとも当たらない。
ただひたすらに自然な動作で、こちらの水の鞭を避け続けながら、歩み寄るような速度で近づいてくる。ありえない。ファルが心底っそう信じられないような簡単な動作で、天秤座が目の前まで寄ってきた時。
一瞬だけ天秤座の幹部が視界からブレたように見えて――肉薄していた。
「ふんっ!」
天秤座が息を吐いて、また目の前が爆発した。
7:
「…………」
遠くまで転がっていくソーサリーメテオの構成員を見てから、ラストクロス幹部、天秤座の東条静哉は自分の足元を見た。
本当は今の拳による一撃で、この水を操るソーサリーメテオの構成員の腹に風穴を開けてトドメを刺すつもりだった。
だが、それは防がれた。
拳を構成員に叩き込むその隙間に、地面から伸びた石版が現れ、構成員へ送った必殺の拳の威力を削いだのだった。
今は石版は砕けている。
――見覚えのある能力。
東条は蟹座、キャンサーの方を見る。彼はまだ生きていた。
もし、これが思い当たる相手の妨害だったのならば、経験上キャンサーは死んでいると判断したうえで、まずそちらを見やった。自分と同じラストクロス幹部の蟹座は、まだ生きていて、あさっての方向を向いている。
東条も、キャンサーの向いている方向へ視線を移した。
キャンサーは死んでいない。しかし、視線の先には思い当たる人物が立っていた。
「…………」
静かに、ただし真っ直ぐに。現れた黒いコートの男を見る。
「……セイバー1」
現れた黒コートの男。セイバー1こと洸真麻人へ向いて、東条は半身の構えを取った。
「争う気は無い」
現れた麻人が、そうぽつりと言ってくる。
麻人は肩には、まるで大袋を担いでいるかのように別の構成員らしき人物がいた。
東条が静かに返す。
「組織を抜けたと聞いていたが、どういうつもりだ?」
セイバー1である麻人が組織を抜けて逃亡中と聞いていた、その情報源であるセイバー2は嘘を言っていたのか?
「確かに組織を抜けたが……成り行きだ」
苦笑交じりの麻人の声。さらに続けてきた。
「今はこいつらに、能力のいろはを教えている。無謀な任務から回収をしに来た」
あまりにも無防備に近づいてくる麻人。そのままこちらの脇を抜けて、今しがた倒した水の能力者の下へ歩いて行く。
それを目で追って振り向くと、麻人は敵であるこちらに背を向けたまま、肩に担いでいた構成員を地面へ下ろした。
水を操る能力者が苦悶の声を漏らし、生きていることを確認する麻人。
「少し待っていろ」
水の能力者へ言った後でまた立ち上がり、麻人はこちらへ向き直った。
「うちの教え子達が迷惑をかけた」
「どういうことだ?」
状況を見定める必要がある。一つは自分の研究施設が襲撃された事。襲撃してきたのはソーサリーメテオ。それを撃退した。
だが、現れたセイバー1……元ソーサリーメテオの怨敵が現れ、加勢するのではなく、この二人を回収しに来たと言って、今現在無防備な姿をさらしている。
「そうだな、まずはどこから話したものか」
麻人があごに手を当てて、考え始めると。
「お前があのセイバー1か」
東条の隣に並んできたキャンサーが、麻人へ声を投げた。
「ああそうだ。お前が蟹座か、初めて見るな」
「よく分かったな」
「それだけデカイ得物を持っていれば、分からないわけがない」
「ちげぇねえ。あんたはどんな曲者だい?」
「……どうやら、あの阿呆も迷惑かけているようだな」
肩を少しばかり落とした麻人。
「いいや、今こっちは忙しくてな、協力を申し出てきた。セイバー2とは今は、一時的な協力関係になっている」
これは駆け引きだ。と東条は判断した。こちらの情報をちらつかせて、かつ興味をそそるような言い回しで誘い、相手の情報を得る。
しかし――
「そこはあまり興味が無いな。むしろどうでもいい」
本当に投げ捨てるような言い方だった。
ついでに麻人は肩をすくめた。こちらの意図を読んで、本当に関心を持っていないと。
「なんだ、つまらないな。……いや、これはこれで面白い」
「忙しいときに、判断に困ることをさせてすまない」
「まあいいさ」
キャンサーが早々に話題を切り替える。
「ならそれなりに、これはどういうことなのか説明してくれるんだよな?」
キャンサーの言葉に、麻人が頷いてから答えた。
「この任務……ソーサリーメテオから来たこの任務には、いくつか不審な点がある」
さらに麻人が続けた。
「まず、この二人にはどう合っても達成できる任務ではない。この二人はあまりにも未熟すぎる。所属していた手前、上層がそんな物の見えない判断をするとは考えられない。そして、ここが一度落とされた場所であるにも関わらず、再度襲撃を行ったという点だ」
一度落とされた場所。
麻人のその言葉に、東条はこめかみの辺りの筋をひくつかせる。
開きかかった口が止まったのは、キャンサーがこちらをちらり見たからだった。
「この二人には、明らかに実力にそぐわない任務であるという事。そしてここでさらに破壊活動を行う無意味さ。この任務は明らかにおかしい」
「ならば――」
東条が口を開く。
「ならばこの状況を、貴様はどう見る?」
とりわけ周囲を見回して分かることでもなかったが、一度麻人が辺りを見回してから、こちらへ視線を戻した。
「それは、そっちの『忙しさ』で、思い当たる節があるのではないか?」
丁度ラストクロスの部下達が、この屋上へやってきた。
一斉に構える部下達を、東条は手だけで制す。
集まってきた足音がひとしきり響いて、また声だけが交わされた。
「俺が判断するに、この任務はソーサリーメテオ以外の誰かが情報を操作して、この二人を使ったのだろう……。でなければ、こんな明らかな戦力差で、返り討ちにあうとわかっていて、この二人を投げ込んだりはしない」
「情報が操作された……と言うのか?」
「そうだ」
あっさりと返した麻人。
「自分の組織の粗を言うのか?」
「残念だが、もう組織の人間ではない」
言った事の重大さを知りつつも、麻人は肩をすくめた。
「おそらく、これは推測だが……ソーサリーメテオでも、ラストクロスでもない誰かが、ソーサリーメテオへこの任務を仕込み、ここを襲撃させ、片方かもしくは両方に、都合が悪くなる事を、もしくはそうすることで、その首謀者の都合が利を得るのかもしれない……その思い当たる節は、そちらによるのではないか? たとえば、お前達をここに留めておきたい。首謀者は別の場所に目的がありその場所を狙うため。その辺りがセオリーか」
最後に麻人は「特に興味は無いが」と付け足した。
キャンサーが聞く。
「その俺達の思い当たる節に、お前の相棒が一枚噛んでいるとしてもか?」
「それならば尚の事だ。どうでもいい」
「そうかい」
キャンサーが麻人の返しに苦笑し、お手上げとばかりに片腕と大鋏を広げた。
「わかった、連れて帰れ。こっちはそれどころじゃない。お前の思う通りにな」
「分かってくれて助かる」
麻人がきびすを返そうとしたとき、
東条が動いた。
一瞬の動きで東条は麻人へ肉薄して――彼の首筋へ手刀を突きつけた。
「…………」
「…………」
麻人が無言で、首に当てられた東条の指先を視線だけで見下ろす。
緊張の糸が張り詰めていく。
「このまま帰すと思うのか?」
「ここで帰さなければ、お互いに困るだろう?」
視線のやり取り。
数秒か、数十秒か。
そんな時間が流れて、東条がまた口を開く。
手刀を突きつけたままで。
「馴れ合う気など無い」
「俺も無い」
「お前たちは、俺が倒す」
「ならば俺は逃げるとしよう」
麻人が身を引いて、東条が追おうとした時。
「動くな!」
キャンサーの声が飛んできた。
東条が気が付く。
自分の足元――その周囲の地面から現れた針――石でできた無数の針が、東条の下半身を針の筵にしていた。
少しでも動けば、針が脚に腰に突き刺さる。
ソーサリーメテオ部隊名『セイバー』の、コードネームセイバー1だった元構成員、麻人が言ってきた。
「俺はあのアホほど甘くは無い。どうせ今と同じ事をしたのだろう?」
東条が叫ぶ。
「セイバーズ!」
「俺はもう、ソーサリーメテオではない」
動けなくなった東条を尻目に、麻人が背を向ける。
と、背を向けたままで、麻人が口を開いた。
「そうだな、たとえば……もし、お前があのアホを倒したのならその時は、お前の顔を見に来てやろう」
「――ッ!」
それを最後に、麻人は襲撃してきたソーサリーメテオの構成員を引きずりながら、屋上から飛び降りて消えてしまった。
東条は握り締めた拳を震わせ、それを見送るしかなかった。
先代の天秤座、師である先代が倒された場所で、
倒した男の一人を、見送るしかなかった。
8:
真夜中の公園、向いに池のあるベンチへ二人を下ろした。
ちょうど座っていたティファニーの腿に、智の頭を預ける。ファルの方は意識を取り戻していたため、地べたに座ってベンチの足に背中を預けてうなだれていた。
麻人の隣にいた実咲が。
「大丈夫なの?」
「命に別状はない。ファルの腕は完璧に折れているが、石を巻いて固定した」
ファルの腕の一部分に、石でできた腕輪のような物があった。ここで骨が折れているとわかる。添え木の代わりだった。
そして麻人はベンチの向かいにある、年季の入った池のふちへ向かった。
池の水面が揺れはじめ、徐々に水面が盛り上がっていくと、その盛り上がった水が人の形を成す。
「お久しぶりですね。セイバー1」
女性の声音。人の形をした水もまた、髪の長い女性の形だった。
「アクア=Q(クイン)」
自分のことを未だに構成員としての名前で呼ぶアクア=Q。だが、特に気にする様子も見せず、麻人はアクア=Qの返答を待った。
「任務の情報操作について、本来の任務とすりかわっていました。本来『ジャベリン』に行ってもらうはずだった任務は、別の部隊を向かわせています。そろそろそちらの報告が来るでしょう」
「そうか」
アクア=Qはいわゆる信者だ。組織内で組織と能力を崇拝している。以前に初見したときに、麻人はそう感じていた。
「セイバー1、そろそろ組織に戻りなさい。今なら『休暇』として取り計らいましょう。この件に収拾をつけた事は、きっと善処するものとなります。そーサリーメテオへ戻りなさい」
「もし――」
麻人が話題を変えた。
「俺が行かなかったとしたら。あんたはどうした? あの二人はどうなっていたと思う?」
その答えにアクア=Qは、即座に落ち着き払った声で答えた。
「我々に与えられたこの力は、まだまだ完全なものではありません。私たちは能力を与えられ、より高みを得るための『ふるい』にかけられているのです。もし彼らが命を長らえられたのならば、それはまだ彼らにより高みへ上る運命を持っていたからなのでしょう」
「……そうか」
麻人は正面アクアQ――の作り出した水の塊から目を伏せた。
「あんたは任務の不備を知っていながら、そして彼らを助けられる範囲であったのにもかかわらず、傍観していたということか」
「彼らの運命。能力を授かったその流れに逆らってはいけません。もし彼らが命を失ったのだとしても、それもまた――」
「もういい」
アクア=Qの言葉を、麻人は切り捨てるように言い返した。
数秒の沈黙が場に流れた後、アクア=Qが再度口を開く。
「セイバー1、あなたはこのまま、未熟な彼らに能力の指導を行いなさい。任務があればその補助にも参加してもらいます。フレイム=Aへは私が伝えておきましょう。このままもうしばらくの『休暇』を過ごし、任務が下るのであれば追って伝えます」
麻人が、深い深呼吸をした。
息を吐く時間が長い深呼吸を。
「わかった、このままあいつらに指導をしていこう」
「ではそのむねは、私が――」
麻人が声を張る。
「だが、これだけは言っておく」
麻人が自分の胸に手を当てると、純白の光が発生し、胸の中に現れた剣の柄を一気に引き抜く――現れたのは純白の剣――すべての能力を切り裂く力を持った『魔人剣』
麻人の第二呪文。
「お前の頼みを聞いておいてやる。だが、俺に命令できる人間はただ一人。フレイム=A=ブレイク、ただ一人だけだ!」
手に持った魔人剣を、アクア=Qが作っている水の塊へ叩きつけるように振り放った。
アクア=Qの支配していた池の水が四散し、水飛沫が雨のように水面を揺らす。
辺りが静かになって、アクア=Qが現れないとわかると、麻人は魔人剣を手元から消し、ティファニーと実咲、智とファルのいるベンチへ戻った。
麻人が智とファルへ。
「そういうことだ、俺のおぼえた技術、経験をお前たちに教えてやる。ただし、それはお前たちが自分自身に活用する気構えでなければ、何の事にもなりはしない。無意味な授業でしかない……それはお前たち次第で、俺はそれをどうこうする事はできない。俺ができるのは教えられるものは教える」
そして麻人は最後に。
「教わる気があるのなら、ついて来い」
麻人は実咲へ視線を一度向けて、実咲と共に部隊名『ジャベリン』たちから離れて行く。
麻人と実咲の背中を見送ってから、ティファニーは智とファルへ。
「身の程ってもんを身に染みて分かったでしょう? あんたたち。私はファルがリーダーである以上、あんたたちを置いて行くことはできないわ。あんたたちが決めなさい」
智はとっくに意識を取り戻していた。手の甲を額に当てて、ずっと麻人とアクア=Qのやり取り、そして今の麻人の言葉を聞いていた。
ファルもうなだれた姿勢のまま、聞き入っていた。
二人とも黙りこくったまま、ただ静かな公園が広がってく。
「…………」
ティファニーが智とファルを交互に見て、
また口を開いた。
「……そんなにしょげてると、なんだか慰めたくなって『たって』きちゃうわね」
ガバッ! バッ!
ティファニーの腿を枕にしていた智が起き上がってベンチから飛び出し、ファルが一気に立ち上がり、智とファルは麻人と実咲を追って全速力で去っていった。
「若いって良いわねぇ、やっぱり」
頬に手を当ててニヤつきながら、ティファニーはベンチから立ち上がり、彼らを追って歩き始めた。
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