第八話 麻人編2
Runaway・D (前編)
1:
「その子、誰?」
「麻人の隠し子だってよ」
「この馬鹿は何言ってるのかしら? 馬っ鹿じゃないの、この馬鹿が」
「……三連続かよ」
犬崎智はうつ伏せで倒れたまま、減なり顔をした。
「いつまで休んでいる、早く立て」
目じりを吊り上げている実咲の隣に、麻人が並んで立った。
「情けないわね、まったく」
実咲がきびすを返すと、ショートカットの髪がふわりと揺れ、先に行ってしまう。
「……これ、ガチで死ぬんだが」
真夏日に長袖の上着を着込んで這いつくばっている智が、腕を動かして起き上がろうとするが、腕が震えて起き上がれなかった。
上着の中は膨らんでいて、智の格好はずんぐりした体形になっている。
「集中しろ、体感重量を軽減するんだ」
麻人が短く言うと、智のすぐ脇で見ていた幼い男の子が麻人を見上げて尋ねてきた。
「ねぇねぇ、なんでこのお兄ちゃんこんな格好なの?」
「それはね、彼は今『修行中』なんだ。邪魔したら駄目だよ」
にこやかに麻人が返答すると、男の子は素直に「はーい」と言って去って行った。
男の子がいなくなると、麻人はにこやか顔から厳しい顔つきに戻して、
「腕力で起き上がろうとするな、服の中にある『石』を支配し、体に掛かる重量を減らすんだ」
麻人は口調は厳しいものの、特に怒っている分けではなく、むしろ教え込むような話し方だった。
「わかってるけど……なぁ!」
言われた通りに、智が上着の中に仕込んだ『石』を支配する。ごきりべきんと、服の中で『石』が支配され操られる破砕音がした。が――
「まだ雑だ。音を出すな」
ぴしゃりと言ってくる麻人に脱力して、智がまた地面へべしゃりと倒れこむ。
その様子を見て、麻人は目を伏せて首を振るしかなかった。
「いつまでやってるの、もう」
実咲が戻ってきた。隣には――
「ほんともう、汗が出ちゃって参っちゃうわ」
「そうよねー、ティファ」
ティファニーと呼ばれたは、黒い網目シャツに皮のパンツの……オカマだった。
「暑苦しい」
麻人が避けるように目線を頭ごと逸らすと、そのオカマが不満気味に言い返す。
「それはあなた達のほうよ」
今度は智が、地面に伏したまま、
「お前の名前がティファニーとか、偽名でも納得できない」
「失礼しちゃうわ。まぁ言われるのは慣れてるけど」
「人の名前にケチつけるなんて、本当に失礼ね」
実咲がティファニーの味方に付いて、さらにティファニーと一緒に首を傾けながら「ねー」と合わせる。
「…………」
「…………」
智と麻人が一瞬だけ目を合わせる。どちらも、どうすればいいのか分からないと言ったアイコンタクトだった。
「ってかよ、何か飲み物くれ……干からびる。マジで……」
真夏の炎天下の中、長袖の上着を着込んで、さらに体中に『石』の重りをつけてぐったりしている智。じりじりと熱気が立ち上るアスファルトは、よく見ると智の汗で湿り始めていた。
「もう少し行った所に公園があったわよ。水飲み場ぐらいあるでしょ?」
そう言う実咲は、肩に下げていたバッグから緑茶の入ったペットボトルを取り出し、蓋を開けて一口すると、またバッグの中へ放り込んだ。
「…………」
智がその様子を恨みがましく睨んだが、実咲はひらりとした足取りで、
「さっさと行きましょ」
「がんばってね~ぇん」
実咲とティファニーが、麻人と智を置いて、先にあるであろう公園へ向かっていった。
それに続いて、麻人も智へ背を向け、
「なら、公園に着いたら休憩にする。あともうひと踏ん張りだ」
実咲とティファニーを追うように、麻人も去って行った。
「……鬼どもめ」
地面に未だ伏した状態の智は、口元を引きつらせて奥歯を噛む事しかできなかった。
「死ぬ」
胃からこみ上げて吐きそうなほど水を飲んだ智。日陰のベンチでぐったりしていた。
「……こんなんで、本当に能力が上達すんのかよ……」
かすれた声で、智がうめく。
「こんな訓練やって、本当にどいつらも力つけたってのか」
「そんなわけないでしょ?」
即答したのは、智を見下ろしながら頬に手を当てているティファニーだった。
「おい……」
「少なくとも、私は言われた事はできてたから」
「…………」
「アンタはそれほど『どべ』って事なのかしらね。ねぇ先生」
そう言いながら、ティファニーは麻人のほうを向く。
彼は彼で日陰に入らず、芝生の上で立ったまま黙考していた。
「うん?」
遠くを見るような目で集中していた麻人が、ティファニーの呼びかけでこちらを向く。
「生徒の成績はどのあたりなのかしら?」
「ふむ」
麻人が腕を組みつつあごに手を当てて、ぽつりと。
「下の下だな」
「最下位だって」
麻人とティファニーが二人して言ってきた。
「……くぅ」
今にも泣きそうな声をもらした智。
「だが、まだ基本が不十分なだけで。基盤を固めてみないと分からない」
「フォローになってないわよ」
これは実咲だった。
ベンチが辺りに一つしかなく、ぐったりした智が独り占めしているため、彼女はベンチの後ろで背もたれに座っている。
「地の能力は、一度に多くの石材や金属……無機物を操れる。そして『量』よりも、本当は『質』のほうが重要度が高い」
麻人が智の方へ歩み寄り、説明し始めた。
「瞬間的に『石』を支配する瞬発力。素早く形を変えられるスピード……目標に気づかれない隠密性。それからできる限り無音で……滑らかに形を変える、繊細さと集中力」
麻人がうらつらと講義弁をしている最中、実咲とティファニーがそろって智の顔を覗く。
「実際のところ、目標を押し潰す大質量を操るなど、効率として正しくは無い。目標がそれほど巨大でなければな……相手が生物ならば、錐ほどの針ですら十分に武器になる」
智が麻人に聞く。
「じゃあよ、先生様もこんな特訓して強くなれたんですか? 本当にこんな拷問をやったんですか?」
智はぐったりしつつも、目元だけは麻人に対する不満と反発を露にしている。
「先生様が実際にやったこと無いんじゃ、俺もできませーん」
「…………」
ティファニーが「あきれた……」と呟き、実咲も「子供ね」と馬鹿らしいと言わんばかりに首を振った。
ティファニーが智へ。
「あんたさぁ、仮にも教えてもらってるんだから。ちゃんと言うこと聞きなさいよ」
「へっ。こんなんやってられるかっつうの。死ぬわマジで」
智の子供の抗議にしか取れない反論。
――に、麻人が口を開いた。
「まぁ、実際はやったことは無いが――」
「じゃあ、俺も付き合う必要ないわ」
「だが――」
麻人が智にかまわず、言葉を続け、
「俺の最初の頃は、無人島で何日も殺し合いをさせられたな」
「は?」「は?」「はぁ?」
ティファニー、智。そして実咲も初耳だったのか、そろって疑問の声を上げた。
「いや、しっかりと言うと……無人島に放り込まれ、『自分の能力で倒せ。相手は生き残るためにお前を殺しに掛かってくる。生き残りたくばどんな手段を使ってでも倒せ』と、そこにいた相手が誰かも分からずに、何日も殺し合いをさせられた」
「…………」「…………」「…………」
聞いた三者が、その状況が上手く飲み込めず、嫌な予感を覚えつつ眉根を寄せていた。
「向こうも同じ事を言われたらしく。まともに会話をするまで、何日も昼夜問わず狙い、狙われ続けた」
無人島に放り込まれて連日連夜、つたない能力操作で戦い合った相手。その相手が誰なのかを、察した実咲が呟いた。
「その相手って……」
「ああ、あいつ……セイバー2だ。それであいつと組む事になった」
肩をすくめた麻人。
「アンタよりも、もっとキッツイ事してたんだってよ」
ティファニーが智へ、
「…………」
智はとっくに、げんなりして言葉を無くしていた。
2:
ティファニーと智は、それぞれ部隊名『ジャベリン』の1と2だ。
同時に彼らは、ソーサリーメテオから組織抜けした麻人を抹殺するために、送られてきた刺客部隊でもある。
しかし、彼らでは能力が第二呪文まで発展している麻人の実力に対し、まったく実力が及ばなかった。そして、先日の一件……麻人と部隊名(チーム)『ジャベリン』との戦いの後――
本来敵同士であるのにも関わらず麻人は、能力の扱い方をジャベリン2である犬崎智へ教えるという、そんな現在になっていた。
この奇妙な馴れ合いは、部隊名『ジャベリン』側のぐだぐださによる所もあった。
彼らは組織の中でも『はみ出し物』の部類であり、この部隊名『ジャベリン』は、明らかにそんな彼らを寄せ集めただけの部隊。だった。
「何でこんな奴等が来たんだ……」
麻人が肩を落としてため息を漏らす。
「あら? 恋人を連れて、ガチにやり合うよりかは、良かったはずよん」
頬に手を当てながらティファニーが言ってくる。
「……お前らが言うな」
こんなくだけた調子の部隊名『ジャベリン』たちに、麻人はなんでこうなったのかと、ため息を漏らした。
そして昼間の基礎特訓を十分以上に練習させたあと。
「始めようか」
時間は深夜近くの頃。
未だ、昼間に休憩を取った公園に残っていた。
場所も広く取れ、模擬戦闘をするのに丁度良い。
「じゃあ、音が外へ漏れないようにするわよん」
これはティファニーだった。
智は本当にこのオカマの本名を知らない。同じ部隊なのだが。
重たく動くような風の音がした後、周囲が張り詰めていく。
この芝生を円形に、分厚い空気の層が出来上がっているのだと、目では視認できないものの、気配で感じ取れた。
「ついでに、外部からはちょっとぼやけて、見辛いようにしておいたから」
「ありがとう」
ティファニーのサービスに、麻人が短く礼を言った。
「私の風を壊さないようにしてね」
「問題無い。それほどこっちも使う気は無い」
それは明らかに、こちらに対する完全な余裕だった。
「智」
麻人がこっちを向いて、腰に手を当てたまま――まったくの無防備な姿で行ってくる。
「来てみろ」
力の差は歴然と解ってはいても、ここまで上からものを言われているといい加減腹が立つ。
「吠え面かかせてやるよ!」
地面へ向かって手を突き刺し、
「ふうううううう、らぁ!」
突き刺した地面を支配して、一気に持ち上げ、砂埃と芝を撒き散らしながら一気に形を整える――出来上がったのは、巨大な槌。土砂でできた大ハンマーだった。
「どうだ」
これでも支配から成形までのタイムラグを短くできている。形の雑さはあまり変わらないが、時間を短くして作るためには、多少の――
麻人がため息をこぼして頭を垂らした。
「あんだよ?」
こちらの問いに、麻人が静かに首を振った。さらにその背後を見ると、ティファニーまでも額に手を当てている。
「智……」
麻人が呟くように。
「教えたことを活用しろ……」
「う……」
言葉に詰まる智。
これでも、作り上げる時間は短くできているのに、何が駄目なのかが、さっぱり分からない。
「その予備動作はなんだ?」
「え?」
「なんで地面にわざわざ手を入れて持ち上げた?」
「えっと」
「体感重量を減らしたのか? 支配しているのにもかかわらず、どうしてそんな重苦しく持っているんだ?」
「う、っと……」
「麻人ちゃん」
ティファニーがフォローを入れてくる。
「まだ、ちゃんと支配しているという実感と感覚がつかめていないのよ」
「ああ、そうか」
ちゃんと支配している、こうやって実際に大量の土砂を持ち上げて、ハンマーの形に出来上がっているのに。何が足りないと言うのか? 確かにまだ不出来だが……。
麻人がティファニーからこちらへ顔を戻して、言ってくる。
「しっかり支配しているのならば、そんな予備動作は必要無い。たとえば――」
麻人が話を続けつつ、足元の芝生へ視線を落とすと――それだけの動作で、視線を向けた地面から一本の長い棒が現れる。
「こういうふうに、だ」
麻人が地面から現れた棒を手に取り、こっちへ先を向けると、それはしっかりと多角形になっている棍だった。
何の予備動作もなく……あったとすれば支配した部分を見ただけの動作。それだけであっさりと地面を操った麻人。
「支配しているのならば、大した動作も要らずに『素材』を操れる。それこそ自分の手足のように」
「…………」
「だから昼間に『石』をくくりつけて、常に体感重量を軽減させる訓練……長時間支配するという事をさせていたんだろう」
開始早々、ダメ出しのダメ出し尽くしだった。
「まあ、いい。そのまま来てみろ」
「おう……」
へこみそうな気持ちを奮い立たせ、再度麻人へ構え直す。
麻人からは来ない。待ち構えているだけ。
「おおおおっらああああああ!」
土砂でできたハンマーを振り上げ、一気に麻人へ向かって振り下ろす。
加減はない。
――ドンッ!
そんな音がして、振り下ろしたハンマーが麻人に命中する前に止まった。
「同属性の相手と戦う場合『地』の能力者は、支配する事によって支配権がいくらでも、どちら側にでも転がる」
そんな説明を続けながら、麻人はこちらのハンマーを――棍の先だけで受け止めていた。
「相手が支配した『地』を、その支配権を奪い取るには、より強い能力を込めて奪い取れる。逆に奪われることに対抗するにも、同じように支配を強めて抵抗する」
今、自分が持っているハンマーはとてつもなく重たい……体感重量の軽減ができなくなっているという事は、自分の作ったハンマーの支配権が、完全に麻人に奪われていることの証明だった。
いつ支配権が奪われていた? 向かい合っていた時? 振り上げたとき? ――いいや、そこですでに奪われていたのなら、振り上げることができなかったはずだ。
麻人はハンマーが振り下ろされたその瞬間に、棍で突くと同時にハンマーの支配権を奪った――
ハンマーの表面に棍を突き刺したまま、麻人が手軽な動作でハンマーを棍の先で持ち上げた。
見るに、彼に掛かるはずの重量がまったく感じられない。
「支配から成形完了までを、ほぼ一瞬でできるようになるのが理想だ。複雑に操るほど、指令呪文コマンドスペルや、補助できる道具ツールが必要となってくる。まだ単純な物を成形するうちは、できる限り自然体で、素早くできるようにしろ」
それが当然だと言うように、あっさりと言ってくる。
「そ――」
もう、我慢の限界だ。
「それができたら! 苦労してねぇよっ!」
地面へ拳を叩きつけて、勢いのまま地面を操る。
麻人の左右から土くれでできた壁が出現し、激突させる勢いで彼を挟む。
土くれの壁が、麻人を挟んで砂埃を巻き上げた。
もうもうとした土煙。その場にいた全員が静まった。
が――
土くれの壁を一瞬でばらばらに崩して、麻人が無傷で姿を現した。
「ダメだ」
砂だらけの格好だが、まったく驚いた様子も見せていない麻人。
「く……」
手も足も出ないとは、本当にこの事だ。
智は未だ地面に拳を叩きつけた格好だが、いつの間にか肩が下がって頭を垂れる格好になってしまっている……だが。
せめて、一矢だけでも――
「だから、何度も」
また口を開いた麻人が、とっさに頭を傾けて飛んできた物をかわした。
「……そうだ」
半身になっている麻人が、静かに言う。
「これだけでも、人間には致命傷を与えるに十分だ」
麻人が急に回避した物は、
俺が、とっさに地面から伸ばした『針』だった。
針といっても、先端が鋭く尖っているわけではない。むしろ、ただの不恰好な棒切れのような形。
だが、これだけの事が麻人にとって、とっさにかわす事だったらしい。
「能力者同士の戦闘は、その能力による攻撃力の高さ故に、一撃一撃が致命傷になりえる。見方を変えれば……相手より早く、あるいは隙を突いて、攻撃を入れることができれば、ほぼ優位に立てる。一撃で倒すこともできる」
「う……」
もう、麻人へ隙を突いた攻撃は不可能になっていた。
なぜなら麻人はすでに、ここら一帯の地面をすべて支配しているのだから――
「『地』の能力だからと、大きな質量、巨大なものを操れれば良いというわけではない……たったこれだけでも、相手も自分も生死を分ける。致命傷を負わせられる」
「…………」
「俺たちの能力は、精密に、かつ素早く操ることで『暗殺』に長けることができる。石材や金属……無機物の中で暮らしている以上俺たちは、『目標の周囲全てをこちらの武器にできる』という特性があるんだ」
そして麻人は「まだまだ基礎を固めるべきだ。ここまでにしておこう」と、訓練の終了を告げた。
「く……」
芝草が混じった土を握り締める。
どうしようもない程の、これでもかと言う実力の差を見せ付けられ、うな垂れるしかなかった。
麻人はこちらに背を向けると、ぐしゃぐしゃになった地面を操作し、何も起こってなかったかのような――完璧な芝の絨毯へ戻した。
それすらも、明らかな力の差を見せ付けられたとしか……思えなかった。
「ふう」
麻人のため息。
「お疲れ様」
実咲のねぎらいに、麻人は苦笑気味に肩をすくめた。
麻人が実咲の元へ戻ってくると、隣にいたティファニーが口を開いた。
「ねえ、アナタ」
「ん?」
「最後のあの脱出。アレひょっとして」
麻人が、ああと気づいて答えた。
「あれは、『糸』だ」
「やっぱり、そうなのね」
実咲が麻人とティファニーの会話に、疑問を投げた。
「あれがどうかしたの?」
「えっとね」
ティファニーが説明する。
「『地』の能力で極めて細い糸、単分子カッターに近いものか、そのものを作って攻防をする事は、ものすごく上級の扱いなの。それこそ最高ランクの技術って言ってもいいくらい」
「ふむ」
実咲が興味を示して相槌。
「つまり、最も難しい技の一つ、って事なのね」
「ええ、その通りよ」
ティファニーが同意して、さらに続けた。
「どのくらい扱いが難しいかって言うと、この技が使えるのは。聞いた限りじゃ今のAZネーム持ちの……グランド=Kキングだけ。過去にもいたようだけど、それくらいの実力者が扱えるってぐらいの、上級技術よ」
実咲へ説明を終えると、ティファニーはまた麻人へ向き直った。
「ほんの少し見えただけだけど、いったい何本の『糸』を出したの?」
本数を答えれば言いだけの事だったが、麻人は少し黙考してから口を開いた。
「……どれくらい出せれば、実力の程度を示せるかは知らないが、その気になれば、さっきのよりはもっと出せるさ。そういう呪文スペルも持っている」
「そういえば今、無詠唱で出してたわね……」
事情があってか、いくつかの部隊を渡って来たらしいティファニーが、やや引き気味に言ってきた。
「まあな」
麻人は結局、先ほど何本出したのかを答えず、少しばかり自慢のように口元を緩めた。
「……なあ」
おぼつかない足取りで、ようやく戻ってきた智が、すぐに麻人へ呼びかけた。
「よく考えてみたんだけどさ」
「うん?」
麻人が聞き返す。
「やっぱり、そんなチマっこいやり方、俺には性に合わねぇ」
「…………」
無言のままの麻人を放置して、智は続けた。開き直った風に。
「俺はやっぱデカイもんを操って、一気にぶっ飛ばしたほうがやりやすいぜ」
「……えーと」
麻人が、寄せすぎた眉間を指で押さえてうつむく。
どう答えてよいか分からない麻人に変わって、ティファニーが答えた。
「アンタ、よく考えたって。何分も考えてないわよね」
実際のところ、智との模擬戦を終えてから数分しか過ぎていない。
「俺の思考は数分でもすごく回ったんだよ」
「あんたの頭の回転がいかほどかは知らないケド。それって今までの教えをまっさらにしてるって事よ」
「やっぱり俺は俺のやり方で強くなるしかないね」
したり顔の智。
麻人が、大きく大きく、ため息を吐いた。
何の能力も持っていない実咲だが、
「本当に馬鹿ね」
麻人と智にそれぞれ、別の意味での同情の視線を投げていた。
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