Chaser・D (中編)

 4: 

「はぁ……はぁ、はぁ……」

 勝てない、前に出れない。

 上を取れない。

 立ち上がり、シュウジは口の中のツバを吐き捨てる。口の中が火薬の匂いだらけで気持ちが悪い。

 裏佐田技研の屋上。決闘闘技場の中――

 今回の敵。黒装束の……忍者。彰吾が目の前で静かに佇んでいた。

 接近戦に持ち込もうとしても、火薬球での牽制。距離を取られるか、その体術で裁かれる。体術の幅も広い……基本的な柔術、関節技、打撃……合う度に違う技が繰り出される。何とか『解く』方ではこちらが上手だった。それくらいしかない。

 投擲の扱いも的確。火薬球以外にも、くない、小刀。分銅もあった。

 あの体の中のどこにあれだけ……いいや、おそらく体中にあるのだろう。

 黒装束の手の届く範囲全てに、隙間無く多数の武器が仕込んである。

 素手を含む、全ての武器には射程距離(リーチ)がある。

 扱う武器が最大限の攻撃力を発揮できる。あるいは最大限に扱える距離が。

 彼、彰吾は体中に仕込んである多種多彩な武器全てを、射程距離を含めて完全に扱いきっていた。

 あらゆる武器に、熟達していると言ってもいい。

 さらには数多い体術も。

 獣計十三掌の虎の拳しか持ちえていない自分にとって、その技の多さでは段違いに格上の相手だった。

 シュウジが扱う獣計十三掌の虎の拳は、超接近の技が多い……相手と零距離で戦うことで真価を発揮する。当然、相手と肉薄するまでに……接近するまでのさばき方はこちらも経験共に熟知しているはずだが、未知の武器と道具に、数多い技は、今までの経験が生かせずにいた。

 これも相手の戦術の内なのだろう。

 一度使った技は、めったに使わない。『めった』に使わないのは、さらに裏をかくための布石……おそらくそこまでを視野に入れているのだろう。

「ちっ」

 思わず舌打ちをしてしまった。彰吾が投擲武器と素手の戦闘スタイルから、くないを逆手に持ったナイフ術へと、スタイルを変えたからだ。

 この決闘の時間で相手から得たモノが、全てリセットされたと言ってもいい。

 もうすでに、どう戦えばいいのか分からなくなってしまっている。相手の技の多さで翻弄されっぱなしだった。

 情けない自分に歯噛みしつつ。

 やけくそでもいいと、それでも前へと――


「やけくそになりすぎですよ。御子息」

 一旦、クジンはシュウジと彰吾の決闘闘技を止めた。

 シュウジはちっと舌打ちをして、その場にどっかりと胡坐をかく。

「何をやってるのですか?」

「ふん」

 彰吾はシュウジとクジンから距離を取って……首筋に近い肩を手で押さえていた。

「それはそれで一つの奇抜な戦法としてもかまいませんが、それでは自身が切羽詰っていると、証明しているようなものです」

 シュウジが内心で反省しつつ、態度だけは『また始まった』とばかりに悪態をつく。

 そしてまだまだ、クジンの説教は続いた。

「拳法に頭……頭部を武器として使った拳法も、それはそれで少数であります。ですが噛み付きなどと……」

 少なくとも、この性悪審判には、引かせるぐらいの効果はあったらしい。

「まるで子供のケンカではありませんか」

「うるせえよ」

 シュウジに噛み付かれた彰吾は、こちらに注意をしつつ、黒装束越しに噛み付かれた肌を確認している。

「御子息に言うのもなんですが……あなたは馬鹿ですか?」

「…………」

 よくよく考えれば、クジンの言うとおりだ。

 ただの、苦し紛れだった。馬鹿と言われてもしょうがない。

「本当に今さらですが」

「どういう意味だ!」

 シュウジが怒鳴る。

「まんまの意味です」

 クジンがひょうひょうと言い放ち、さらに仕切り直すように、

「では、今日はこのくらいでしょうかね」

 クジンが、彰吾へ向むいて「どうでしょうか?」と聞く。

 今まで一度も彰吾の声を聞いたことは無い。

 一貫して無口を通している彼だが、肩をわずかに落とした様子を、クジンは肯定の意と受け取った。

 もう一度、クジンはシュウジへ向き直り。

「いいですか、御子息。こんなことをしても、勝敗の決め手にはなりません。何度も言わせていただきます」

 決闘闘技の勝敗条件――

「相手を再起不能にするか。もしくは相手を完全敗北させるかが、勝利条件です」

 己の力を示した上で、相手を戦えない状態(死亡も含む)にするか、相手が二度と立ち向かえないような状態……相手の精神の敗北という、二つないしどちらかによって、勝利となる。

 それは当然、シュウジにも該当する敗北条件であった。

「ですが、その条件に沿っていない戦い方では、いつまで経っても勝敗を分けることが出来ません。ただのくだらないケンカ事でしかありません」

 あくまで己の力を示した上で、と言うことであるため、決闘闘技で銃火器毒物(実力に関わらず決定的な致死量を与える武器全般)は、禁止となっていた。

 シュウジは自分だけが言われているのかと思ったが、意外にもクジンは彰吾へも向いて言っていた。

「アナタにも同じことが言えますよ。彰吾君」

 彰吾君……全身黒装束に包まれた、はた目は年齢も性別も知れない忍者は、少なくとも男性で自分と同じくらいの年の瀬らしい。

 ……彰吾という名前が、性別を偽る偽名でなければ、だが。

「お二人とも、頭を冷やして置いてください。また短いうちに戦っていただきますが、このようなくだらない喧嘩しかできないのでは、御母上や幹部連にどう報告すべきか、困り果ててしまいます」

 一度だけ、シュウジは彰吾と目が合って、ほぼ同時に目を逸らした。

「…………」

 クジンがシュウジと彰吾の間で、大きなため息をつく。

 不本意だが、少しはこの憎たらしい審判者に一泡吹かせることが出来たらしい。

 困り果てたような顔をさせての一泡は、シュウジにとって本当に不本意だったが。


 5:

「よう、奇遇だな」

「よっす」

 ひなた時計からの帰り道。柚紀は凉平と出くわした。

 先ほどのひなた時計には、凉平は居なかった。

 マスターによると、鈴音にケーキの配達を頼まれてしまったのだと。

 本来は配達などひなた時計ではしていない。半ば無理やりだったらしい。

「ここら辺に生息していたのか」

 凉平の軽口。

「生息って……」

「ここらに森でもあったのか?」

「誰がたぬきだこら」

 言葉と一緒に、柚紀が凉平の足をブーツで蹴飛ばす。特に強い蹴り方ではなく。つま先でぶつける程度で。

「ついでだ。送ってやるよ」

「遠慮する」

 柚紀の即答に、凉平は少し肩をすくめ、

「なんでだよ?」

「そうやって、女性の部屋を探るのかね」

「んなつもりねーよばーか」

「このあーほ」

 言葉だけではつんけんした様子に見えつつも、お互いに緩んだ顔つきでのじゃれ合いだった。

「んじゃ、いこーか」

「お断りじゃなかったのか?」

「外までだ。中に入れてやらんぞ」

「ほいほい」

「見たらUターンしてすぐに帰れー」

「ほいほいっと」

 ぽつぽつとした足取りで歩き出す、柚紀と凉平。

「なあなあ」

「あん?」

 歩き始めて間もなく、柚紀が口を開いた。

「何で、喫茶店なんかで働いてるの?」

 唐突に切り出た質問に、凉平はしばし逡巡した後、

「成り行き? か?」

「何もないのかよ」

 凉平があっさりと肯定。

「まーなー。テキトーにやってれば楽そうだし」

「お前人生舐めてるだろ」

「はっはっはー」

 愚にもつかない会話。まったくまとまらない。そしてとりとめのない――

「お前は、花屋またやるんだろ?」

 今度は凉平が柚紀へ。

「うん」

「良い夢だな」

「夢?」

 柚紀が頭に疑問符を浮かべた。

「だってそうだろう?」

 凉平が続ける。

「夢ってのは達成した後、今度は維持していかなきゃならない。長い時間、守っていかなきゃならない」

 まじまじと凉平を見る柚紀。

「それって、自分がどうありたいか、自分をどうしていきたいかって……つまりのところ『生き方』って事だろ?」

「…………」

 凉平は自嘲気味に肩をすくめ、

「自分はどうやって生きていきたいか、それに目標があったら、それは『夢』ってヤツなんじゃないか?」

「…………」

「良い夢。じゃないか」

 切り良く締めたところで、ぽかんとした柚紀が、ポツリと。

「何あんたクソ真面目な事言いながらカッコつけてんの?」

「…………おい」

 まるで気味悪い物でも口にしたかのような柚紀の引き顔に、凉平が顔を苦々しくする。

「あほじゃないの?」

「…………」

 凉平の言葉は、柚紀には微塵も届いていなかった。

 凉平は眉間のしわに指を当てて、

「俺今、良いコト言ったはずなのになぁ……」

「いやぁ、無駄にカッコつけてたし……それに自分で言ってりゃ世話無いよねー」

 凉平は、ため息を履きながら「……そーだな」と呟いた。

 そして、凉平は少しばかり呆れ顔を残したまま

 ――振り向いた。


「あれ?」

 ばたん、ばたんと、凉平の背後に停まっていた車から人が降りてくる。

 暗がりでよく分からない――と思えば、それら数人はこちらに近づいてきて、

「――ッ!」

 柚紀は何の集団なのかが、即座に分かった。

 緑龍会。

 先日、他の暴力団との抗争で爆弾事件があった。そして爆破された緑龍会の屋敷は、その組織ごと跡形も無くなったはずだった。

「逃げるぞ」

 柚紀の隣に居た凉平が、小声で言ってきた。

「ちょ、ちょっと! 何!」

 緑龍会の人間達から最後まで目を離さず、凉平は柚紀の手を掴んで、引っ張るように走り出した。


「どこ行きやがった……」

 緑龍会の一人の呟きが、茂み越しに聞こえてきた。

 隣で息を殺す凉平と一緒に、じっと公園の茂みの影で、柚紀は身を潜める。

「あの女に関わった直後にやられたんだ……あの女には絶対に何かある」

 柚紀の花屋が緑龍会の幹部によって全焼させられた直後、その緑龍会が爆破された……しかし、柚紀には何の身に覚えも無い。

「絶対に探し出して吐かせてやるぞ」

「あの女……とっ捕まえて売り飛ばしてやる」

 想像がつかないほどの恐ろしい言葉を残して、緑龍会の二人組みの足音が遠ざかっていく――あたりがしんと静まり返った。

 はぁ……と、凉平の重苦しいため息がすぐ横で聞こえる。

「行ったみたいだ」

「……みたいね。あれ、緑龍会の人たち、だよね……」

「そのようだな」

 真夜中の空気に似た、重たい沈黙が続く。

 緑龍会の二人組みが去っていっても、柚紀と凉平はその場を動くことが出来なかった。

 突然の事に動揺して、お互いにまったく判断がつかない状況だった。

「…………」

 すぐ横にある凉平の表情を、柚紀はちらり見た。  

 張り詰めたような、真剣な――

「警察は……無理だろうな」

 ぽつりと、凉平がわけの分からないことを呟く。

「なんで?」

「いま携帯で呼んだとしても、たぶん向こうも警察を呼ばれたときの逃げ方やら、言い訳みたいなものでも、用意してるんじゃないか?」

「何でそう思うの?」

「やり方が大それてる。それに、ただの報復にしてはなんだかおかしいだろ? 言いがかりみたいな報復だがな」

 凉平は相手の先を読んでいる。明らかに、

「じゃあ、どうするの?」

「とりあえず、安全な場所に身を置いてから。だろうな」

 自分の家、交番、警察署――ひなた時計。

 なぜ? 今ひなた時計を思いついてしまったのだろうか?

 何か、胸の引っかかりが、

「――とりあえず、ひなた時計に戻ろうぜ。家は張ってるかもしれん」

 その凉平の言葉で、柚紀は直感じみたように――気づく。

「凉平さん、知ってたの?」

 この理由の無いひらめきとも勘とも取れる柚紀の言葉。

 凉平は硬直したような気配で、図星だと告げていた。

「…………」

 自分の反応でばれてしまったと、凉平も気づいたのだろう。返す言葉が、明らかに見つからない様子。


 6:

「これは、私の問題のはずなのよね。なんでこんなことしてるの?」

 凉平の背中越しに、柚紀の声音が張り詰めていくのが分かる。

「……すまない」

 なんとか、声を搾り出すように彼女の言葉へ返す。

 これは――演技だ。

 このばれてしまったという気配すらも、わざとやっているにすぎない……。

 彼女の場合、自身が無防備すぎるのだ。

 なるべく事が不明瞭な状態でほのかに気づかせて、事が終わるまで警戒心を強めさせる。

 警察は頼れないなんて、本当は嘘だ。保護くらいは受けられるだろう。これは彼女に警戒心を強めさせるためと、『こちら』も動けるようにしておくための――

 ――とん

 凉平の背中が軽く小突かれ、人肌の温かみがした。

「本当に、なにやってるのよ」

 今までよりもっと近い距離で、柚紀の声が聞こえてくる。それこそ、背中越しに――

「私の事なのにおしえてくれなきゃ……隠されたままじゃ、怒ったり呆れたりも……それこそ、ありがとうも言えないじゃない」

「――――」

 なぜ彼女は、こんな時ですらもこんなに――

「隠れてこんな事するとか、この馬鹿……じゃなくてこの阿呆め」

「…………」

 今彼女は、俺がどんな顔をしているのかを……知らない。

 なのに俺は。

「……すまない」

 何とか搾り出せた声がそれだけだったのに、

 彼女は静かに、これ以上何も聞かず、優しく頷き返してきた。

 頷き返して……くれた。


 ああ、そうだよ。

 忘れていた。

 本人が納得できるかできないかなんて、関係ない。

 そんなところに、現実ってのがあるんだと――


 辺りはしんと静まり返っていた。ぽつりと、小声で凉平。

「行こう。ひなた時計へ戻ろう」

「うん」

 柚紀が頷いて、二人でそろそろと公園の草むらから出る。

 草を踏む音ですら細心の注意をもって、凉平が柚紀の手を引きながら公園の出口へ足を向けた。

 走って、走って――

 公園内にある、古ぼけそうになった自動販売機。

 自動販売機の前を通り過ぎようとして、

 ごつんと鈍い音がした後、凉平が倒れた。

「――え?」

 凉平が倒れていく様が、スロー再生されたかのよう――目を見開く柚紀。

 彼に引かれていた手は、細い糸がぷつりと切れたように離れていく。

 目の前で、倒れた凉平が動かなくなった。

「りょう、へいさ――」

 震えた声で呼びかけようとして、柚紀の目の前が真っ暗になった。


「ったく、手間かけさせやがる」

 苛立った表情を残したままの子分が、手に持った石を放り捨てた。自動販売機の陰に隠れ、凉平を殴り倒したほうだ。

「早く行くぞ」

 ぐったりして気絶した柚紀を抱えている、もう片方の子分が急かす。

 凉平を殴り倒したほうはまだ不満が残るのか、苦々しい顔をして凉平を一瞥すると、我慢をこらえるようにきびすを返した。

「早く運べ」

どちらかといえば、子分二人の鈍くさいやりとりのほうに苛立っていた。

スーツを着た――元緑龍会の幹部、銀次が語気を強めて短く言う。

「この男はどうしやすか?」

「あん?」

 銀次が、倒れている凉平に視線を移した。


 以前、凉平に柚紀の店で張り倒された事を思い出す。

 そして、凉平の髪と――緑龍会を潰した、あの殺し屋の容姿が重なった。

「…………」

 だが、この男があの殺し屋だったのなら、こんなヘマを起こすはずが無い……とも思う。

 何かが……どこかが歯がゆい。しっくりと来ないものがある。

「どうしやしょう?」

 子分の一人が早くといわんばかりに再度聞いてくる。そして、他の子分たちの視線も、集まった。

 もし、こいつがあの殺し屋だったのなら、この女は『囮』だ。

 あえて持って行かせて、こちらの足に食らい付いてくるかもしれない。

 やはり今のうちに――

 銀次はスーツの内側にある拳銃を取り出そうとして。

 不意に聞こえた足音に――振り向いた。

「な……」

 周囲の子分たちは、自分よりも先にぎょっとしていた。

「ん……だと」

 この倒れている男が、あの殺し屋ではなかった。

 艶消し黒のレザースーツ。腿部には大型拳銃がしまってあるホルスター。

 顔も表情も見えない。黒い布で覆われた頭部からは、冷たく鋭い眼光が覗いている。

 緑龍会に現れた、あの殺し屋が――目の前にいた。

 銀次が倒れているはずの凉平を見やる――倒れたままピクリとも動かない凉平が、そこに居た。

 そして正面には、あの時の殺し屋が。

「違うヤツだったの――」

 呟き声が言い終える間もなく、レザースーツの殺し屋セイバー2が動いた。

 狙われたのは自分ではなく、その後ろにいた、柚紀を抱えていた子分。

 銀次の脇を、突風のようにすり抜け、銀次が振り向いた瞬間にはもう……吹き飛んだように倒れこむ子分と、柚紀を抱えているセイバー2の姿があった。

 子分のほうは、苦悶の声を上げながらも何とか立ち上がった。

「兄貴!」

 すぐ横にいた別の子分の声で、はっと我に返る銀次。

「ち、逃げるぞ!」

 ようやく銀次の声で、金縛りにあったような子分たちが動き始めた。

 幸い、柚紀を抱えたままでセイバー2は追っては来ず、こちらに視線を延ばしたまま棒立ちでいる。

「くそっ」

 全ての的が外れ、奥歯を噛む銀次。

 だがまだ、手はある。

 アレがどこかで見ているはずだ。アレに任せればいい。

 この時のために雇ったのだから――


 セイバー2の姿をした凉平は、柚紀を抱えたまま息を吐く。安堵の息ではない。

 そして、

「で? どうするんだ?」

 こちらを眺めている場所は把握している。――に向けて、凉平は言葉を投げた。

「……一時間後。西にある廃ビルに来い。セイバーズ」

 もう自分の存在がばれていることに開き直ったのか、あっさりと返答が帰ってきた。

 凉平はその声に、数秒黙考した後、

「三十分だ。待ってろ」

 わざわざ時間を早められたことに、余計に気配が硬くなった。

 相手は慎重さを装っているようだが、臆病ではない。むしろ自尊心がよほど高い様子。

 ――ただ単に、挑発めかしたわけではない。

無駄と余計と思わせて、手間を作ることで、相手の出方や身を潜ませている敵の姿を見抜く。

隠密性はある程度高い……相手もそれなりに自負しているのだろう……しかしあっさりと自分の存在を見抜いた事、リクエストを聞きつつ挑発を含められた事……その事により、すぐさま敵意を露にしたことは、相手の自尊心の高さが伺える。

 ここで来るか? とも思えるが、高い自尊心を傷つけられたことを含めても、その高さ故に、ここでは来ない。

 その計算通りに、相手は舌打ちでもしたかのような空気を見せて居なくなった。

 気配を探っても、周囲には誰もいないと分かる。

 柚紀を抱えて、運ぼうとし――

 自販機の足元で倒れたまま動かない――自分の姿へ向き直った。

「幻影身(ミラージュ)アウト」

 凉平が開いた片手で指を弾くと、自販機で倒れ伏している『自分の映像』が消え、ついでに自身に映していた、『セイバー2の映像』も消え去った。

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