5話 おもちゃ工場(売約済)
「うーん……」
僕はまた目を覚ました。確かに地面が崩れ、落ちたはずなのに。
生きている?慌てて自分の身体を見る。傷1つない。シャツは白いままで、胸には【レッドアイ】と書かれた名札がくっついている。
何故かは分からないが、僕は確かに生きていた。
……そうだ、あの子は?
辺りを見回す。暗い、先ほどの屋上よりも広大な空間に、プレス機やベルトコンベアー等の機械類が赤く錆び付いたまま放置されている。強い鉄の匂いがする。いくつか壁にある窓の向こうは白く、外の様子はわからない。照明などの光源もないので、ほとんど暗順応で周囲を把握するしかなかった。
女の子を探して歩いてみたが、いくつかある扉は向こうから施錠されており開かない。機械の後ろなど注意深く探ったが、やはり誰もいない。何か使えそうな物が落ちていれば良かったのだが、ネジの1つも落ちてなさそうだ。
打ち棄てられた工場跡のような場所だが、床は清潔で、機械もサビや破損などあれど埃すら被っていない。そして、何処にも言語が書かれていない。場所についての正確な情報は何も分からないというわけだ。
とにかくここから出なければ。しかし、窓から出ようにもコンクリート壁で足を掛けることもできないし、扉は皆施錠されている。
「ん?」
ふと、1つの機械の横にレバーがあることに気付いた。中央がガラス張りになっており、巨大ミキサーのようにも見える甕形の機械。レバーの部分だけ何故か錆びていない。
正直怪しさ満点だ。しかし、他の手も特に無さそうだ。小さなレバーを掴んで、力いっぱい下ろす。思ったよりレバーはずっと軽く、簡単に下がった。
すると、やかんが湧いたときのような音がして、何も入っていなかったはずの機械内部に透明の液体がたまり始めた。
程なくすると液体は発光し始め、空間が一気に明るくなる。
暗闇のベールに覆い隠されていた工場内の様子が露わになり、僕は息を呑んだ。
機械類は錆び付いていたのではない。
赤錆だと思っていたのは、べっとりと付着して乾いた、血だった。
そして、死んでいなかった機械達が一斉に動き出す。ベルトコンベアーの奥から頭蓋骨が流れてきた。プレス機が何かを潰し始めた。水車のような機械が回転して赤い液体をくみ上げていく。
異常な光景としか言いようがなかった。
だがあいにく、吐き気などとうに通り越している。頭の中を占めているのはただ困惑だけだ。
「なんで、こんなことを……?」
機械はそれぞれ独立して動いており、その動きから何かが作り出されそうな様子はない。そもそも頭蓋骨や血はどこから来た?本物なのか?
人は得体の知れないものに怯えるという話がどこかにあったような気がするが、本当に何も分からない状態だと「悪趣味」以外の感想も特に浮かばない。
……結局、レバーはこの空間から出る助けにはならないということが分かった。
肌色の肉を熱心に裁断する機械や眼球から何かを抽出している機械の間を縫って、他の脱出方法を探す。
ふと部屋の隅に視線を向け、僕は再び息を呑んだ。
さっきまで壁だった場所に、扉がある。
その扉は施錠されていなかった。少しだけ開け、隙間から向こうを覗くが、暗闇が広がっているばかりで何も見えない。
入るべきか逡巡していると、機械達の喧しい駆動音に混じって、こつこつという音が聞こえてきた。
扉の奥からだ。
何かが、こちらに近づいてきている。
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