スーパーサカイエ Lv1000(一時休業中)

麦茶ブラスター

-Highlight- 「サカイエ」おもちゃ売場にて

 何だってんだ、畜生。確かここは「おもちゃ売場」だったか?

 

 こんなおもちゃ売場、地球のどこにあるってんだ。


「繧上?縺?シ∵眠縺励>縺翫b縺。繧?□繝シ?」


 まずい、あの化け物の声だ。身長10メートルくらいの人間がそのまま丸焼きにされたような姿をしている。名付けるなら黒焦げの巨人ってとこか。口からはぶくぶくと泡だってるような音が聞こえるだけで、何を言ってるのかわかりゃしねえ。


 ピンク色のタンスの影に身を潜め、息を殺して、耳だけを澄ませる。


 バキッ。ブチッ、ブチブチ……


「いやあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 隠れるのが遅れた女が化け物に捕まったらしい。可哀想に。何かがちぎれたり、ねじれたりしている音が聞こえてくる。何がって、想像したくもねえが。


「縺頑ッ阪&繧薙?∫ァ√b縺?」ス縺阪■繧?▲縺」


「蜈ィ縺上?√@繧?≧縺後↑縺?ュ舌?」


「あ、ああ、嫌……」


 がちゃん、ばたん。


 あの女の悲鳴が聞こえなくなった。

 多分、ゴミ箱に棄てられたんだろう。圧死だ。成仏してくれ。


 化け物どものべちゃべちゃという足音が遠ざかっていくのを見計らって、俺はタンスの裏から飛び出す。


 女の犠牲は無駄にしねえ。メモの文が正しければ、化け物を倒す手段はこのドールハウス内にあるはずだ。


 赤いカーペットが敷かれた階段を上っていくと、廊下の奥にハート型のドアが見えた。上の方にプレートがぶら下がっている。プレートの文字を見て、俺は叫び出したい気持ちを必死に抑えた。


【魔法少女変身ステッキはこの部屋!】


 ついに見つけた。一気に走って行って、部屋の中に飛び込む。可愛らしいピンクのベッドの上に、リボンで結ばれた白い箱が置かれている。


「頼む、頼む……!」


 リボンを引きちぎって、箱をこじ開けた。

 

 ベッドの上にぽとり、ハート型の杖と一枚の紙が落ちた。紙の表面には【説明書】と書かれており、俺は迷わずそれをひっつかんで目を通す。


 そして、そこにある一文に言葉を失った。


【変身方法 あなたの熱い心臓はーとに杖を突き刺してください】


「は……?」


 ベッドの上の杖に目を向けると、確かに柄の先端が鋭く尖っていた。

 これを、俺の心臓に突き刺せってか?


 ういいいいん……


「え?」


 俺が途方にくれていると、突然モーター音が鳴り響き、暗い部屋が徐々に明るくなってきた。


 上を見ると、天井がゆっくりと開いていくのが見えた。


「縺ゅ?∽ココ蠖「縺輔s縺後>繧具シ」


 化け物は思っていたよりずっと近くにいたらしい。開いた天井から、目も鼻も耳もない黒焦げの頭部が覗く。


「縺九o縺?>繝シ?」


 黒ずんだ液体を口の間から垂らしながら、灰色の腕が伸びてくる。俺の体は恐怖ですくみ、動けなかった。


『さあ、あなたの勇気を見せる時よ!魔法少女に変身して!』


 すると、杖が突然光を放ち、内臓音声らしき声が耳に届いて俺は我に返った。

 とにかくやるしかないのだ。


 深呼吸して、目を瞑り、勢いよく心臓に向かって杖を突き立てる。熱い。痛い。


 上手く刺さらないから、杖をグルグルと回して奥に導いていく。

 目から鼻から体液が溢れて止まらない。

 それでも、俺の右手は健気に杖を押し込んでいた。


「う、うおおおあああああああああ!!!!!!!!」


 血が夥しく流れる、思考が崩れる、化け物が俺の体を掴む。


 みき、みき。


 まだか、まだ変身できないのか……


『あら、ごめんなさい、男の人は魔法少女に変身できないの……』


内蔵音声が申し訳ないといった感じに告げ、杖の光は消えた。


 めきっ。


『スーパーサカイエにご来店頂き、誠にありがとうございました』


 全身が灼かれるような痛みの中で、俺の脳裏にはっきりとアナウンスが聞こえてくる。


(ふざけんじゃねえ、酒井和利。お前は他の誰かに殺される。絶対、絶対だ)


 心の中で大きく中指を立てて、俺は意識を手放した。

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