3月29日 長男の旅立ち(その三)
息子の勉強のペースに異変が起こったのは小学6年生の冬ではなかったか。それまでの長男は学校の問題や塾で出される問題を『なぞなぞ』を解く感覚で楽しんでいたように見受けられた。塾の宿題も、特に算数に関しては嬉々として解いて、夜半を過ぎて親が「もう遅いから寝なさい。」と叱っても問題を解き続けるような状況だった。それがある日、パタリと鉛筆が動かなくなった。
宿題は終わらせないと、と机に向かっているのだが2時間くらい机に向かっても同じページの同じ問題から進めないのだ。オーバーワークかと休ませたり、もう受験は目の前だとハッパをかけたりしながら長男を支えようとしたが勉強は全く進まなかった。その当時、ゲームに関しては制限していたのか否か記憶が定かではないが。多分時間制限をかけていたのではなかったか。しかし勉強が進まない一方、ゲームをする時間がジリジリと増えていたような印象が残っている。
そのような状況ではあったが、長男は地元では一番偏差値が高いと言われた私立の中高一貫の学校の特別クラスに進学する事ができた。最後の最後まで勉強のペースは落ちたままで戻らなかったが、それまでの知識の蓄えでなんとかなったと夫婦で胸を撫で下ろした。春休みになると長男はゲームの世界にどっぷりと浸かった。夜中中起きていて昼間は寝るという生活になった。ただ一生懸命受検して掴んだ合格のあとだ、ご褒美に少しぐらい羽目を外してもいいと思っていた。しかし中学校生活が始まっても長男はこのゲームの世界から、生活パターンから、抜け出すことが出来なかった。
特に担任であった英語の先生と衝突した。夜中中ゲームをして眠い長男が授業中うたた寝をしてしまった。これは当然長男が悪いのだが、今から考えてもこの時の担任は女性だったがとても気が強く、怒られたのは当然だが、その後目の敵にされた。関係が悪くなり益々英語の時間に気が乗らない。すると寝てしまう。当然授業は分からなくなるし怒られる。この悪循環スパイラルにハマり、英語の成績は目も当てられないほどに落ち込んだ。この英語を発端とする学業の躓きは更に長男をゲームにのめり込ませた。どんなに叱っても長男は夜更かしを止めず、次第に朝起きれなくなっていった。このころの担任との面談で妻は担任の先生から「勉強しないなら自衛隊にでも行け」というような話をされ落ち込んだ。そして学校から紹介されたカウンセリングを受けるようになった。私もかなり精神的にまいっていた、しかし私が弱さを見せると家庭が崩壊すると感じて必死で立ち続けた。そして遂には全く学校に行けなくなった。
この時だったかもう少し後だったか私には忘れられない光景がある。確か衝突していた英語の先生ではない別の先生が学校にいけない長男を家まで迎えに来てくれた時だと思う。私は長男の部屋に入って無理やり部屋から外に連れ出そうとした。その時長男は目を固く閉じ、ベッドの上で体を一本の棒のように固めて抵抗した。その時の私は心が張り裂けそうだった。そして私は長男を外に連れ出すことを断念した。また長男は家族の者が部屋に入るのを許さなくなった。
(続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます