3月28日 長男の旅立ち(その二)

 小学校時代に入ってもそのユニークさは色々なシーンで垣間見られた。これは幼稚園時代には既にそうだったかもしれないが、街ゆく車の名前を覚えるのが得意で、車に乗せて移動する間中、すれ違う車の名称を言い当てた。知らない車は名前を聞いてきて、大体一度聞けば忘れなかった。今でも覚えているのは日産のマーチが大のお気に入りで、すれ違うと「マーチ!マーチ!おとう(私を今でもこう呼ぶ)マーチ!」とテンションが上がった。またプラレールが大好きで、放っておくと三次元的、特に床に関しては一部屋に収まらない規模の軌道を作り上げて親を困らせた。当然長男は「壊さないで!」と嘆願するのだが、そのままにするには広すぎて日常生活に支障があるので「寝るまで」とか「1日だけ」と言い聞かせて壊したのではなかったか。ただその度に長男はわんわんと泣いた。

 そんな長男だが学校の成績は良かった。時に算数の成績は良く、ケアレスミスはあるものの、解けない問題はなかった。そんな長男の学力を伸ばしてやりたいと思って塾に行くかと聞いたら「行く」と答えたので進学塾にも行かせた。親として長男に塾に行く事を強要したつもりはない、ただ今から考えると、小学生に判断させるということ自体、強要なのかもしれない。

 塾に行き出した長男はスクスクと学力を伸ばした。全国を対象とした学力コンクールで10番台を取った事もあった。特に算数に関しては数々の模試で、全国規模のデータで、解答率が10%を切るような問題を軒並みクリアしていた。と同時に人間関係における危うさも感じていた。


 まず学校の友達付き合いに関して言えば、近所に同学年の子がいなかった。学校の行き帰りは学年の違う子らと通い、放課後その子らとはあまり遊べなかった。そんな環境もあり、長男はテレビゲームにハマっていく。ただ最初に長男がゲームにハマったのは幼稚園時まで遡るかもしれない、そのゲームは『グランツーリスモ』ではなかったか。先にも述べたが長男は車が好きだったので、ゲーマーであった私がハードとソフトを持っており、きっと喜ぶだろうとやらせてみた。ところが長男はこのゲームに完全にハマってしまう。買い物に行く際に、テレビゲームに夢中な長男に「30分経ったら止めなさいよ(当時時間制限を設けていた)。」と言い含めて、二世帯住宅だった事もあり、私の親に断って夫婦で出かけたところ、3時間以上経って家に戻ると、長男は額に汗を光らせながら頬を真っ赤にしてゲームを続けていた。

 話が脱線したが、ゲームにハマった長男は、友達を家に呼んできてもゲームで遊び、あまりコントローラーを渡さずに自分がゲームをするところをひたすら友達に見せるという具合だった。当然友達は面白くないので帰ってしまう。親から一緒に遊ぶように諭しても、結局自分がゲームを楽しむことが優先され、友達は積まれなそうに帰ってしまう事が多かった。

 また塾においては、賢い子が多い中で、いじめられている風があった。塾に車で迎えに行くと度々、同学年の子らに一人置き去りにされ「待ってくれー」とみんなを追いかける長男を見かけた。ただ「大丈夫?」などと声をかけても本人にいじめられているという認識がなく、話が噛み合わなかった。

 そしてこれは後々ブーメラン的に痛い目に遭うのだが、小学校5、6年次の担任と衝突してしまった。確か担任を無視するとか小馬鹿にするような態度を取ったらしい。またそれをクラスの悪どもが焚き付け、「〇〇やるじゃん!」といった言葉に乗せられエスカレートしていったようだ。私は学校に呼ばれ、担任の先生と長男と学年主任の先生もいらっしゃったか、会議を持った。私はお詫びし、長男に先生の言う事を聞くよう諭したが、反応は極めて悪かった。確かにその時の担任は、リーダーシップに乏しく、長男からすると物足りなさを感じていたのかもしれない。


 このように人間関係的な不安を抱えながらも、学力は上がる一方で長男と話をした上で中学受験を決めた。これもその当時は長男の気持ちを優先したつもりでいたが強要だったのかもしれない。また実はこの中学受験の数年前に私は大学卒業後に就職した建設会社を退職しており、年収は大きく下がっていた。ただ、人間関係に不安を持ったまま公立高校に行けば、また学校の先生とトラブルを起こしたり、いじめられるのではないかという不安があった。少しでも学力で選ばれた子供たち、また受験で集めた子らを預かる先生であれば、長男の中学校生活もうまく行くのではないかと考え、慎ましい生活をする覚悟も同時にしたのである。しかし残念ながら長男の中学校生活はその前から暗雲が垂れ込めていた。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る