3月27日 長男の旅立ち(その一)

  数日前、長男が我が家から卒業した。その長男との思い出を数回にわたって記そうと思う。

 長男の今までの歩みは決して平坦ではなかった。というか本人も家族も本当に苦しい期間が長かった。実は三年間、学校に行けず引きこもっていた時期があったのだ。その時期を乗り越えて、長男が親元を離れて神奈川にが旅立ったのだ、その為、感慨もひとしおだ。


 長男が産まれた時、産婦人科の先生が、ちょっとした音にも敏感に反応して〝ビクビク〟を手足を動かす長男を見て、妻に「この子は感受性が普通の子よりかなりあるから育てるのに苦労するかも。」というような話をされたそうだ。その話は苦労という点で現実のものとなる。

 まず、とにかく寝ない赤ちゃんだった。日中もそんなに寝る方ではなかったが、夜は輪をかけて寝ない。妻は常に寝不足で昼も夜も長男に付き合わされ、おっぱいをあげながら、やっとうたた寝するような状況だった。そんな長男のユニークさは歳を重ねる毎に顕著になる。

 

 歩き出したぐらいから言葉を操り、二歳になる頃には同年代の子らがまだ片言の言葉しか話せない中、大人とペラペラと普通の会話をしていた。また、おもちゃで一人で遊んでいる時も、おもちゃの動きの実況や、おもちゃのセリフを、30分でも1時間でも喋り続けた。

 幼稚園に入ってもこの落ち着きのなさは変わらなかった。発表会で園長先生がみんなの前でお話をしている最中に、一人立ち上がって園長先生の後ろの段に上がって「ヤッホー」とやって担任の先生に捕まったり、幼稚園にピアノ先生が来て教えてくれるシステムがあり習わせたのだが、練習前に延々と逃げ回ったり。このように書くと、長男には言葉が通じないのではないかと思われる方もいらっしゃると思うがそうではないのだ。上記の園長先生の後ろからの「ヤッホー」もピアノの先生が来ているのに逃げ回るのも長男にとっては遊びの延長で、楽しくて我慢ができない感じなのだ。長男はいつも額を汗で濡らしながら、頬を興奮で赤らめながら、全力で楽しい事を探して、全力で遊んでいた。その頃の私は「なんで普通の子が我慢できる事が君には出来ないの?」と叱る事が多かった。そして妻は毎日この長男の言動に振り回されてヘトヘトになっていた。ただ今思い返すと、この天真爛漫な長男と過ごせた日々は、掛け替えのない幸せな時間であった事を痛感するのである。


(続く)

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