3月12日 ドラムを習い始めた訳

 私は月に3回、ドラムのレッスンに通っている。今日は当時既に50歳に近かった私が、何故ドラムを習い始めたを書いてみたいと思う。


 その前に簡単な私の楽器歴をご説明させていただく。私は本当に小さい頃、多分幼稚園時代であろうか、ピアノを習っていたそうだ。ただほとんど記憶にはない。小学校に入る前に何度か引っ越しもあったし、多分短期間であったのだろう。そしてサッカー少年として小•中学校を過ごした私は、高校時代、フォークソング部でバンドを組んでフォークギターを弾きながら歌っていた。何故、体育会系だった私が文化系クラブに入ったのかについては、実は深い事情があるのだがそれはまたの機会に記したいと思う。そして大学を卒業し、社会人になっても、時々思い出したようにギターは取り出してジャカジャカと弾いていた。多分ある出来事がなければ、私が演奏できる楽器は、下手なフォークギターのみであったろう。その出来事は前触れなく突然に訪れた。


 7、8年前になるだろうか。ある日突然左目と唇の左端に違和感を感じた。最初気のせいかと思われた違和感は次第に現実的な症状を表した。片方の瞼が閉じなくなり、また口の端が閉まらず、水を飲むとそこから溢れた。もちろん私に取っては初めての体験で目も口も片側だけの発症なので私は脳に何かが起こっている事を恐れて、会社に有給を申請し札幌でも脳外科で有名な病院の外来を訪ねた。レントゲンなどいくつかの検査をした上で、医師から言い渡された診断は〝顔面神経麻痺〟というものだった。


 医師からの説明では、「ストレスが影響する場合もあるが、基本ウイルスが引き起こしす、顔の神経の麻痺。」というもので、加えて「すぐに治療を始めればほとんどの場合麻痺は治るが、治療開始が遅れれば遅れるだけ麻痺が残る。どうしますか?」と聞かれた。聞けば治療は入院が必要で、今日からでも入院は可能という事だった。顔の麻痺は酷く、このまま麻痺が残ったら大変な事になると考えた私は、その場での入院を決めた。


 確かいきなりの入院で家族をびっくりさせたのではなかったか。ただ入院すると顔に麻痺こそあるが、どこかが痛いわけではなく、気持ち悪いわけでもなく、当初点滴と薬を飲むだけで、とにかく暇な時間がたくさんあった。携帯の所持は許されていたので最初は携帯を見て過ごしたが、すぐに飽きてしまい、ベッドの上で色々ともの思いに耽る時間が増えた。すると改めて〝人生一瞬先に何があるか分からない〟という教訓が身に染みた。そして次に「明日、仮に交通事故にあって亡くなったとして後悔はないのか?」と自分に問うてみた。その答えは出なかったが、何故か心の底から「何か新しいものに挑戦しよう」という決心が湧いた。ただ新しく何を始めるかについてはなかなか答えが見つからなかった。条件は以下だった。


①今までにやった事がないもの。


②興味がある事。(楽しんでできる事。)


③始めるにあたりあまりお金がかからない事。


 何日か悩んだ末、自分が演奏した事のない楽器にチャレンジしようという決心までには辿り着いたが何の楽器にチャレンジするかまでは退院の日が来ても定まらなかった。

 

 二週間程の入院で顔の麻痺もすっかり取れ、退院したのち、インターネットなどで楽器について色々調べた。ウクレレなどにも興味を引かれたが、最終的にはバンドを組んだ経験があることからバンドで使われる「ドラム」と「エレキベース」に絞り込んだ。

 私は某楽器メーカーが運営する音楽スクールで「ドラム」と「エレキベース」の体験レッスンを受けた。結果「ドラム」を選択した。「ベース」も楽器としての奥深さは十分に感じられたが、初心者なりの演奏時の爽快感においてドラムがまさった。そして私はドラムのレッスンを受け始めた。


 今でもドラムのレッスンには楽しく通っている。時々先生から「まさのりさん、ノリだけで適当に叩かないで。」と注意は受けるし、難しいレッスンの課題曲の時はどうしても手足が楽譜通りに動かず「うー…」と犬のように無意識に唸ってしまう。それでもドラムを叩くことはやめられない。私の人生には欠かせない時間となっている。


おわり

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