3月2日 温泉

 私は温泉が大好きである。最近こそ仕事の状況が落ち着いて身体への負荷が低減されたので温泉に行く回数は減った。しかし以前はパソコンに長時間向かうことが強いられると必ず酷い肩こりに悩まされ、更にそれを放置すると頭痛になった。そうすると頭の中に〝そろそろ温泉に行かなきゃ〟指令が発令された。

 

 まず北海道の有名な温泉地を挙げてみよう。

「湯の川温泉」「白老・虎杖浜温泉」「洞爺湖温泉」「北湯沢温泉」「登別温泉」「ニセコ温泉郷」「支笏湖温泉」「朝里川温泉」「定山渓温泉」「層雲峡温泉」「阿寒湖温泉」「十勝川温泉」「ウトロ温泉」「川湯温泉」「旭岳・天人峡温泉」「十勝岳温泉」「白金温泉」

 パッと思いつくだけで挙げられるこれらの温泉地の名前を、一度は耳にしたことがおありではないだろうか。ただ北海道の恵まれた温泉環境はこんなものでなはい。

 私は現在札幌でも南東側に位置する厚別区に住んでいるのだが車で片道1時間以内で行ける温泉がざっと以下に挙げるだけあるのだ。

「森のゆ(北広島市)」「森林公園温泉(厚別区)」「ユンニの湯(由仁町)」「長沼温泉(長沼町)」「南幌温泉」、1時間はかかるかもしれませんが「豊平峡温泉」もほぼ片道1時間で行くことができる。

 温泉の思い出とえば色々あるのだが、今も鮮明に思い出せるものが一つある。


 30年以上昔、大学時代の話だ。札幌からママチャリで支笏湖まで行き、夜中に支笏湖の温泉に入ろう(忍び込もう)という企画が持ち上がった。陽が上がる前の早朝なら無料で入れるという噂があり、それを確かめようというノリだった。

 行きは札幌から苫小牧を通って室蘭まで伸びる国道36号線に沿って千歳まで行き、道道16号支笏湖公園線で支笏湖に向かって上り坂を登っていくルートだった。支笏湖はご存知の方もいると思うが火山の大噴火でによって形成されたカルデラ湖で、千歳から向かうには、ある程度長時間坂道を登る覚悟が必要だった。ただ今でも覚えているのはその坂を登る辛さよりも、時々道路脇に掲げられている〝熊に注意〟という看板だった。札幌を昼頃出発して支笏湖畔に到着した時にはすっかり日が落ちていた。私たちはキャンプ場でテントを張ると食事も早々に寝袋にくるまって就寝した。

 そして翌朝まだ外が真っ暗いうちから起き出して目的を果たすべく行動を開始した。テントを抜け出し、自転車で温泉に向かった。その時だった、私は生まれて初めて漆黒の闇というものを経験した。

 

 森林が月明かりと星々の瞬きを遮ったのか、それとも新月だったのか。横で自転車を押す友人の顔さえ見分けがつかないという暗さだった。あまりの暗さに、怖さのためか、初めての体験に対する興奮からか「うおー」とか「わー」とか(熊への怖さも?)思わず叫声きょうせいを上げながら夜の道を進んだ事を覚えている。

 湖面に接する温泉はそんな早朝なのだから当たり前なのだが管理する人の姿もなく、私たちは服を脱ぐとそっと温泉に入った(忍び込んだ)。確かちょうどそのタイミングで空がしらんできた。朝靄に煙り、刻一刻と色を変える湖面を眺めながらの温浴は、私の心を、まるで別世界に迷い込んだような不思議な気持ちで満たしていった。ただ長居は出来なかったが。人が起き出してくる前に私たちは温泉から上がり、キャンプ場への帰路に着いた。


 書いているうちにまた温泉に行ってみたくなった。次の週末に温泉に出かけようか。何せ車で1時間以内のところに五つも六つも温泉があるのだから。


おわり

 

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