舞台はいわゆる中世ファンタジーな世界。
ある王国で起きた現象をきっかけに、記憶を失ってしまった主人公の旅路を追う物語ですね。
バラバラに散らばってしまった日記の断片を拾い集めて読んでいるような感覚で、まさしく「記憶喪失」をテーマにした内容に相応しい構成となっています。
私が魅力的だと感じたのは、世界観と表現力・描写力ですね。
情景に関してはとても詳細である一方、人物に関しては主人公を筆頭にどこか謎を秘めており、ミステリアスに描かれています。
語り手の立ち位置も安定せず、誰が、どの視点で物語を語っているのかが不明です。これは悪い点ではなく、いわゆる「信頼できない語り手」と呼ばれる手法の一種にあたり、記憶喪失という状況を再現するのに一役買っています。
秘められた謎は多いですが文章そのものは読みやすく、「花」と「花売り」が重要な要素となっているだけに、どこか神秘的で美しい世界観が広がっています。
読めば読むほど好きになる、素晴らしい作品です。ぜひオススメです。