第8話

日は既に顔を隠し、少しずつ、少しずつと星々が輝き始めていた。

「そいでのう…」

老人はそのぺらぺらと話す口を止めることなく、喋り続けた。

「えっと…そ、そう。」

よくわからない言葉がチラホラと出てきた老人の言葉に、彼女は戸惑いを隠せずにいた。

そんな二人が歩くこの道には、誰もいない。かつては賑わい、人々が行き交わす、そんな道だったところも今では、誰もいない、静かで、草が生い茂る。そんな道に変わっていた。

「あの…家っていうのは?」

「ああ、そうじゃな。そろそろ見えてくるぞ。」

老人はにこやかに答えた。

「ほら。」

指を指す先を彼女は見た。

「わあ!」

とても立派なお屋敷だった。庭まであり、庭の中央には噴水があった。

「こ、これは…」

「はっはっは!驚きじゃろ?この屋敷こそわしの家なんじゃ!お前さんも好きに使ってくれて構わんからな。」

「う、うん。」

「さ、ほら行こうかの。」

彼女は、老人についてきて、本当に良かったのか、疑いたくなるほどの大きく立派な屋敷に招いてもらった。

屋敷のドアを老人が軽く叩く。すると、中から侍女らしき人がドアを開けた。

「お帰りなさいませ。ご主人様。」

侍女は軽く頭を下げ、そして顔を上げる。少し驚いた表情を感じ取れたが、侍女はすぐに隠す。老人はそんな侍女に「ただいま。」と一言伝えた。

「私についてきなさいな。」

落ち着いた口調で、言う。私はコクリと頷いて見せる


本当に広い屋敷だった。天井を見上げるとシャンデリアがあり、階段は横幅がとても広い。窓の外を見ると、屋敷の裏には広い庭がある。


「とても、広い…」

ボソリと呟いた私の声に老人はすぐに反応をした。

「ふっふっふ、じゃろう?若い頃にな、全財産を使って建てたんじゃ!」

得意げな表情を見せられ、私はつい、笑ってしまった。

「おいおい。笑うなんてひどいのう…」

「あ、えと、ごめんな…さ…い」

「ふぁっふぁっ、そんなしょんぼりするのではないぞ!ほら、着いた。これからはここがお前さんの部屋じゃよ。」

老人はゆっくりと扉を開ける。


そこは息を呑むほどに美しい部屋だった。


「後で婆さんを呼ぶからのう。この部屋で待っておれ。」

「は、はい!」

私は、驚きながらふかふかのベットの上に寝転がろうとした。しかし、体がそれを拒んだ。私は自分の服を見る。汚れている。

私は仕方なく、大きい窓の縁に座った。もう月が顔を出していた。

「き…れ、い」

そんな言葉が口から溢れた。





記憶は奥深くへと、月の光に照らされることなく、奥深くへと向かっていく。

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