第4話

たどり着いた場所、それは玉座の間だった。ワリシャが言っていた『お客様』の姿はなく、父と母が玉座に座りながら、何やら真剣そうに話し合っているように見えた。私はそんな二人が座る玉座の後ろでリリとクスクス笑っていた。

「お母様、お父様。只今戻りました。」

その声に反応したかのように、母と父はビクッと肩をあげ、後ろを振り向く。

「まあ!あなた!見てくださいな!」

母が後ろを振り向いて言う。

「二人とも、よく帰ったな!さ、ほら反対に来て、もっと私たちに顔を見せてくれ。ほらほら。」

父が嬉しそうに、満面の笑みで言った。

私とリリはそれに従い、父と母の前に出た。玉座の間にいた近衛兵たちが驚きを隠せずにいる。

「本当に、よく無事に帰ってきたわね。よかった、よかったわ。」

母がほっとした様子で言った。

四年ぶりの再会に私は泣きそうになった。しかし、王女として皆の前では泣けない。私はグッと涙を堪える。

母は私の手をとり、優しく手を撫でる。母の手はとても暖かい。


「やあやあ、君たちの可愛い可愛い姫様が帰られたようだね。」

何やらとんがった口調で話すネズミのような男が、玉座の間に勝手に入ってきた。それを止めようと、近衛兵がで彼をこれ以上の立ち入りを禁ずるかのように、前に立つ。このような勝手な者がどうやって城門の前で行われる検査を通り抜けられたのかが気になる。

「エギャム。何しにここに来たのだ。言え。」

王たる立場の父は威厳のある口調で聞いた。エギャムというその男は、ネズミの笑い声のような甲高い声で笑った。

「そりゃあ、姫様の帰りを聞いたもんで、お祝いしにですよ。王様。」

嘘だ。明らかな嘘だ。私は、彼にバレないように父に耳打ちをする。

「彼、嘘をついております。どうやら何かを狙っているような気がします。多分ですが。」

「ああ。わかっているぞ。安心しろ。」

素早く対応した。

「そうか、私の娘を祝いにか。ありがとう。かつての友よ。」

父がそう言ったので、私は軽く頭を下げる。

「かっかっかっ!偉大なる姫様が俺なんかに頭を下げなさった!ははははははははは!そのような君には、いい物をあげよう。こちらに来てくれぬか、姫よ。この近衛兵が邪魔でそこまで行けないのだよ。」

エギャムはじっと私を見ていた。

「行ってはなりませんよ。」

母が言った。私は頷き、断るための言葉を発する。

「申し訳ありません。私は、物などは今はいりません。なので『いい物』ならば、貧しい民にそのような物をあげてください。私たちの城下町では、貧しい民には食べ物を配っているので。ですから、そのような者たちに少しでも足しになるようお願いします。」

私はまた、頭を下げる。王女らしく、礼儀正しく。

「ああそうかい、そうかい、じゃあもういいですよ。これだけ投げておしまいにしましょう。」

男は言った。そして、何かを玉座の間に放り投げた。父は何かを察し、

「早く、その男を外に追い出せ!その球を外へ投げろ!」

と言った。私はわけも分からず、立ち尽くす。その時だった。守護精霊が一気にこの玉座の間に集った。

「王よ、妃よ、姫よ、侍女よ、早く逃げなさい。これは私たちで対処しますから。」

一人の精霊が言った。

私は何もかもわからなかった。旅の疲れで余計に物事がうまく読み取れない。リリに背負わされながら、移動していることも後になって気づいた。

「リ、リリ?」

「姫様、気ずかれましたか⁉︎よかったです。」

「あのエギャムとは誰なのです?なぜ、このようなことになっているのです?」

このような時に私は何てことを、リリに質問しているのだと思いながら、聞いた。

「確か、王様の幼い頃よく一緒に遊ばれた方らしいですよ。それに、最果ての森と言う場所で、何やら怪しい研究をされているとか。あくまで噂ですが。」

その時だった。精霊が皆、玉座に集っているため、他のところは機能していないらしく、少しずつだが城の煉瓦という煉瓦が崩れ始めている。しかし、よく考えれば、精霊のせいではない。精霊が主に機能しているのは明かりや城の守護ぐらいだ。つまり、煉瓦は関係がない。ならば、なぜ煉瓦が崩れそうになっているのか。

「あなた、煉瓦が!」

母もそのことに気づいたらしい。父は驚いた様子で、

「もっと早く走れ!崩れ−−−」

「きゃあああ!」

母が叫ぶ。煉瓦が落ちてきたのだ。次に母が。次にリリの頭に…私はリリの背中から落ちる。

「何が起こってるの?」

そして、私の上からも瓦礫が落ちてくる。何も状況が掴めない。



終わりだ。



キャメル城は毒ガスが充満し、同時に地震が起こり、火事がおこり、何もかもが消えていき、崩れ、廃墟となった。

王や妃、姫すらも見つからず、幸運でいき残った者はその場を去り、次期に『キャメル城』の存在を知る者がいなくなっていった。


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