第3話
こんな隠し通路があったことを私は知らなかった。昔、幼い頃に好奇心で隠し通路が自分の部屋にあるかもしれないと思った私はリリと共に自分の部屋がごちゃごちゃになるくらいまで、探し回ったことがあった。しかし結局見つからず、その時は、母が私の部屋に来て、リリとともにこっぴどく怒られた記憶がある。
「すごいわね、リリ。こんな隠し通路があったなんて。」
「本当にそうですね。私も驚いております。」
もう王城内に来ているからだろうか、リリは、おとなしめにそう言った。私は、立ち止まる。
「リリ、私を見なさい。」
リリが、私の方を見た。私はリリの表情を見た途端に、リリが急に大人しくなったことの理由を察した。
「リリ、怖いの?」
そうやら図星らしい。リリは暗闇の中で微かに震えていた。そして、恥ずかしそうに頷く。
「ふふっ、あははっ!リリったら!」
「そ、そんなに笑わないでくださいよう!姫様〜!」
きゃっきゃっとして、進んでいたため、あっというまに隠し通路から出られた。出た先というのは入浴場だった。この時間帯はまだ湯船すらもできていない。しかし、天井が窓になっているため、日の光が入浴場全体に広がっていた。
「ここだったのね。出た先は。」
「まさか、入浴場だったとは…驚きです。」
「ね。私もよ。えっと、案内役のワリシャはどこかしら?」
私はキョロキョロと辺りを見回す。
「こ、ここにいます…姫様、リリ様。」
そっと柱の裏から顔を出し、恥ずかしそうにもじもじしながら私の方に近づいてきた。リリはワリシャを睨みつける。
「リ、リリ…」
リリの表情がさっきとはまるで違う。それを見たワリシャはさらに震え出し、先ほどのリリのように青ざめた表情である。
「なぜ、隠れているのかしら。ワリシャ?」
これは…完全にブチギレモードだ。このようなリリを私は久しぶりに見た気がする。前回は確か、庭にいた子猫を処理しようとしていた兵士をまるで火山が噴火したかのように顔を真っ赤にして怒っていた記憶がある。つまり、リリは怒ると怖い人間だ。怒らせてはいけない人ランキング1位か2位にいるレベルではないだろうか。
「姫様がやっと帰ってきたとういうのに、なぜ貴方はあのような柱に隠れているのですか?それでもキャメル城の案内役と言えるのですか?どうなのです?」
「ま、誠に申し訳ございません。姫様とリリ様に会うのは四年ぶりなので、緊張してしまい、あのような登場になってしまいました。誠に、誠に、申し訳ありません!」
焦りと緊張がごちゃごちゃになっていることが声の発音からよくわかる。それに、とても震えている。
「リリ。お黙り。もういいわよ、ワリシャ。」
今でも泣きそうなワリシャは私の顔を見たあとに土下座をした。
「誠に申し訳ありません!姫様。そして、無事に戻られたことをとても、とても嬉しく思っております。」
「ありがとう。ワリシャ。顔をあげなさい。さ、早く私たちを案内してくれないかしら?お母様とお父様のところへ。」
ワリシャは、顔をあげ、立ち上がる。
「もちろんでございます。どうぞ、こちらへ。」
ワリシャは、昔からこのような感じだ。私より年下であるが、よく仕事をこなし、言葉遣いも上手な方だ。礼儀や作法はまだリリは認めていないらしく、先ほどのような状況になってしまう。
「それにしても、四年って本当に長い年月なのね。」
案内されながら、私はリリに言う。もう入浴場から出たため、あまり声が響かない。
「そうですね。みなさん、本当にお姿が変わっていて驚いてしまいます。」
「ええ、本当に、そうよね。」
懐かしさを感じながら、私は長い廊下を歩く。廊下にある窓はとても小さく、外から見ても廊下に誰が通っているのか分からないほどにとても小さい。詳しく言うと、手持ちの手鏡程度だ。このような窓だともちろん、日の光も入らず、暗く思えるが、この城を守る守護精霊が『魔法』というもので廊下を明るくしてくれているのだ。どういう仕組みになっているかは私はわからないが、廊下に蝋燭がなくても明るいと言うのはとても便利のように思えた。四年前は、蝋燭と精霊の灯火の両方で過ごしていたが、どうやら今は全てが精霊の灯火の光に変わっているらしい。
「そろそろです。」
ワリシャが、階段を登りながら言った。私は頷き、少し緊張しながら階段の一段一段を慎重に登る。そして、階段の踊り場でワリシャは立ち止まり、壁に何かを唱える。すると、壁がぼやけ、見事に隠し通路が現れた。
「ここです。ここからさらに隠し通路になっているので、ここからは姫様とリリ様とでお進みください。玉座の後ろにたどり着くはずです。今は確か、訪問中のお客様が王様と妃様で話しわれていますが、そろそろ終わるという伝達をもらっているので、多分ですが、着く頃には終わっていると思われます。」
「思ったのですが、なぜ正式な道を通らせることなく、このように裏道ばかりを通らされるのですか?」
私は、首を傾げて聞いた。ワリシャは少し困惑した表情で、丁寧に答えた。
「それは…王様からの命令なのです。暇様が帰省したら表を歩かせてはならないと言う命令なので、私たちはただそれに従っているだけです。それに、王様と妃様は姫様が帰ってきたことを存じておりません。なので、早くお会いになって、驚かせちゃってください!」
先ほどの恥ずかしさはどこに行ってしまったのか。ワリシャはニコリと笑って、お茶目な感じに言った。私は笑って、「わかった」と答えた。リリは、相変わらず、冷たい目線を彼女に送る。そのせいか、ワリシャは身震いをして、一気に顔が青ざめた。
「もう、リリ!行きますよ。」
「はい。わかりました。姫様。」
私とリリは、ワリシャに別れを告げ、また細く暗い道を通った。またリリは震え出した。今回は二人が横並びになって通れる道ではないため、縦になって進む。
「リリ、怖いなら、私のワンピースにでも掴んで歩いてください。というか、もう掴んでちょうだい。」
「わ、わかりました。」
リリはその震える手で私のワンピースの裾を掴む。
「そんなに怖がりだったかしら?リリって。」
「え、あ、そ、そんなことありませんよ。」
そんなことないとか言えないレベルで震えている。私は、リリの方に振り向き、軽く頬にキスをする。
「え、姫様?」
「この四年間、私の我儘に付き合ってくれてありがとう。また今日からよろしくね。」
暗い、とても暗い通路で私は言った。リリの震えは止まり、微かに微笑んでいるように見えた。
そして、進むにつれ、光が見える。そろそろ玉座の間に着くのだ。
「姫様、そろそろですよ。」
「ええ。もう四年間のこの旅も終わりね。」
「そうですね。」
隠し通路を私は出た。
もう、この旅も終わりなのだ。花売りを探す旅は終わったのだ。
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