第2話

「お姉ちゃん、もう行っちゃうの…?」

シィナが寂しそうに言った。私は、そっとシィナの頭を撫でる。シィナ髪がくしゃくしゃになってしまった。シィナはムッとして頬を膨らませた。とても可愛らしい。

「ふふっ、シィナったら。私はこの後、用事があってね…だから急がないと。でも、また会いましょ?みんな。」

私は四人をまとめて抱きしめた。強く、愛情を込めて、抱きしめた。

「ちょ、お姉ちゃん⁉︎痛いし、苦しいよ!」

ムアロが顔を赤くして言った。

「あはは!お姉ちゃん、大好き!」

ラルが言った

「ったく、お姉ちゃんは…もう。」

グクラムが呆れたと言わんばかりの声と表情で言った。


私は、そんなみんなが大好きだった。

忘れたくなかった。ずっと、一緒にいたかった。


「よし!私は満足したわ!ふふっ、またね。」

私は、四人から離れ、手を振る。もちろん四人も元気よく、手を振り返してくれた。

花びらが舞う。日の光が、この地を照らすかのように辺り一面が輝いた。


そして、馬車に乗る。

「姫様、もうよろしいのですか?」

リリが優し気に言った。私は軽く頷き、窓の外で手を振ってくれている四人にもう一度、手を振る。

「ええ。お母様とお父様が待っているのですから。」

瞳に映る輝く光の玉が、微かに消えた。しかし、私はそのことに気づくことなく、笑顔を作り、リリを見る。

「そうですか。しかし、いいのですよ。帰る時刻は指定していないので。ですから…」

「大丈夫と言っているでしょう?いいのです。リリ。心配してくれてありがとう。」

「は、はい!姫様。わかりました。」

花畑の先には、とても大きく、どっしりとした城下町に入れる門が建っていた。

しかし、その門の扉はいつも閉まっているため、『通行書』というキャメル城が発行したものを門番という役目の兵士に見せなければならないのだ。また、通行人の顔も把握するため、顔を見せなければならない。

御者のササムは、『通行書』を見せる。兵士は「良し」と言い、次には顔を拝見し始めた。ササムの顔を見る、そして馬車の中にいるリリの顔を確認し、兵士は何かに気付いたのか、驚きを隠せずに嬉しそうな笑顔で私の顔を見た。

「おかえりなさいませ。姫様、リリ様、そしてササム。どうぞ、お通りになってください。」

頭を下げ、兵士は一人で鉄で出来ている門の扉を手押しで開ける。普通は誰にも開けられないとされる鉄の扉を彼は一人で、しかも片手で開けている。私は、驚きながら口に手を当てた。

「まあ…すごいですね…姫様」

「え、ええ…本当に。」

そして、馬車は城下町に入っていった。私たちが乗っているこの馬車は、王家の人間が遠征したり、隣国に訪問する時に使われていた物のため、普通は豪華で煌びやかしているはずだが、暗殺や盗賊に狙われる場合があるがために豪華な装飾はなく、いかにも貧しい貴族であると主張するような馬車の装飾になっている。そのせいか、城下町で過ごしている人々は四年も旅に出ていた王女の帰りを気づかずにいた。大通りを進み、馬車の目の前には息を呑むほどに大きく、そして輝く城が建っていた。この光景を見た者、誰しもが驚き、跪くだろう。

とうとう、城門の前に来ると、さらに厳しい検査が行われる。

まずは『通行書』を見せ、次に『王城通行書』を見せる。たまに偽装した『王城通行書』があるため、ここでは二人の兵士がキャメル城の紋章が薄く刻まれているかを確認する。今回は大丈夫だった。次に行うのが『人調べ』という何人この馬車に乗っているのか、何をしに城に来たのか、馬車にある荷物なども調べ、馬車自体も細く確認をする。そのため、兵士が六人出てきた。そして細かく調べる。

「この馬車から降りてください。」

一人の兵士が言う。ササムが先に降りると、馬車の扉を開け、私に手を差し伸べた。私はその手を軽く握りながら、いかにも王女だとわかる仕草で馬車から降りる。微かに春風が私の髪を揺らし、日の光が私にふり注ぐ。それを見た兵士は口をあんぐりとさせながら、まるで女神でも舞い降りたかと思いながら、その王女を見つめていた。すると、次にリリが身軽そうに馬車から降りた。

「帰ってきましたよ。マタツ第二十四兵士。」

私は声を細くしながら言った。マタツ兵士は跪き、頭を深く下げた。

「名を覚えてくださり、誠に光栄でございます。姫様。よく無事に帰ってこられましたことを誠に、誠に嬉しく思います。どうぞ、お早くギャメラス王とヒメラナ妃にお会いになってください。」

「ええ。わかりました。」

私は返事をする。マタツ兵士は立ち上がり、また深く頭を下げる。


すると、すぐに本部の方に伝達を送る。「姫様が帰って参りました。すぐに王様と妃様に会わせてください。」と。


「ササム、私たちは先に行っていますね。またお庭の小屋で会いましょう?」

「はいっす!また会えることを願ってるっす!」

「ふふっ、もちろんよ。それでは、またね。」

「はいっす!」

ササムと別れを告げると、王族専用の隠し通路がマタツ兵士によって開けられた。

「この通路を進んでいただければ、必ず案内役のワリシャに会えると思いますので、どうぞお進みください。」

「ありがとう。マタツ兵士。それでは、行きましょう?リリ。」

リリは、優しく微笑んで「はい。」と答えた。

私とリリは暗い隠し通路を通って、光が見えることを願って、進んだ。






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