第12話
「穗澄さん落ち着いた? 大丈夫?」
「イライラする……!! 誰か甘やかしてくれたら治りそうだなぁ……!」
「うん、大丈夫そうだね」
「やだ! 治ってない! 治ってないよ!! もっと甘やかして!!」
「穗澄さんはかわいいなぁ。天使天使。インターネットのエンジェル。超美少女。中身も個性的」
「…………えへへ」
しばらく後、少しばかり機嫌が治ってきたであろう穗澄さんにどうした物かと考える。
途中までは調子良かったのに、なんで怒り出したんだろう?
「てか穗澄さん。何をそんなに怒ってるの? 配信のコメント見た感じ我慢出来そうな気がしてたんだけど」
「人間、譲れない一線という物があります。ライン超えてきたのは怒るしかないよ!」
「普段のコメントも十分ライン超えてる気はするけど……」
そう言われて、さっき流れていたチャット欄について思い返す。
大体いつも通り……と、なりかけた所で、一個だけもしかして? って該当するコメントに思い当たる。
「……えーっと……もしかして、比翼連理さんの事をオワコンって言ってるやつ?」
「当たり前だよ!!! だってママの事をバカにされたら私じゃなくても怒るよ!! 全くもう。あのカス共……」
力強い頷きに気圧される。
……そう言えば、僕も冷静ではなかったから慌てて配信止めたけど、よくよく思い返せばあの時言いかけたセリフって『てかさぁ! 私が一番ムカついたのはママをオワコ────』……とかだよね、確か。
なんでキレたか納得がいくと同時に、申し訳ない事をしたなという気持ちが湧く。
「……確かにママバカにされたら怒るよなぁ。うぅん、ごめんね、配信勝手に切っちゃって。僕の不手際だこれ」
改めて聞いて、今回ばかりは正当性のある怒りだったから、またいつもみたいにキレ散らかしてると決めつけみたいな事をしてしまったという罪悪感もある。
「んー、まぁ、俊介君には怒ってないよ。何より私のためなんだよね? ごめんね、約束守れなくて……」
そう言って、殊勝な態度で落ち込む穗澄さんを見て更に罪悪感が加速する。
いや、こう、こういう穗澄さんにはなんか対応に困る。
この人、変な事さえ言わなければ普通にちゃんとした美少女だし、なんというかどう接すればいいかわからなくなる。
「……し、しょうがないよ!! ほら、アコちゃんって素の穗澄さんを出すためのアバターだし、そう考えたらデザインした比翼連理さんって本当の親みたいなもんだし、そりゃ怒るよ! 僕だって自分の親バカにされたら怒るだろうし! 今回は穗澄さんなんも悪くないから大丈夫だよ!!」
思わず、そんなフォローを入れる。
決して、決して絆されたわけでない。いや今回ばかりはコメントの方に非があるし穗澄さんは余計な事は言ってたけど怒りに関しては正当性しかないので当然の事を言ってるだけだ。本当に、絆されたわけじゃない。
「…………? 本当の親みたいな物もなにも、本当の親だけど……?」
何言ってるんだろうこの人。そんな目を向けてくる穗澄さんに僕も何言ってるんだろうこの人って目で返す。
あれ、本当に何言ってるのこの人??
「……? どゆこと穗澄さん? 言ってる意味がイマイチわからないんだけど」
「だから、ママはママだよ? ちゃんと血が繋がってるよ?」
「あれ、いつの間に穗澄さんのお母さんの話に変わった? いま比翼連理さんの話をしてたよね?」
「別に話変わってないよ?」
「えっ?」
「えっ?」
しばしの静寂が場を包む。
……待て、待て待て、穗澄さんは何を言ってるんだ? その言い方だと、まるで────
「終わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! もうヤダ!!! もー二度とあそこの仕事受けない!! ママを慰めて心恵ちゃーん!!!」
瞬間、穗澄さんの部屋の扉が開け放たれ、第三者の声が響き渡る。
声の主に目を向けた瞬間──穗澄さんに飛び込んでる!? えっ、誰!? いや、待て、今確かこの人、ママとか言ってなかったか!?
「もー、ママ引っ付かないでよー。彼氏も来てるんだから!」
「心恵ちゃんも冷たい!!! なにさなにさ。ママは頑張ってお仕事してるのにパパは厳しいし心恵ちゃんは冷たい。もーやだやる気なくなった。液タブでサーフィンしてくる」
「ママ、言ってることの意味がわからなくなってきてるからとりあえず寝た方がいいよ?」
「寝ませーん! まだまだ私達の人生はこれからだ!! 今から遊ぶ!! それに心恵ちゃんだって彼氏と遊んで………………あれ? 彼氏?? 来てるの??」
「うん。そこに居るよ」
穗澄さんが僕を指さすと同時に、穗澄さんに抱きついていた人がギギギと僕を見る。
目が合う。そして、しばしの無言。
その人はこほんと、咳払いをすると────
「はじめまして。心恵の母です。いつもこの子がお世話になっています。先程までの会話は気さくなジョークなのでお気になさらず」
「それで誤魔化せると思ってます?」
「…………ファーストコンタクト失敗したぁぁぁ!! もっとこう、出来るママを演出したかったのに!!」
「ママはいつも通りが一番だよ」
「えぐえぐ……心恵ちゃんは優しいなぁ……」
「何だこの人……」
グズグズと涙を浮かべながら穗澄さんに抱きついてる穗澄さんのお母さんを見て、なんかこう、穗澄さんの母親なんだな……って変に納得してしまう。
後、優しげな様子で母親を慰めてる穗澄さんを見てるとどっちが母親かわからなくなってくる。
……が! それはそれとしてだ!! マジで穗澄さんのお母さんが現れてどうしたらいいのかわからない。だって会うつもりなかったんだし!! てかこういう時なんて言えばいいんだ? お母さんがやらかした後だからマジでどうすればいいかわからない。なんだよこの空気地獄か??
穗澄さんに目で助けを求める。頼むわかってくれ。ヘルプミー。
「……全く、それじゃあ、俊介君にもちゃんと紹介しないとね。…………メッセージ見てくれてなかったみたいだし」
「えっ?」
なにを? と言葉を挟む暇無く、穗澄さんはしょうがないなぁという様子を隠そうともせずに言葉を続ける。
「この人は私のママ。で、夜芽アコのママでもあるの」
「はい?」
「だから、私のママ、比翼連理さん。そういう事」
私のママ、比翼連理さん。
……なるほど、なるほどなるほど、そっかぁ、なるほど、なるほどなぁ…………
「ウッソでしょ!?」
「本当だよ。前にメッセージで送ったのに見てくれてないんだ。ふーん……ふぅぅぅん??」
あらまぁ。チベスナみたいな目で僕を見てらっしゃる。怖いね。
「……過ぎたことは仕方ない!! それじゃあ改めて!!」
穗澄さんにどうやって言い訳するか悩んでいると、急に穗澄さんのお母さんが立ち上がる。
その場でくるっと回ってからピースを決めるという既視感しかないポーズを決めると──
「穗澄結衣子! PNは比翼連理! この子のママです!! よろしくねー!!」
うん。この人は間違いなく穗澄さんのお母さんだな。テンションは別として、言動がまんま穗澄さんだこの人。
でも、そうか。今までの違和感に納得が行く。
……確か穗澄さん、お母さんも比翼連理さんもどっちもママって呼んでるし、なんでわかりにくいのに同じ呼び方してるんだ? って思ってたけどそりゃうん、実の母親だもの。ママって呼ぶよね。
……しかし、しかしだ、この人が比翼連理さんとわかった今。僕はこの人に言わなければいけない事がある。
穗澄さんのチベスナアイズを受け流し、僕は意を決して────口を開く!
「ファンです!!! サイン貰えませんか!!!」
「いいよー!!!!」
「俊介君? メッセージの事ちゃんと話そうね? ウフフ」
オタクは神絵師に弱い。
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