第11話
「じゃあ、今日は怒らない事を心掛けて配信してみるね。ゲームだとアレだから……そうだなぁ。Vtuberらしい配信とかやってみようかな」
「またえらくふんわりとした事を」
Vtuberらしい配信ってなんだろう。やっぱり新衣装お披露目とか3D化とかライブとか? と言ってもそういうのは基本的に企業所属のVtuberとかがやってるイメージあるので、個人だと難しい感じはある。勿論個人でやってるVtuberも居るけど、ああいうのって結構お金がかかるみたいだから稀なんだよね。
「コラボ配信とかどうかな? ほら、よくやってるイメージあるけど」
「いや……アコちゃんとコラボしてくれるVってあんまり居ないと思うんだけど……」
「実はこの前、ツブッターで暴露系Vtuberの人から「コラボしませんか?」ってDMが飛んできて」
「なんで君はそう見えてる地雷に全力で踏み込むの?? ダメだからね、絶対ダメだからね?
……そうだなぁ。今期アニメの同時視聴とか、流行りのソシャゲやるとかはどうだろう? 話題乗ることも出来るし、新規リスナー獲得って意味でもいいんじゃない? まぁ同時視聴に関してはやるなら事前に告知した方がいい気はするけど」
「うーん、でもゲームはなぁ……ソシャゲでもヘタクソって煽られそう」
「ソシャゲなんて一部を除いて簡単だし、最近のはオートバトルとかもあるから大丈夫だよ、ほら、最近流行りとプリンセスアーカイブとか。あれとかゲーム性って言うよりかストーリーがウケてるんだし」
プリンセスアーカイブ。通称プリアカ最近流行りのソシャゲであり、僕もサービス開始当初からやってるソシャゲ。
ストーリーとしては姫君の騎士に選ばれた主人公。通称ナイト君と、様々な姫君達との日常の記録を綴った王道ファンタジーって感じのストーリーなんだけど、実はこの世界には秘密があって……って感じのお話。
これが中々によく出来ていて、今SNSでも話題になっていてVtuberや配信者達も結構やっており、プリアカプレイヤー達も初見の感想を聞きたいのかプリアカ配信で姿を見る事が多い。
なんで、僕的にはこれの配信やるのが良いとは思う。このゲームに難しい部分は無いし、なにより僕もやってるからアドバイスも出来るしね。
そしてなにより、プリアカの名前を出したのにはもう一つ理由があって、
「それに、アコちゃんのママが描いたキャラも最近実装されたし、いいネタになるんじゃない? ほら、実質アコちゃんの妹みたいなもんだから、そういうのネタにしてみるのもありなんじゃないかな?」
これである。最近実装されたキャラ、『ソラナ』ちゃんの絵師さんは夜芽アコを描いた人と同じである。
見た目としては穗澄さんに似た感じのクール系なんで夜芽アコのデザインとはまた違うけど、僕はあの人のファンなので引いた。
……その時の課金のあまりでスパチャしてこんなことになったんだから、人生何があるからわからないね。わかるかこんなもん。
「あー……そういえば最近描いたとか言ってたなぁママ……うん、そうだね! じゃあちょっとやってみる!!」
「いいね! 何かわかんない事があったら僕がアドバイスするから、頑張れー」
そんな訳で、『完全初見のプリアカライブ! ママの娘としてママの娘に会いに行く配信』が始まったのであった。
△▼△
「こんやみ〜! 今日からは怒らない事を心掛けで放送して行くって決めた夜芽アコだよ〜! 今日はタイトルの通り、プリアカってゲームをやっていきたいと思うよ! 最近はやってるみたいだしね〜」
:また出来もしないこと言ってる
:プリアカいいね。丁度ストーリー読み直したかったら丁度ええわ
:プリアカは赤ちゃんでも出来るぐらい簡単だからお前でもできそう
:いややり込むなら奥が深いからあのゲーム
:ソシャゲで奥が深いとかwww
:〇すぞ
:顔真っ赤で草
:ソラナ引くまで課金しろ
「だから挨拶……まぁいつもの事だからいいけど、皆喧嘩はしないよーに。怒ってもいいことないんだし、おトイレの落書きみたいなものに反応しちゃダメだからね」
:アコに諭されるレベル
:正論だけどコイツに言われたくない
:お 前 が 言 う な
:間違ってねぇんだけどさぁ
:今日のアコは一味違うのか?
「ふふん。今日は一味違うよ。むしろ一味通り越して七味違うからねアコ。
アコはね、かれぴっぴに諭されて反省したんだよ。やっぱり怒るのは良くないなぁって。だから、今日からは怒らないように丁寧な配信をやって行くよ〜! 皆もアコを見習って穏やかな心を手に入れようね」
:かれぴっぴ有能
:マジでかれぴっぴ居るのか? こいつに?
:でもここ最近はなんか違うよな。マジなのか?
:かれぴっぴどんな気持ちでコイツの配信見てるか気になる。
:動物園の猿じゃね?
:チンパンジーのアコちゃん
:台パンと燃える事が得意なフレンズ
:御三家パケモンにいそう
伝説の虫けら:カップル配信はよ
:虫けらじゃん
:俺はアコのかれぴっぴを信じるぞ。5万円払う虫けらが見たいから
:彼氏持ちのVに5万払うってどんな気持ちなんだろうな。教えてくれ虫けら
伝説の虫けら:馴れ馴れしいわ
「はいはい。とりあえず皆の事は放置してゲームやってくよー」
開幕と同時にいつものノリのコメントが流れるが、いつもと違った様子の夜芽アコの様子にチャット欄がにわかに騒がしい。
よし、今の所は順調だな。それに本人がそこまでdisられてる訳じゃないから穗澄さんもそこまで気にした様子もなさそう。
このまま平和に進めば……良いなぁ!! まぁそれをサポートするための僕だけど。
「じゃあ早速起動! ……あ、まずはデータのダウンロードか。結構容量多いなー。
アコ、ソシャゲとかテムテム以外あんまりやってないから実は結構楽しみなんだよねぇ。皆はこの結構ゲームやってるの?」
:ツブッターの神絵師が描いたエ〇絵でしか存在知らん
:最近ストーリー全開放されたからそれで始めた。まだ序盤だけど結構おもろいぞ
:主人公の正体は魔王の生まれ変わりでこの世界はループしてる。
:無料ガチャの時だけ触って、人権引いたらTLに居るプレイヤーに「で? こいつ強いんか?」って聞いて煽る遊びしてる。
:畜生で草
:ヒロインのユイカは諸悪の根源。
:絵師が描いたエ〇絵に興味出て始めたけど、ゲームやってるとなんかエ〇絵で抜けなくなる現象なんなんやろな
:あるある
:クッソわかる
:相手役が主人公とかだと、「主人公はそんな事しねぇ!!」ってなったりする事もない?
:俺書き込みしたっけ?
「いや、それはアコわかんないんだけど……まぁ皆やったりやらなかったりなんだね。後、ネタバレっぽいなー? ってコメントは流石にブロックするからね。ストーリー初見で楽しみたいんだから。ガチャは石貯めてから引こうかな〜」
:おk
:流石に俺達もお前より空気読んでるわw
:初見の悲鳴は気持ちいいからな
:今日はマジで普通のVtuberみてぇーな配信してるな
:でもコイツだからなぁ……
:コイツのやらかしが見たくて俺らここに居るからな
「……こ、コイツら……んんっ!! お! ダウンロード終わったよ! んじゃやってくからねー!!」
そんな感じで、ちょっとイラッとした様子はあるが良い滑り出しで始まったプリアカ配信。
うん。凄い。チャット欄がアレなのは相変わらずだけど、今の所いつもより平和と言うか、アレなコメントもあるけど普通のコメントで流され気味だ。
僕の祈りが通じたのか、穏やかな様子で配信が続いていく。
「ふんふん。主人公のナイト君、変な子だけど良い子だね。かれぴっぴみたい」
「えっ、ナイト君足を舐めてる……? ヒロインちゃん、この子姫君じゃなくて女王様? そういうプレイ??」
「あっ!! なるほどそういう事だったんだ!! だから足舐めたんだ。へぇ〜こういう伏線だったんだ……頭良いなぁこのストーリー考えた人」
「えっ……? えっ……? ちょ、あー……2章まで終わった!! ってもうこんな時間だ!? すっごいボリュームだったねぇ……いや、面白かった!! ソシャゲって結構ストーリーしっかりしてるんだね」
:乙
:最近のソシャゲはストーリーしっかりしてるぞ
:ストーリーがいいとガチャ回したくなるから全ソシャゲストーリーに力入れろ
:足舐めが伏線になってるのいい意味でシナリオライターの頭おかしい
:プリアカなら普通だぞ
おぉ、凄い。荒らしコメも度々あるけど、今日は普通のコメントが多くてそれがあんまり目立たないし、ネタバレっぽいコメントは逐一消してるから今日のチャット欄はとても平和だ。
そうだよ、やればできる子なんだよこの子。なんやかんや配信者適性は高いし、真っ当にやれば普通のファンぐらいは付くはずなんだ。
まぁ、僕からしたら普通のVtuberになった夜芽アコは変わっちまったよ……って思ってしまうが、今回ばかりは本当に自分の身が大事だから仕方ない。仕方ないんだ。
「ん〜……結構石溜まったなぁ。それじゃあ今日はガチャでも引いて終わろっか! てかそうだ、元々今日は妹であるソラナちゃんに会いに来たんだよ! 姉としてはですね、ママの娘は引かないといけないんだよ」
:お前の妹ではねぇだろ
:ソラナに対するヘイトスピーチやめろ
:いきなり家族扱いか? ヘラッパリらしいな
:マジでなんで比翼連理さんがお前のママやってんの?
:そこはマジで謎なんだよな
:あの人確か、多忙かなんかで企業Vのデザインするの断ったとかって話なかった?
:だからなんでアコのデザインしたのか謎なんだよな
:デザイン段階でコイツの本性知らなかったんじゃね?
:まぁ本性知ってたら受けねぇわなw
:猫かぶってたんやろなぁ
:比翼連理はオワコン
「……………………」
チャット欄で吹き上がる疑問は僕も抱いてる疑問と同じである。
比翼連理さん、本当にめちゃくちゃ人気ある絵師さんだからどういう縁で夜芽アコのデザインしたのか気になるし、比翼連理さんは毎度毎度炎上する夜芽アコをどんな気持ちで見てるのか正直気になる。
……が、それはとして今の一連のコメントにピキったのか、穗澄さんは何かを堪えるような様子。
まずいな、雑談をはじめてから一気にチャット欄がいつも通りになってきた。
(大丈夫だよな……? 穗澄さん……?)
そんな気持ちを込めて穗澄さんに視線を向けると、それに気づいた彼女は何か言いたげな視線を向けてくる。
(……俊介君のあの目。アレはやってよし! って意味かな? うん!! わかった!!!)
穗澄さんのコクリと頷き、親指を立てる。
よかった。わかってくれてる。そうだよ、穗澄さんはやれば出来る子なんだ。安心し────
「いや別にママは私の事知ってるし。なんなの? バカにしてる? てか皆の方が本性隠してるじゃん。私知ってるんだからね。今のコメント書いてた連中の何人かは天谷夢華の配信だと「こんゆめ〜」とか、「夢ちゃん頑張って!」とか書いてるの。なんなの? 二重人格?? それで猫かぶってるとか言われる筋合いないけど?? 皆の方が頭おかしいから。精神科行ったら??」
:草
:でたわね
:い つ も の
:夢ちゃんの配信きっちり見てるの草
──たのは間違いだったよこんちくしょう!!
(穗澄さん!! 落ち着いて!!)
声を出すわけにもいかないし、紙に書いて伝える時間もないので僕はジェスチャーで落ち着くように示す。
(両腕で地面を押すようなジェスチャー……あれの意味は……コイツら全員押し潰せ……って事ね!! わかった!!)
納得したような表情。頼む。今回こそは通じたはず。穗澄さんバカだけど頭は良いんだ。察してくれるはず!!
「それに皆だってこんな所でイキがってるけど現実だとそうじゃないでしょ。それで私の事バカにするなら私だってバカにするからね。どうせお前らまとめサイトのコメント欄とかでしょうもない対立煽りとかして喜んでるんでしょ。なんなの? 人生楽しい?? ずっとヤ〇コメでも見てたらこの異常者共が」
:あったまってきた
:ペラ回ってきた
:まーた始まったよ
:今日初めてこの人見たけど、こんな人なんだ……
…………ダメだこいつなんもわかってねぇ!!!
「てかさぁ! 私が一番ムカついたのはママをオワコ────」
「本日の配信は以上です!!! お疲れ様でした!!!」
思わず、声でそれ以上言わせるのを静止し、勢いのままにLANケーブルを引っこ抜いて配信を強制的に遮断する。
「あっ!! まだ言いたいことあったのに!!」
もー!! なんて言いたげな顔を向ける穗澄さんに、僕は冷静に、ゆっくりと、問い掛ける。
「あの……穗澄さん……? 今日は怒らないはずでは……?」
その問いかけに、穗澄さんはんー? と首を傾げる。
「いや、あの合図、やっちゃいなよ! GO!! って意味かなって」
「どこがぁ???」
かくして計画の第一弾は失敗に終わり、僕は盛大に頭を抱えた。
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