第6話
「〜〜〜〜♪」
「あの、手を組まないでください。あの、痛いです。締まってるってかキマってます関節が結構痛いちょマジで穂澄さんオイ」
今日一日、クラスメイトの視線と康太から何があったんだよ! という追求をなんとか流しに流しているといつの間にか放課後。逃げるように帰宅しようとした僕はいつの間にか先回りしていた穂澄さんに校門で捕まり、なし崩し的に穂澄さんの家に連行されている。
組まれた手が蛇どころが竜に締め付けられてるような感覚。捕食一歩手前かな?? 関節がキマっててわりとクソ痛い。
「穂澄さん。家で遊ぶのは段階を色々すっ飛ばしてると思うんだ。ここはファミレスとかに言ってだべってお茶を濁すのが正解だと思うんだ。ほら、マイゼリヤ行こうよマイゼリヤ。マイゼで喜ぶ彼女が見たいなぁ僕」
「ファミレスだったら誰かに見られる可能性があるから照れ屋さんの俊介君は嫌でしょ? 後、私はマスト派だから俊介君もマスト派になってね」
「この邪教徒が……って違う! そ、それならちょっと遠出を……!」
「私、門限があるの。それに私の家はここから近いからうってつけなの。だから……ね?」
ニコォと凄みしか感じない笑みで退路を塞がれる。ちくしょうなんか裏目ってる! 落ち着け。落ち着け僕。ここから何とかリカバーしないと。
「……ご、ご両親に会うことになりそうだし、ちょっと心の準備が……僕照れ屋だからさぁ!! いきなりは恥ずかしぃなぁ!!」
「それも大丈夫。パパとママは修羅場で今は部屋から出てこないから」
「いやご両親修羅場ってヤバい状況じゃないのそれ?」
「あ、違う違う。お仕事の修羅場。パパとママ、二人とも在宅ワークだから。しばらくは部屋で呻いてると思うの。だから会う事もないよ。ね? うってつけでしょ? ……あ、ここだよ。ようこそ! 私の家へ!」
完全に退路を塞がれてしまった上に、遂に穂澄さんの家にたどり着いてしまった。
マジでなんでこんなことに……頭を抱えながら穂澄が指さした家へ目を向ける。
「……そこそこでっかい」
そこにあるのは3階建ての一軒家。穂澄って表札が掲げられたその家はまだ真新しさを感じる、それなりに大きく、来る途中にスーパーやコンビニもあり、立地も良さげ。
穂澄さんもしかして結構良い家の子なんだろうか? そんな家の子がなんでこんな……こんな……
「ママのお仕事の調子がいいらしくて、最近引っ越したばかりなんだよね。防音もしっかりしてていいお家だよ!」
「防音って……あー、納得」
そこで脳裏に過ぎるのは夜芽アコの配信の様子。
よく配信で叫んでブチギレてるからな……防音がなかったらご近所からのクレームがヤバい事になってるだろう。
ちなみにここ最近でうるさかった天谷夢華さんとの喧嘩バトルだったな……
天谷夢華との喧嘩バトル
『えー、本日のゲストは天谷夢華さんです。こう、前回やらかしてしまったので、改めて謝罪を……そう思って呼ばせていただきました!』
『こんばんはー! えー、やみんの皆様、天谷夢華です! この度は……本当に……お世話になりました……ね……』
:うちのバカが本当にすいません
:アコ土下座しろ
:誠心誠意謝罪しろ
『裏で何回も謝ったよ! でも改めて、本当にごめんね夢華ちゃん。悪気はなかったの、本当に』
『うん。悪気があったら私ここに来てないからね? だからこうして、仲直り配信しようって声掛けたんだから』
:マジで天使やこの子
:俺たちの闇が浄化されていく。アコのチャンネル登録解除して夢華ちゃん見るわ
:でもよくまたコラボしようと思いましたね
『こいつら……』
『アコちゃん落ち着いて? コラボについては、ほら、間違いというか、ミスは誰にだってあるからね。悪気がなかったらそりゃ私も鬼さんじゃないから許しますよ!』
:あざとくないかわいさ
:見習え夜芽アコ
:アコももうちょい寛容な心を持てクソメンヘラ
『あのさぁ。何回も謝ったんだからもうちょっと優しく扱ってよ! 私だってちゃんと反省したんだから! ほら、もう彼氏かどうかなんて事聞かないから!』
『アコちゃん?』
『確かにあの時の声は気になるけど夢華ちゃん本人が彼氏じゃなくてお兄さんって言ってるし、アレは事故なの! 悲しいすれ違い! って言うかそもそも仮に本当に彼氏でも普通はお兄さんって言うから! そう言う文化なのVtuberって。ねぇ夢華ちゃん!』
『アコちゃん? そろそろ黙ろう? 怒るよ?』
『ていうかそもそも夢華ちゃん普通にめちゃくちゃいい子だから! 彼氏とかいても違和感ないもん! そりゃ聞いた私も悪かったと思うけど、わざわざ邪推して彼氏居たんですね……なんてコメント書く奴の方が私より悪いよ!!』
『いい加減にしてよこのメンヘラ女』
『……はぇ?』
『いやさっきからなんなの? せっかく全部水に流して仲良くやりましょうね。って理由で今回のコラボ受けたのになんで火に油注いでんの。だからそうやって毎回炎上してるんでしょ。そういう芸風なら一人でやってくれない? ウザイから』
『…………芸じゃないですけどぉ??』
『救いようのないバカじゃん』
『は?』
『は?』
:夢ちゃん……?
:やばい
:おい配信止めろ
:切り抜き確定
:夢ちゃんこんな低い声出るんだ
丸焼き大草原:二人共落ち着いてください
そこから始まったのはとてもお聞かせ出来るような内容じゃない二人の女の口撃戦。
あの時はマジでうるさかったなぁ……ちなみに、この配信の後、二人はお互い嫌いあっており、どちらも配信で相手の話題が上がる度に不穏な空気になる。
なら互いの名前をNGワードにすればいいのにとは思うが、NGワード使うと視聴者は面白がってなんとかワードを貫通させようとするから、お互いNGワードには指定してないらしい。
でもNGワード貫通は確かに皆面白がってよくやるからなぁ……夜/芽/ア/コとか、夭谷萝華とか、こんな感じで単語の合間に記号入れたりよく似た文字にしすり替えて貫通させる事。
まぁこんな事するのは普通に荒らしなのでやってはいけない。こんな事したら配信者にブロックされても文句は言えないので真似だけはしないように。僕は一体誰に話しかけてるんだ?
まぁ、そんな事は置いといて。
「さっ! 入ろう!! 家に誰かを呼ぶのは小学生以来だからちょっと緊張するかな……しかも、か、彼氏を……!」
「は、ハハハ……」
……こうなったら腹を括るしかない。
ここで穂澄さんの事をある程度知って、対策を練ってみせる……!! 気合いを入れ直して、僕は穂澄さんの家に足を踏み入れるのだった。
「ただいまー」
「お、お邪魔しまぁ〜す……」
玄関を抜けた先に広がっているのは、特筆すべき事は特にはないふつーの家って感じの内装。
大きい家でも普通の家とそこまで変わりがないんだなぁ……
『ヤバイヤバイヤバイ!! どうしようパパ!! ねぇどうしよう!? これ間に合わない!! 無理!! 諦めよう!! もう全部諦めて寝よう! さようなら、さようなら、私は夢の世界に旅立とうと思います』
『だっから言っただろうが!! なんで昔から毎回毎回早くやらねぇんだよ!? 寝るな起きろ!! 俺だって諦めて寝てぇよ! でもこれ飛ばしたらまずいだろうが! ほら、もうひと頑張り! やれば出来る! お前はやれば出来る子なんだ!!』
『うぅ……つらい……ねむい……がんばる……』
『よし!!』
ごめん特筆すべき事あった。玄関入ってすぐ横にある、少しだけ開いた扉の向こうからなんかやべぇ声聞こえてくる。
「あの……これ大丈夫なやつ……?」
恐る恐るドアに向かって指さして、僕は穂澄さんに問い掛けた。
「うん大丈夫。パパとママ、お仕事の締め切りが近い時は毎回こんな感じなんだ。楽しそうだよね」
『あああああ!! もうやだぁ!! 次は絶対早くやるぅ!!』
「……エキサイティングなご両親だね」
「フフン。自慢のパパとママです。
さっ、私の部屋は二階だから着いてきてー」
世の中には色々なご家庭があるんだな……なんて考えつつ、穂澄さんの後に続き階段を昇る。
登ってすぐ左に、デフォルメされた穂澄さんが『このえのへや』と言ってる姿が描かれた看板が掛けられた部屋がある。いややけに上手いなこの絵。けどなんか見覚えのある絵柄だな……?
「ここが私の部屋。さっ! 俊介君! 入って入って!」
考えに集中している内に穂澄さんが部屋の扉を開き、僕を中に招き入れる。
……ここまで来たんだ、仕方ない。意を決して僕は一歩踏み出した。
……あ、翔華に帰るのが遅くなるって連絡しとかないと。
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