第3話 幼馴染みの待ち伏せ

 



 整理しよう。 

 

 新条茜。

 こいつに関わらず、高校生活を満喫するのが俺の理想だった。


 しかし、現実は違った。

 転校早々なぜか絡まれて学校案内をされたあげく一緒に帰る羽目になった。

 

 なぜこうなってしまったのか? 俺はある考えにたどり着いた。

 新条茜は生徒会副会長として転校生の俺を気にかけただけなんだと。

 だとすると、あんなに絡んでくるのは今回だけ。日が経てば絡んでくることはないだろう。


 そうだ。そうに違いない!!


 そう思っていた。



「それでね、おねぇちゃんがね……ってちょっと聞いてる?」


 今は昼休み。みんなそれぞれ仲良しグループとお昼ご飯を食べながら談笑している中、俺は茜と2人で昼ご飯を食べていた。

 

 クラスの友達に一緒に食べようという誘いを断ってでも茜はこうして俺と一緒に居る。


 こんな調子が1週間ほど続いていた。


「ちゃんと聞いてる。お姉ちゃんが何?」


 

 クラスの男子からは羨望と敵意と殺気がこもった視線を感じ、クラスの女子には『佐藤くんに茜ちゃんを取られちゃったねー』とか言われる始末。


 こいつは俺をクラスの男子から孤立させたいんだろうか? だとしたら相当の策士だな。


 バッサリと断ることも出来るがそうなるとベソかきそうでめんどくさい。それこそクラス内での俺の居場所がなくなる。


 

「……ていうかアンタ。今日もそれ?」



 茜は呆れたように俺の昼ごはんであるゼリー飲料と栄養食を指さした。



「10秒でチャージできるゼリーと5大栄養素が詰まってる栄養食だぞ? 健康的だろう?」


「いや、そういう問題じゃなくて……弁当は?」


「作るのがめんどくさくて」


 

 一応、料理は人並みに出来る。弁当も作るくらいは朝飯前なのだが……やる気が出ない。弁当作るために起きるよりも寝たい。そんな思考になる。だからゼリーと栄養食を家に買い貯めてそれを学校に持って来ている。



「ふぅん……じ、じゃあさ。今度私が弁当作ってあげようか?」


「え、お前料理できるの?」

 

「べ、弁当くらい………………余裕で作れるわよ!!」



 なら動揺せずに言ってもらえませんか? 


「へーそう……はっ」


「は、鼻で笑われた……!!」


 

 疑いの目を向けてながら適当にあしらっている俺を見て悔しそうに頬を膨らませる。


「ぐぬぬ……!! 絶対にギャフンと言わせてやるんだから……!!」


「言っておくけど、俺は忖度なしで評価する男。まずかったら容赦なくボロクソに言うからな」


「………………」 



 すっと汗を流しながら顔をそらされた。



「そ、それよりもよ!!」



 ずいと前のめりになって近づいてくる茜に驚きつつ体を逸らす。随分と顔が近い……



「えっと、その……」



 恥ずかしさか緊張かは知らないが頬が少し赤く瞳も揺らいでいる。それはまるで告白の予兆のように映った。

 何度も目を逸らし、目を合わせ躊躇しつつも何か言おうとした瞬間



「茜ちゃーん!! 生徒会の人が来てるよー!!」



 クラスの女子が茜を呼んだ。



「!! はーい!!」



 言いたかったことをぐっと我慢したかのように立ち上がり、じーと俺を見て教室へと出ていった。


 ……何を言おうとしたんだ? まぁ、どうでもいいか。


 さて、あかねが席を外したとなった今、俺はぼっち状態だ。


 ……どうしよう。





 翌朝


 朝の登校時間は数少ない茜に絡まれることのない穏やかな時間だ。

 しかし、俺の目に飛び込んできたのはと曲がり角で誰か待ち伏せしている茜の後ろ姿だった。



「……何してるんだ? あいつ」



 尻をふりふりしているその姿はどこから見ても不審者そのもの。 

 誰を待ち伏せしてるんだか……俺じゃないよな?


 そう願いつつ、茜の背後に近いていく。

 茜は曲がり角の先を見つめるのに必死で俺に気づいていない様子だ。


 

「一樹のやつ遅いわね……そろそろ来てもおかしくない時間なのに……」



 いつきはこっちだよ。

 不服な顔でぐちぐちを言っている茜の方を後ろからポンと叩き



「新条、おはよう」



 声をかけた。



「ぬわー!! え、え、え!? な、なななんで!?」



 茜は飛び跳ねて、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしながら叫んだ。

 なんではこっちが聞きたいよ。

 無言であかねを見つめると目をぐるぐるとさせ、挙動不審な動きをする。


 ストーキング行為がバレたストーカーかお前は。



「い、いつきじゃない!! ぐ、偶然ね!」



 こ、こいつ開き直ってゴリ押してきやがったぞ。あくまで偶然を装う気だ。



「……本当に偶然なのか?」


「あ、当たり前じゃない!! アンタと出会ったのも偶然も偶然!! ほら行きましょ!!」


「……はいはい」



 ため息を吐きながら、茜と大通りに出る。



「あ、あんた登校する時はこの大通り歩いてなかったっけ?」


「今日はたまたま違う道を使ったんだよ」


「あ、あ、そうなんだ! なるほどね!」



 いつものように茜が話かけてくるがそわそわして落ち着きない。話し声もどこか緊張している。

 

 ああ、これは言いたいことがあるけど言い出せないって時の態度だな。こういうところは分からない。

 おそらく昨日の昼休みに言いかけた話をしたいんだろう。学校に近づくたびに焦りの表情を見せてくる。

 

 この調子じゃ何も言えずに終わる。

 まぁ、どうせ面倒ごとなんだ。気にもならないし、聞かずに終われば良いにこしたことはない。




「そういえば、昨日の昼休みに何か言いかけてなかったか?」



 気にはならんが、話を聞くだけなら良いか。


 そういうと嬉しそうにこちらを見つめ、くいくいと強めに袖を引っ張って言った。



「あ、あのね! お願いがあるんだけど……」

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