Re:メモ帳から始める本格的勉強生活(高1の10〜3月)


 昨日……じゃなくて一昨日の続きから。

 高1の10月、みすず学苑に入苑して英語の授業を週1で受講開始。

 講師は関西弁の陽気な男の先生だった。ここでみすず学苑のシステムを紹介しておくと、まず授業は教室での生授業。学力別にクラス分けがあり、僕は3クラスある中の真ん中の〈私もやったるぞ!クラスA〉からスタート(嘘だと思うかもしれないが、本当にこんなクラス名なのだ)。1クラスは最大25名だが、1・2年生のクラスは多くても10名くらいしかいない。そして授業前に英単語・熟語・構文のテストがある。ターゲット1200という高校基礎レベルの単語帳と基本英語構文250というみすずオリジナル教材をテスト範囲とするもので、100点を取るとブラックサンダーが1個貰える。80点以上が合格で、100点じゃなくても合格したら飴が2個貰える。不合格だったら、授業後に受かるまで再テストがある。高1の時は一回も落ちたことは無かった。というのもターゲット1200は結構易しい単語帳だったからだ。それでも合格したらお菓子が貰えるというのは良いインセンティブになっていて、毎週水曜日にある授業に向けて単熟語を覚えることがルーティン化した。

 肝心の授業についてだが、英文法と英語長文の授業が1時間ずつあった。入塾時のクラス分けテストでも指摘されたのだが、英語長文に比べて英文法問題の出来が悪いということで最初の内は英文法の分野で少し苦労した。みすずの授業では少人数なのを生かして、授業内に最低1回は講師が生徒に対して質問を投げかける。それは単純に予習してきた時点での問題の答えを訊くこともあれば、何故その答えにしたのか根拠を求めることもある。この方式には最初緊張したのだが、自分が何を理解していて何を理解していないかを理解することにつながったし、講師は生徒が理解不十分だと感じた部分については詳しく解説してくれるので、自分にとってはとても良かった。また、授業は受けっぱなしではなく、必ず英単熟語・構文テスト(みすずでは〈コマンドテスト〉と呼称される)の後に前回の授業の復習テスト(レビューテスト)が実施され、そこで理解度合いを確認できる。これがあるので、僕は毎週水曜日に授業を受けた後に帰りの電車内で軽く復習、木曜日に1回目復習、土曜日に2回目復習、火曜日に3回目復習を行ってから次の授業に臨んでいた。途中から、それだけでは心配になったので毎週土曜日に前々回の授業の復習も行った。これがかなり英文法力強化の下地になった。このような反復学習作戦を採ったのは、夏頃から視聴していたYoutubeの〈武田塾チャンネル〉の影響があった。このチャンネルで、大学受験は授業だけでなく参考書による自主学習が必要不可欠であることを知ったし、志望校合格の為の参考書ルートをこなす為に計画を立てて、それをルーティン化する大切さも学んだ。ならば武田塾に行けという話だが、みすず学苑を選んだ最大の理由は、実はその〈参考書による自主学習〉という点にある。

 みすず学苑には、授業後にカレッジタイムという講師との面談の時間がある。面談といっても、面談室に一人ひとり入ってやるというような本格的なやつではなく、講師が指定した課題問題集を一週間でどれくらい進められたかを一人ひとりチェックし、進捗度合いに合わせてアドバイスしたり適宜質問に答えたりするというもので、授業後の教室に生徒全員が問題を解いたノートを持って列に並び、講師と話し合うという形式を採っている。人によっては1分ぐらいで終わったり、10分ぐらいに長引くこともあるこの短い面談だが、一週間に一度課題の進捗度合いを確認してもらえるというだけでも、僕にとっては励みになった。講師の指定する課題問題集というのは、僕の場合最初は英文解釈から始まり、学研の〈高校英文読解をひとつひとつわかりやすく。〉という基礎的な問題集が指定された。最初はその1冊だけで、みすずの授業に慣れてきたら英文法の課題が与えられたり、リスニングが僕の苦手分野だと話すと初歩的なリスニング教材を指定してくれた。みすずにも課題問題集一覧という参考書ルートみたいなものがあって、授業が無い武田塾には一抹の不安を覚えていた僕には最適なのがみすずだった。僕はみすずに少しずつ慣れていき、授業と自主学習の両輪を以てなる受験勉強が自分の生活の中にルーティン化された。

 そのルーティン化の際に役立ったのが、メモ帳である。高校入学後からメモ帳の使用自体は始まっていたが、それは単に学校での生徒への連絡事項を書き留めておいたり、創作用に使っていたりしていただけだった。そこから武田塾チャンネルに感化されて、武田塾やみすずの参考書ルートを参考にしながら自分なりに調べて、数国世界史の参考書も最低限調達したところで、取り組む問題集のページ数などを一日毎にメモ帳に書き込み、チェックリストを設けることで勉強量を管理した。9・10月の間は自分の一日の行動を自習時間中心に30分単位で管理していたのだが、みすずの自習室での自習がルーティン化してからは勉強量のみの管理となった。よく勉強においては量と質のどっちが大切かが議論されるが、とりあえずは量を重視すべきだ。量をこなさなければ、それが効率的であるかなぞ分からない。僕は何度も何度も勉強法やルーティンを試しては失敗を繰り返して、3年生になる頃にようやく自分に合ったやり方を自分なりに見出した。それでもまだ失敗したと思うことはあったが。ともかく、メモ帳を活用した受験勉強のルーティン化によって高1の11月には執筆や部活を続けながら、授業を除いて平日2〜3時間・休日6〜7時間の勉強量を捻出した。それでもまだまだ不十分だという自覚はあった。証拠に、11月に行われた進研模試の結果はあまり良くないものだった。


 ベネッセ総合学力テスト 1年生11月記述

     点数  全国偏差値 校内順位

 国語 62/100   68.5    11位

 数学 42/100   55.4    106位

 英語 67/100   62.1    156位

 総合 171/300   63.1    54位


 みすずで授業を受け始めてから1か月しか経っていなかったし、7月の時と違って学校でちゃんと時間を計って集団で解いた為、残念ながら当然といえる範疇の結果だった。千葉市立稲毛高校(普通科偏差値67)の進学実績は、毎年東大が1人出るか出ないかという自称進学校。早稲田30人程度・慶應10人程度・千葉10人程度・一橋2〜4人程度、MARCHは重複有りで300人越えで、ボリューム層はMARCHの明治・法政・立教あたりに進学する私立文系特化型の学校だ。そのため校内54位という現状では、東大・一橋・早慶はおろか千葉大も危ぶまれる成績であるというのは言うまでもないだろう。余談だが、進研模試は1年時では志望校判定が出ない。そのため進学実績からの推測でしか自分の立ち位置を把握できなかった。そのことを7月の模試で知っていた僕は11月の進研模試を受ける前の10月に、外部模試を初めて受験していた。そしてよりにもよって受験したのは、『Soon Die残酷模試』の愛称で知られる駿台全国模試だった。高1の頃から東大など難関国公立を志望する成績上位層が好んで受験するこの模試では、偏差値40代の高校でも強制的に受けさせられる進研模試での偏差値よりも15〜20低い偏差値が出ることで有名である。そんなことを知るのは駿台模試を申し込んだ後のことだった。そして12月に結果が返ってきた。


 第2回高1駿台全国模試(記述・ハイレベル) 1年生10月

     点数  全国偏差値 

 英語 76/200   50.2   

 数学 50/200   41.4

 国語 120/200   62.9

 総合 246/600   50.8

 判定(A=合格可能性80%以上 B=60%以上 Ⅽ=40%以上 Ⅾ=40%未満)

 千葉大法政経学部B 慶應経済Ⅾ 早稲田法Ⅾ 明治政治経済B 一橋法Ⅾ


 結果は火を見るよりも明らかであった。英語は物語型の長文の内容がまともに理解できず、リスニングも長い早い難しいで壊滅。数学は基礎問題以外はほぼ全滅。基礎問題でも理解の抜け落ちが散見された。進研模試でも唯一の頼みの綱の国語のみ健闘したが、判定はやはり無情なものを突き付ける。中学生の頃から何となく思っていた志望校の千葉大法政経学部はB判定だったが、欲を出して志望した早慶や一橋はやはりⅮ判定。Ⅽ判定のボーダーにはちっとも届いてはいなかった。11月の進研模試よりも前の受験なので更に成績が悪いのは当然なのだが、自分の実力不足を思い知った。

 さて。駿台模試の結果が返却されるのと同じ頃、みすずの11月授業が終了して冬期講習の期間になった。といっても僕は英語しか受講してないので、4日間連続の英語講座を2コマ受講するだけで後は授業無し。ところがみすず学苑はここら辺の動機付けが上手く、授業が無い日でも自習に来れば冬期講習期間中なら毎日アイスが貰えるのだ。というわけで僕は必ずしもアイス目当てというわけではないが、ほぼ毎日みすずで自習した。また、12月上旬にはビッグカレッジタイムという講師との面談があった。これはいつもの毎週あるカレッジタイムとは違って、一人あたり30分間個室で話し合って、進路相談や3か月学習計画の作成を行うというものだ。その時の僕は国公立の第一志望を〈千葉大学法政経学部〉、私立の第一志望を〈慶應義塾大学経済学部〉とした。千葉大は自分にとっては最低限のラインだと思っていたので、チャレンジ校は慶應だった。当時、僕は色々と試行錯誤しながらも受験勉強のペースを掴みつつあった。みすずで受講していた英語だけでなく、数学は青チャートで数Ⅰ・Aの復習を中心に基礎問題を固め、国語は何故か漢字や現代文キーワード集をやっていた(国語に関しては無駄だったと思う)。また学校の授業で興味を持った世界史Bについては、どんどん先取りしては旺文社の〈世界史基礎問題精講〉で演習を行っていた。それでも自分には、千葉大よりも上の国公立を志望する勇気が無かった。駿台模試で、最後にワンチャンで志望校欄に書いた一橋大法学部などがそうだ。というか、千葉大ぐらいで自分は十分だとさえ思っていた。受験勉強始めたての状態では、まず千葉大でA判定取れるように勉強するのが最優先で、それ以上の大学を志望することは考えてもみなかったからだ。だからチャレンジ校に、私立の慶應を書いたのだ。簡単に言うと、自分には自信が無かった。だから面談では『慶應は行ければ行くって感じで……』と言った。それに対して、いつも優しい感じの関西弁先生がぴしゃりと言った。『行ければ行くんやなくて、行けるように勉強するんやで』。言われてみれば当然のことだったが、僕の心を打つ言葉だった。


 面談が終わった後、僕はふと考えた。自分は何の為に大学に行くのか?

 僕の将来の夢は、その当時は千葉県公務員だった。母と同じ職業。持病を抱える自分には福利厚生が良く、倒産の心配が無い県に仕える公務員。自分の趣味である執筆も、私企業に勤めるよりは残業時間が少ない公務員ならば、無理なく続けられる。そして千葉県の公務員になりたいなら、千葉大に入るのが確実だ……。

 ああ、それは確かだ。事実だ。間違っていない。けど、だけど。

 それは僕の本心か? 否、それは母が言ったことだ。そう思うと同時に、中学受験の時の記憶が一気に自分の脳内でフラッシュバックした。そして嘆いた。

 嗚呼、このままでは中学受験の時と同じだ、と。いや、それよりも酷い。自分の意志で始めた中学受験に対して、僕の大学受験はいわば母の意志から始まっていたのだから。僕は嘆いた。それと同時に、決意した。

 僕は絶対に、千葉大よりも上の国公立大学に行く。そして小説家になる。

 小説家になる為には、正直言って学歴は要らない。だが、それは必要条件の話だ。大学に入って学ぶことでしか見えないものもあるだろう。だから、大学には進学する。けれども千葉大では妥協しない。早稲田や慶應でも、妥協しない。一橋、東大。

 自分の限界は現時点では分からない。それでも、諦めたくない。

 自分の限界まで勉強して、頑張って、努力して。そして自分が真に行きたいと思った大学を、自分の意志で志望し、受験し、合格したい。

 自分の意志で志望したにも関わらず、最終的には自分の実力不足によって、他人の意志に流されて志望校を下げ、悔し涙を流すことになった中学受験。

 あの時の自分を乗り越えたい。そう思った。

 また、どこかで目にしたみすず学苑長・半田晴久の言葉を思い出した。

 『一生に一度ぐらい死ぬほど勉強したという経験があっていい。』

 なるほど、その機会が僕にとってはこの大学受験ということか。ならば全力で挑んでみようか。その為に、もっと頑張らなくては。

 そう思った瞬間に、僕の大学受験は真の始まりを告げた。


 ビッグカレッジタイム以降、僕はより一層勉強に励んだ。みすずのイベントである冬期学習道場では12月30日〜1月3日の5日間、みすずで10時間の勉強を行った。家でも勉強していたので、その期間の勉強時間は12時間近くだったと思う。毎年正月は館山の祖父母の家に行っていたのだが、その時はきっぱりと行くことを断った。ビッグカレッジタイムで立てた三か月学習計画表や講師からのアドバイスに準じて参考書を随時追加しつつ、バリバリと勉強を進めた。その成果は、意外にも早く現れた。


 ベネッセ総合学力テスト 1年生1月記述

     点数  全国偏差値 校内順位

 国語 57/100   66.1    24位

 数学 74/100   72.0    5位

 英語 69/100   67.4    63位

 総合 200/300   71.4    9位


 本格的に勉強を始めると今まで勉強してない分すぐに伸びるとは聞いていたが、数学で良い結果が出て嬉しかった。英語も校内順位はあんまりだが、全国偏差値で見ると国語を抜き去って二番目。むしろ国語が落ちてきているという印象だったが。

 自分がやってきたことに初めて結果が付いてきたことに良い感触を得て、僕の高校1年生としての一年は終わりを告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る