第47話 神器招来! 後はテメーをぶっ潰す!

 パキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!


 乾いた、それでいてかん高い音が響き渡った。 

 その音にフォグブルーの哄笑が止む。

 

 檻の格子は断絶し、崩壊していく。

 俺が一刀両断したのだ。

 同時に地獄ハデス黒炎こくえんすらも薙ぎ払い、その勢いを失くしていく。


「な……何ッ!? 高位の魔神デヴィルすら封印する檻なんだぞ!?」


 天空でフォグブルーが何かほざいているが、気にしない。

 俺は意識は澄み渡っていた。

 今自分が振るった力に若干驚きつつも両手に握っている漆黒の刀に視線を向ける。


 ――美しい。


 漆黒刀の先端から柄まで視線を滑らせる。

 美しい反り、鈍く光る漆黒、刻印されためいつばのない洗練された造形美。


 漆黒刀――これが俺の神器セイクリッド・アームズか。


 俺の魂と癒着していると言うそれからは圧倒的なまでの黒子力ダルクが感じられる。

 俺の黒子力ダルクを注ぎ込まなくてもこれか。


「はッ……魔人まじんたる俺にぴったりの神器セイクリッド・アームズだな」


 手首をかえして漆黒刀を操ると、シュッと小気味よい風切音がする。

 かなりの長さの刀剣だが、問題なく扱えそうだ。


 《不惜身命》


 滅ぼせるやれる

 これがあれば俺は熾天使セラフでさえも滅ぼしてみせる。

 俺はゆっくりと天空を見上げると、遥かなる高みから見下ろしているフォグブルーを視界に収める。


 いつまでも見下ろしてんじゃねぇ!

 俺は大地を蹴ると、空へと舞う。


 神術しんじゅつやぶられたフォグブルーは神槍グングニルを構えて動かない。

 かなりの長さを誇る漆黒刀のリーチは神槍グングニルにも引けを取るまい。

 ただの具現化した黒刀でさえ、あれ程、打ち合えたのだ。

 神器セイクリッド・アームズ《不惜身命》にできないはずがない。


 俺を正面から迎え撃ったフォグブルーとの乱舞が始まった。

 神槍グングニルと漆黒刀が激しくぶつかり合って火花を散らす。

 凄まじい槍さばきを、俺は延々といなしていた。

 こうして戦闘経験が天と地ほどの差がある2人が互角にやりあえるのも、ひとえに魔人として身体能力が向上したからだろう。


 現に目の前のフォグブルーからは苛立ちのような感情が伝わってくる。

 こうして余計なことを考えていられるのも余裕がある証拠。


 俺は左脇腹を目がけて払ってきた神槍グングニルを弾くと、左手に黒子力ダルクを集め始める。

 フォグブルーは弾かれた神槍グングニルを器用にくるりと反転させると、今度は一転して突きの連打を放つ。


 そのスピードたるや神速の如く。


 流石に全てはさばききれない。

 じょじょに体に無数の傷ができてゆくが、俺は引かない。決して。

 ここが踏ん張りどころ――勝負の分かれ目だ。


 俺はひるまず神槍グングニルが引かれるタイミングに合わせて思い切って前に出ると、上段から全力で漆黒刀を振り下ろした。

 フォグブルーも大振りになった一撃を喰らうような真似はしない。

 神槍グングニルの柄の部分で造作もなく受け止める。

 しかし俺の全力を乗せた斬撃はフォグブルーの予想を超えていたようだ。

 神槍グングニルと漆黒刀が激しくぶつかり合い、大きな音が響いた。

 同時にフォグブルーが威力に押されて地上へと降下していく。


 このまま押し込むッ!


 押し込まれたフォグブルーの足が大地を踏みしめて、ようやく止まった。

 屈辱のせいか、苦々しい顔を見せるフォグブルー。


 ――今が好機!


 俺は眼前の敵がひるんだ隙を見逃さず連撃をかける。


 漆黒刀に膨大な黒子力ダルクを乗せて撃つ! 撃つ! 撃つ!


 その内の一発がフォグブルーの肩に喰い込んだ。


「グウウウウッ」


 その口からうめき声がと共に光粒子ルークアロンが漏れる。


 とは言え、致命傷には遠く及ばないだろう。

 俺は更に数撃、上段から漆黒刀で斬りつけると、次は一転横からの払いを見舞う。

 その攻撃についてこれなかったフォグブルーの腹が斬り裂かれる。

 またしてもうめき声が聞こえるが――まだ浅い。


 不利と見たのか、フォグブルーが力ある言葉を言い放つ。

 と同時にまたも神槍グングニルうなりをあげる。


霊球烈光グレイト・オーダー


 俺の足下から光粒子ルークアロンが湧き出てくる。

 俺は慌てて、その光粒子ルークアロンから距離を取ろうとするが、フォグブルーの突きの連打に阻まれて身動きが取れない。

 その間に光粒子ルークアロンは次第に大きくなりテニスボール大へと変貌を遂げると、それから光線レーザーが発射される。

 その光が俺の体のあらゆる場所を貫いた。

 多重に張られた防御フォールドすらも破壊して。


「ガァァァァッ!」


 情けない声が俺の口から漏れる。

 これだ。術が主体の戦いになれば俺は不利な状況へ追い込まれるだろう。


 魔術まじゅつを使用したことのない俺は苦痛にえて頭の中で検索をかける。

 参照先はもちろん――


 地獄の創世記ハデス・ジェネシス


 ルージュとスカーレットたち、魔神デヴィル魔術まじゅつを使っていた。

 確か、魔人まじん橘刹那たちばな せつなも使っていたはずだ。

 俺に使えない道理はない。


 迫る光線レーザーをかわし、光粒子ルークアロンから距離を取りつつも俺は地獄ハデスとの繋がりを探り始める。

 要領は神人しんじんの時と同じだ。

 あの時は試したことはなかったが、これは熾天使セラフに対抗するためには絶対必要な条件だ。

 しかし、そうは問屋が卸さない。フォグブルーは回避に専念していた俺の背後に回り込むと、再びグングニルで襲い掛かってきた。

 俺は、黒子力ダルク弾を放って光粒子ルークアロンを潰しながら、何とかフォグブルーの攻撃を受け太刀する。


「しゃらくせえッ!」


 俺は漆黒刀を水平に構えると、黒子力ダルクを刀にまとわせて一閃する。

 次々と光粒子ルークアロンは消滅し、フォグブルーにも漆黒刀が迫る。

 その一撃は神槍グングニルで弾かれるも、その威力で弾き飛ばされたフォグブルーと距離が開く。


 俺は間髪入れずに漆黒刀を袈裟斬りに振り下ろす。

 もう何度目になるかも分からない乱打戦が始まった。

 漆黒刀と神槍グングニルがぶつかり合う。

 俺が水平に斬り込むと、フォグブルーは柄でそれを受け止めて、槍をくるりと回転させ、勢いを殺さずに俺の頭上に叩きつける。

 半身になってかわしたものの、神槍グングニルは大地に当たって穴を穿うがった。 

 すくい上げるように漆黒刀を振り上げるが、これも槍に阻まれダメージを与えるには至らない。


 漆黒刀を振るいながら俺は、必死に地獄の創世記ハデス・ジェネシスとの繋がりをひたすらさぐる。


 無限に続くかと思われる程に漆黒刀を振るい続けながら俺は思った。

 前に聞いたことのある魔術まじゅつならすぐ使えるんじゃね?


 思い立ったら即実行!


 俺はどうにかこうにか、言葉を思いだしながら詠唱を開始した。


【冥界に眠りし暗黒の龍よ、暗黒の魂よ、暗黒の力を我らに示せッ!】


「チッ!」


 フォグブルーは舌打ちを一つして左手を前に出すと、神術しんじゅつを唱えた。

 俺とフォグブルーの声が重なる。


黒龍咆哮ロキアン・ドラグヴァ

神龍天翔グレイン・ナーガ


 超至近距離でお互いの術が激突する。

 その余波を浴びながら、俺は精神と何かが繋がったような気がした。

 荒れ狂う光と闇の奔流がせめぎ合い、まるで龍が吠えているかのような不気味な音が耳をつんざく。


 光と闇は互いを飲み込まんと荒れ狂う。


 初めてでこの威力……いけるぞ!


 ズッガアアアアアアアアアアアアン!


 わずかな手ごたえを感じていたところに轟音が鳴り響く。

 どうやら相殺されたようで、光と闇が混じり合うように天空へを昇っていく。

 そこへ、再びフォグブルーの声が響く。


茨棘王冠ダンテ・クラウン


 また神術しんじゅつか!

 今度のはどんなヤツだッ!?


 辟易としながらも、次はどんな神術なのかと警戒を高める。


 その攻撃は足下からやってきた。

 地中から有刺鉄線のようないばらが次々と生えてきて俺の足へと絡みついたかと思うと、その体を這い上がる。

 焼けるような激痛が俺を襲う。


 この魔法は行動阻害だけでなく、ダメージも与えるものらしい。

 聖なるいばらに絡め取られた俺を置いてフォグブルーが俺から距離をとる。

 そして神槍グングニルを槍投げのように持ち変えるや、光が集まり出した。


「恒星すらも破壊する一撃……受けてみろッ!」


神槍滅殺レーヴェ・ジーン


 その言葉と共にフォグブルーは神槍グングニルを俺に向かって投擲した。


 刹那。


 時の流れがやけにゆっくりに感じられた。

 多重に展開する防御フィールドと黒子力ダルクで創り上げた十重とえの盾。

 神槍グングニルはそれを1枚1枚破りながら俺へと迫る。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 轟く爆発音。

 まるで自分の体がバラバラになったかのように感じられ、激痛が体中を駆け巡った。

 立ち込める煙と光粒子ルークアロンの中で、俺はまだ自分が生きていることを理解した。

 しかし、体のあちこちが欠損しているようで動けない。

 黒の心臓ブロークンは無事なようだ。すぐさま超再生が始まる。

 しびれるような気持ちいいような奇妙な感覚に身をゆだねていると、俺を貫いた神槍グングニルが不意に消失する。持ち主の下へと戻ったのだろうか?

 そんなことが頭をよぎるが今はどうでもいい。


 今の俺には策略などない。

 できるのは力押し。

 期待できるのは、銀河を覆い尽くすほどと言わしめた黒子力ダルクの存在。


 黒の心臓ブロークンよ。俺に力を貸せ!

 そして俺の精神を地獄の創世記ハデス・ジェネシスと繋げて見せろッ!


 心の中でそう強く強く願う。


 不意に【神器招来】の時と同じような感覚に襲われた。

 何かと繋がったような奇妙な気分だ。


 ――接続した


 理解したのだ。

 頭の中に何かが浮かんでくる。

 俺はそれをそのまま口にした。


【闇よ! 暗黒よ! 叛逆せし至高の天使よ! 光すら永遠に閉じ込める檻よ開け】


 詠唱をしている最中にも超再生で俺の体が修復されていく。

 体だけでなく、スーツまでもが再生していく。

 やっぱり俺のデフォルトはスーツなのな。


【絶望の慟哭を聞き、来たる終末エスカトンを目撃せよ。金色こんじきの幕は上がった】


 黒子力ダルクの量が増大している。

 更には通常の防御フィールドの外に半円状の暗黒が揺蕩たゆたい始める。

 フォグブルーもそれに気づいているはずだ。

 土煙や光粒子ルークアロンが晴れていく。

 俺は立ち上がると漆黒刀を右手に持ってフォグブルーと決着をつけるべく歩き出した。


【残響鳴り、粛々でます闇なる母よ。母なる魔帝まていよ。星々すらも打ち砕き】


 俺が歩く正面にはフォグブルーが神槍グングニルを両手に持って構えている。

 恐らく俺の姿を確認したのだ。風に乗って舌打ちが聞こえてくる。

 俺が魔術まじゅつを使おうとしていることに気付いたのだろう。

 フォグブルーは左手を前に出すと、光子力ルメス弾を撃ち出してきた。

 俺は避ける事はしない。

 光子力ルメス弾は全て俺がまとう闇に消えていった。


【その本懐を果たせッ!】


 詠唱の終わりと共に更に膨れ上がる黒子力ダルク

 目の前のフォグブルーが目を見開いているのが遠目にも分かる。


 そろそろつけよう――決着を!

 俺は一気に間合いを詰めると、力ある言葉を発した。


神々黄昏ラグナロク


 フォグブルーを中心にソフトボール大の闇がうごめく。


 それはただの黒子力ダルク弾のような見た目だった。

 フォグブルーの表情が緩んだ気がした。

 口元に笑みさえ浮かべた熾天使セラフはその闇の球体を神槍グングニルで薙ぎ払う。


 その時。

 神槍グングニルに触れた闇が反応した。


 膨張していく暗黒。


「何だッ? 何をしたッ!?」


 狼狽の声を上げるフォグブルー。

 直前までの余裕の表情はもう――ない。


 膨れ上がり拡大を続ける闇に、とうとうフォグブルーは飲み込まれてしまった。

 闇の球体は稲妻のような、放電のような現象を起こし荒れ狂っている。

 俺は中で何が起きているのか確かめるために球体へ手を伸ばす。

 その手が簡単に闇に飲まれたので、俺は躊躇ちゅうちょなく闇の中へと進入した。

 中では稲妻が荒れ狂い、闇よりなお深き暗黒が激流のように暴れまわっていた。


「グギイイイイイイイイイイイイイイイイ!」


 闇の中で絶叫が反響している。

 俺はフォグブルーの姿を探すと、すぐに彼は見つかった。

 雷撃に身を焦がされ、全方位から闇に体を蝕まれている。

 感じ取れる光子力ルメスはかなり少なくなっており、ダメージが大きいことがわかった。

 光り輝いていた十二枚の翼が黒ずみ始めている。

 俺が近づいたことを察知したのか、フォグブルーは俺を憎々し気に睨みつけた。

 超回復が間に合わないほどの速度で体を浸食されているようで、その顔が苦痛に歪んでいる。

 なおも怨嗟えんさの声を上げ続けているフォグブルーに俺は声をかけた。


しまいだ。果てろ」

「お……ん……のれッ! 魔人風情がああああああ!!」

「なんだ。まだまだ元気じゃねーか」


 俺は歩みを止めずに足掻く熾天使セラフへと近づいていく。

 喰われ続ける光子力ルメスに動くに動けないようだ。


地獄ハデスに行くのは貴様だったな……け」


 そう言うと俺は神器セイクリッド・アームズを振るう。


 狙いは神核しんかく


 漆黒刀が唸る。

 絶望に染まるフォグブルーの顔。






 ここにフォグブルーは体を4つに両断されて消滅した。


 断末魔の叫びを上げることすら叶わずに。

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