第14話 何だよその設定は……

 無事に自宅に辿り着くと、セピアと別れて部屋のドアを開ける。


 今日は鬼に襲われることもなかったので俺は少しホッとしていた。

 これは別に今日も生きることができたと言う安堵感ではなく、戦いになっても何も出来ない自分の無力さを痛感せずに済んだと言った感覚に近い。


 部屋に入るなり、批難ひなんの声が耳に届いた。


「おそーい!」

「すまんな。残業までが通常業務なんだ」


「何それ、笑えなくて草の草の草」

「そうだな。俺もそう思っていたところだよ」


 と言うか笑えるのか笑えないのかどっちなんだよ。

 それにお前は昭和に生きろ。

 平成、令和は向かん。


「ご飯食べるでしょ? ちょっと待っててね」

「ああ、食べる」


 俺の返事に満足したのか、ルージュは鼻歌交じりに晩御飯の準備を始める。

 それを見た俺は、スーツから部屋着へと着替えテレビの前に座った。

 テレビには、お笑い芸人が映っている。

 番組情報を確認すると、どうやら芸人がただ騒いでいるだけの番組のようだ。

 俺はまったく興味がないので、番組を切り替えて大自然の特集番組に切り替える。


「あーお笑い見てたのにー」


 俗っぽ過ぎんだろ。魔神デヴィル様。


「こんな番組ばかり見てると頭が悪くなるぞ?」

「ほっとけ!」


 くいう俺もこんな番組ばっか見てんな。

 たまには違うジャンルの番組を見てみるのもいいかも知れん。

 ぼんやりとテレビ画面を見つめていると、ルージュがテキパキとご飯とおかずをテーブルに並べ始めた。

 俺はテレビから目線をルージュに移すと、ふと考える。

 彼女はどうして俺なんかに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるんだろうな。


 天使側に事情があるように魔神デヴィル側にも何か事情があるんだろうが。

 ってまだ、ルージュは魔神デヴィルだって白状した訳じゃないけどな。

 したも同然っちゃ同然なんだが。


「はーい。食べましょ!」

「「いただきます」」


 テーブルに並んだのは、ご飯と豆腐の味噌汁に豚肉のしょうが焼きであった。きざみキャベツにしょうが焼きのタレが絡んで美味しい。俺は豚肉にかぶりつく。


 そう言えば、俺はルージュの事を何も知らないんだな。

 この食材だって俺がお金を出して買った訳じゃない。

 しかも俺がそっけない態度をとってもめげずにコミュニケーションをとろうとしてくる。


 俺の態度は果たして人間らしいものなのだろうか?


 黒の心臓ブロークンなんてものが俺に宿ったのだってこういうところが原因にあるんじゃないのか?


「なぁ、ルージュ。俺に正直に話してくれないか?」


 その言葉にルージュの動きが止まる。

 しばらく彼女の目は泳いでいたが、すぐに俺の方を上目づかいに見つめてきた。


「ホント、なんで記憶が改変されてないんだろ……」


 ルージュがよく分からないことをボヤきつつ、頭をかいてため息をつく。


「セピアはお前のこと、魔神デヴィルって呼んでたよな?」

「……えーい! もういいわ。そうですぅ。あたしは魔神デヴィルのルージュですぅ」


「開き直った!? どうして俺に近づいたんだ?」

黒子力ダルクがすごく高かったから」


「俺に近づいてどうするつもりだ?」

「仲間にするつもりだった」


 俺の黒子力ダルクが高いのはセピアの話からも真実なのだろう。

 天使は俺の神器セイクリッド・アームズに用があり、修羅しゅらなどの鬼たちは俺の黒の心臓ブロークンに用があった。


「仲間にするって言ったって俺が承知すると思ったのか?」

「お兄ちゃんの記憶に干渉して、平和的に魔人まじんにする予定だったの!」


 魔人まじん

 天使で言う神人しんじんみたいなものか?


「残念ながら俺は魔人まじんなんかになるつもりはないぞ」

「でもお兄ちゃんは黒の心臓ブロークンを持っている。魔人まじんにならなければいつか鬼に喰われることになるよ」


「それなら心配ないよ。天使が俺を神人しんじんにしてくれるらしい。鬼と戦う力を与えてくれるみたいだぞ?」

「……黒子回路ダークラインを持つお兄ちゃんじゃ、神人しんじんになってもどこまで強くなれるか分からないけどね。せっかくの力を生かすなら魔人まじんになるべきなのよ」


 また知らない単語が出てきたな。

 何だよ回路って。


黒子回路ダークラインって何だ?」

「体中に張り巡らされた術式のことよ。あたしたち魔神デヴィル黒子回路ダークライン黒子力ダルクを流し込んで力を励起れいきさせるの」


 ファミレスでの話では黒子回路ダークラインって言葉は出てこなかったよな。

 俺が今日聞いたことを咀嚼していると、ルージュは言葉を続ける。


「光と闇が対極にあって相性が悪いように、黒子回路ダークライン光子力ルメスを流し込んでも上手く力が働かないってワケ」

「ふーん」


 今日は色んな単語が飛び交う日だな。

 ちょっと整理してみるか。


「えっと、神人や人間は光粒子ルークアロンを持っていて、魔人は黒粒子ダークアロンを持ってるって認識でいいのか?」

「うん。そうよ……って光粒子ルークアロンなんて言葉、あの天使に聞いたの?」


「まぁそんなとこ。んで、黒子力ダルクを使うには黒子回路ダークラインが適していて、逆もまた然りってとこか?」

「そうそう。光子力ルメスを使うには光子回路ルークラインが良いってことね。でね、人間で黒子回路ダークラインを持っている者は珍しいの。黒粒子ダークアロンなんかは黒の心臓ブロークン化すれば勝手に沸いてくるんだけど……」


「なるほど、そうなんか……だから、黒子回路ダークライン光子力ルメスを流し込んでも上手く力が引き出せないってことだな。ふんふん」


 分かってきたぞ。

 黒子回路ダークラインを持つ俺が神人になって光子力ルメスを使おうとしても、力が干渉しあってロスしちゃうってとこか。

 それで強くなれないと。


「それにしても、どうして天使共はお兄ちゃんに近づいたのかしらね。黒の心臓ブロークンを持っていて黒子力ダルクが強い……理由がわからないわ……」


 ルージュは今まで見たこともないような真剣な表情をしている。

 真面目な表情も出来るんだな。

 困惑するわ。


「俺には神器セイクリッド・アームズが宿っているって言ってたぞ?」

「!?」


 ルージュの顔が驚きなのかなんなのかよく分からない表情に変わる。

 そして、突然叫び出す彼女。


「あああああ! 神器セイクリッド・アームズかぁぁぁ! だからかぁぁぁ!」

「ちょッ……落ち着け!」


「あたしとしたことが大事な点を見落としていたわッ! そうよ。神器セイクリッド・アームズがあるから記憶改変が効かなかったんだわ。しかもかなり神格の高いヤツね……。となると天使が近づく意味も分かる……」


 自分に言い聞かせるように1人でぶつぶつと呟くと、ルージュはまたまた表情を変える。今度は顔面蒼白になりガタガタと震えだした。


 よくもまぁ表情がコロコロと変わるもんだ。


「どうしよう……スカーレット様に怒られる……」


 スカーレットが誰なのかは知らないが、おそらくルージュの上司なのだろう。

 まったく天使も魔神デヴィルも人間とちっとも変らんな。

 みんな上司が怖いんや。


「こうしちゃいられないわッ! お兄ちゃん、あたしちょっと用事が出来たから!」


 ルージュはそう言うと取る物も取りあえず、玄関から飛び出してどこかへ行ってしまった。


 後にはポツンと俺だけが残される。


「まぁ、明日には戻ってるだろ。飯喰って風呂入って寝よ」


 俺は詳細を聞き出すのは明日にして、明日の労働に備えることにした。


 うむ。労働は大事。

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