第2話 ブラック

 都内のIT系の会社で働く俺は、今日も今日とて、残業していた。


 WEB系のみならず、社内システム関連の業務までこなすSE――システムエンジニアである俺――阿久聖あくさとしは、今年で34歳を迎える。


 もう会社の中堅社員と言っても過言ではないだろう。


 ブラック企業と言う言葉をよく耳にするようになってきた昨今さっこん、ネット上では自分の会社がいかにブラックであるかを自慢げに語る人々を多く見るようになってきた。あらゆるメディアがブラックである事をネタにしている。


 テレビでも、ネットでも、漫画でも……。


 俺が働いている会社も、まぁブラックと言える範疇はんちゅうにあるのだが、そのブラック度と言ったらブラックラーメンで有名な富山ブラックも真っ青(いや真っ黒か?)になるレベルなのである。


「おい! 阿久あく、あの件どうなってる?」

「いや、あの件がどの件か分からないんスけど……」

「チッ……伝通でんつう向けの社内システムのアレだよアレ」


 最近ちょっと頭頂部が寂しいことになっている部長が何か言っているようだが、あの件と言われてもピンとくる訳がない。

 俺と部長はツーカーの仲ではないのだ。

 というかアレって部長も分かってねーだろと言いたい。


「ああ、あの担当はもう私じゃないっスよ? 桜井さんに引き継いだんですけど……」

「俺は聞いてねーぞ! だいたい今日、桜井いねーじゃねーか! お前が何とかしろ!」


 はい、無茶ぶり頂きました。

 部長が顔を真っ赤にして怒っているのが目に入る。

 俺は今、年度末の締めでそれどころじゃねーんだよ!

 それくらいアンタがやってくれ。

 今時、会社のPCでマインスイーパーやってるヤツなんていねーぞ?

 

 ああ、やだやだ。

 新入社員でも入ってこねぇかな。

 妥協して中途でも可!


 とは言ったものの、我が社はもうずっと新卒の募集をしていないらしく、俺が社内で一番若い。つまり、俺が一番下っ端ってことだな。


 そんなもんだから、何だかんだと部署内でたらい回しにされた案件は、最終的に全て俺に回ってくるっていう寸法だ。

 営業のヤツらなんて案件を取るだけ取って後は、俺たちSEにぶん投げるだけ。


 システム納める物を売るってレベルじゃねぇぞ!


 と言うか、よくこれで会社のていを為してんな。

 とにかく早急に頼みたいわ。


 それに先日あった宇宙で起こった磁気嵐?

 太陽フレア?


 俺は宇宙世紀に生きてないからよく分からねーが、そのせいなのか、取引先のシステムに障害が出まくったんだ。


 ただでさえ忙しい年度末にこれだ。

 俺は神を呪ったね。


 まぁ俺が何をどう思おうが世の中は勝手に回っていくし、時間は一方通行だ。

 後悔しようが過ぎた時の流れは戻せない。


 不満はある。

 だが、ないヤツなんていない。

 この何もかもが飽和状態となってしまった現代。

 満足度の水準レベルが上がっちまった以上、それは仕方のないことなのかも知れない。


 が。


 ピーピーと文句ばかりのうるせいやつらみたいなのにはなりたくない。

 別に運命なんて信じているようなガラじゃないが、身に降りかかったことくらいは飲み込んで受け入れてやる。


 それがドカスみたいな俺の最低限の矜持ってもんだ。


 とは言え、まさかあんなことが起ころうとは、現時点ではこれぽっちも思ってもみなかったがな。

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