第3話 新入社員、神崎セピア来たる
今日から新年度である。
だからと言って何か変わるかと言うと何も変わらない。
会社に行って、げんなりする朝礼を経て、直ちに業務に移る。
この朝礼ってーのがまた
これをなくせば、多少は……つっても雀の涙ほどのもんだが、気分良く仕事を始められると思うんだがなぁ。
新年度なんて言っても結局はいつもと変わり映えのしない日常だ。
いつもの通り、ボソボソと社歌を歌い、社訓を唱和する。
そして、社員の5分間スピーチをボーっとしながら聞き流す。
それが終われば、部署ごとのミーティングの後、業務開始である。
朝のルーチンに変更はない……はずだった。
そんなことをボケーっと考えていたら、お偉いさんが何か話し始めたのだ。
俺の耳に飛び込んできたのは信じられない言葉だった。
「今年度、新卒での入社となった神崎さんだ。さ、自己紹介をしてください」
ななななんだってーーーーー!!
新人だと!?
何年ぶり何回目なんだ?
そんな甲子園の出場が決まったみたいなノリで目の前の出来事に困惑していると、1人の女性がスッと俺たち社員の前に進み出た。
艶のある黒髪をポニーテールにまとめ、パリッとしたパンツスーツをその身に纏った清潔感のある容姿。
うーん。中々、様になっとる。
人は見た目じゃないとか言うヤツがいるけど、見た目が10割なんだよなぁ……。
ま、
中身が伴っているってーのも大事な要素なんだが、そこは交流を深めなければ見えてこないものだからな。
「はい。今年入社致しました。
神崎セピアと名乗った、その新入社員はそう言って深々と頭を下げた。
とてもハキハキしており好印象だ。
どこかの冴えない34歳のやつれた
彼女の言葉に俺は茫然としながら、自分で自分の右頬をペチッと叩く。
そんなお約束をしてみたが、普通に痛い。
どうやら夢ではなさそうだと安心していると、部長が俺の席までわざわざやってきて言った。その顔はデレっとして貫禄の
「阿久、彼女の教育係はお前な。それと新歓の店の手配も頼むぞ?」
はい。知ってた。
知ってたよー。
通常業務に加えて教育係か……胸が熱くなるな。
俺は部長の言葉に素直にうなずいておくと、早速、新人さんの下へと足を運ぼうと……って席は隣か……まぁそうだわな。
いつの間にか隣の席まで来ていた神崎さんは、俺の目をまじまじと見つめている。
俺も負けじと見つめ返すが彼女はマジマジと俺の目を見たまま、にこやかな笑みをその口元に湛えている。
俺にとっては正直、
彼女は俺の瞳の奥の奥――更には心までも覗き込むかのような視線を向けてくる。
その漆黒の瞳を見ていると、何もかもを見通されるような気がしてくる。
俺は若干気遅れしつつも、そんな彼女に負けじと先輩らしく胸を張って挨拶をした。
「今日からよろしくお願いします。私は
「は、はい! よろしくお願い致します!」
えーい、もっと気の利いたことを言えんのか?
そう自虐的な考えで自分の
彼女の
そんなに見つめられると俺も見つめ返さなきゃならないから止めて欲しいのだがそうも言っていられない。
ゆーてそれも正直、
でも、何?
もしかして見つめるのはマズい?
パワハラだのセクハラだのとうるさい
「それで今日から私は何をすればよろしいでしょうか?」
俺が軽くトリップしているのを感じ取ったのか、神崎さんは少し首を傾げながら遠慮がちに問うた。
この会社のことだから、教えることはアレだ。
そう、全てだ。
全てを叩き込めと部長の
取り敢えず俺は、彼女の出来ることを聞きだして、対応できそうな案件から順に教えていくことにした。
パンフレットだの、マニュアルだの、仕様書だのを渡して、まずは簡単な説明を行った。いきなりシステムの仕様書なんて渡されても困るだろうが、どうせいずれ必要になるものだ。別に構わないだろう。
そして、関連するデータをに目を通してもらって、質問を受け付ける。
後は実践しながら覚えてもらうことにした。
そうやって彼女の教育を進めながら、通常業務も行いつつ、隙間時間で新歓用のお店を手配する。
そうこうする内にあっと言う間に数日が経過した。
憂鬱な新歓の
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