**06-07 ××××が職場にいるとやりにくい。**

 五か月ちょっとで、少しは着慣れたスーツに身を包んで、


「ねぇ、ヒナ……」


 千秋は地上三十一階、地下二階建てのQBシステムズの持ちビルを見上げてため息をついた。

 首が痛くなるほどの高層ビルも、そのビルに吸い込まれていく社畜の象徴のような人々の波も、ずいぶんと見慣れた。


「なに、千秋?」


 千秋に名前を呼ばれて、陽太は不思議そうに首を傾げた。

 子供の頃からほとんどの時間、隣にあった見慣れた顔だ。ほんの少しだけ違和感のあったスーツ姿も、もう見慣れた。


 でも、今の千秋には、陽太の顔を直視することができなかった。

 うつむいて、視界の端にちょろっと入る程度に見て、あいまいに笑って。


「やっぱりさ、ちょっと時間ずらしてフロアに入らない?」


「なんで?」


「いや、なんでっていうか……」


 しどろもどろの千秋の答えに、陽太はさらに不思議そうに首を傾げた。


 別に、何があったというわけじゃない。

 ただ昨日、陽太に合鍵を渡して――と、いうか作らせて。千秋の部屋で夕飯を食べて。帰るのが面倒になったと言い出した陽太を部屋に泊めて。今朝はいっしょに通勤してきた、と言うだけの話だ。


 正直、何をいまさらという感じだ。


 このプロジェクトに入ってすぐ。

 まだ千秋の作業が忙しくなかった頃は、毎日のように泊まっていっていたし。いっしょに出勤して、昨日も泊まっていったんだと千秋自身がチームメンバーに愚痴っていたのだ。


 そのときと、昨夜と今朝の行動は、何一つ変わっていない。

 変わっていないのに――。

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