**06-06 君との約束ですから。**

 定時を告げるチャイムのあと、一時間ほど経つとフロアの灯かりが消えた。

 すぐにふっと灯かりがついて、


「お疲れさま~」


「お疲れさまでした」


「お疲れっした!」


 チームメンバー四人は次々と帰っていき、残っているのは千秋と陽太だけとなった。

 岡本もまだ帰っていないが、打ち合わせ中で席にはいないのだ。


 陽太も、もう上がるつもりらしい。

 カバンを持って立ち上がると、千秋の席までやってきた。


「千秋、仕事終わりそう?」


 千秋の顔を見下ろして、陽太は心配そうに首を傾げた。

 病み上がり、出社一日目だ。あまり無理をするなと言いたいのだろう。でも――。


「もう少し、かかりそう」


 残念ながらキリが悪い。千秋の答えに、陽太はがっくりと肩を落とした。


「そっか。じゃあ……先に、帰るよ」


 そう言いながらも、陽太の足は一向にフロアのドアに向かおうとしない。

 千秋が先に帰っていてとうながさない限り、ずるずると残ろうとするパターンだ。陽太の困り顔を見上げて、千秋は短く息を吐いた。


「あと三十分くらいで上がれると思うから」


 足元のキャビネットにしまっていたカバンの内ポケットを漁って、千秋は陽太の目の前にカギを突き出した。千秋が一人暮らししている部屋のカギだ。

 陽太は反射的にカギを受け取って、首を傾げた。


「駅にカギ屋があったでしょ。あそこで合鍵、作ってきて」


「誰の分?」


「百瀬くん――ヒナの分。今回ので懲りたから、ヒナにも合鍵渡しておこうって思って」


 陽太のことだ。昔のことを覚えていようと、いまいと、大喜びで受け取るんだろうと思っていたのに。

 陽太はじっと手の中のカギを見つめて、


「ねぇ、千秋。覚えてる? 高校のときの約束」


 ぽつりとつぶやいて。やけに真面目な顔で、千秋の目を見返した。

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