**06-05 主張していた本人はいたって真面目なんです。**

 一人、フロアに戻ってきた千秋を見て、陽太が目を丸くした。


「あれ、岡本さんは?」


「一人一人の進捗状況を確認したいから、順番に打ち合わせスペースに来てほしいそうです。ヒナ……百瀬くんが最初」


「はいよ!」


 元気いっぱいに返事をして、陽太は打ち合わせスペースへと向かった。陽太と入れ替わるようにして、どこかに行っていた恋脳こいのー先輩が戻ってきた。

 残っているチームメンバー四人の顔を見まわしたあと、


「一週間もお休みしてしまい、申し訳ありませんでした。ただでさえ遅れてたのに、さらにご迷惑をおかけしてしまって……!」


 千秋はいきおいよく頭を下げた。

 小さくなっている千秋のつむじを見つめて、四人は顔を見合わせたあと。


「ご迷惑って言ってもなぁ、俺ら、なんもやらなかったし」


 パチンコ先輩が、そっとキャラメルを差し出した。パチンコの景品で取った物だろう。


「最初、百瀬の分はみんなで分担してやる予定だったんだけどさ」


 ポテオリ先輩が、そっとポテチを差し出した。梅粥味なのと、オリーブオイルを差し出さなかったのは、千秋の胃腸を心配してのことだろう。


「結局、百瀬が全部やっちゃったんだよ」


 ニッチ過ぎて打ち切りになったアニメの爆乳フィギュア。その台座についているスイッチを押して、音声を流そうとしているアニオタくんの手をそっと止めて、


「……ヒナが?」


 千秋は首をかしげた。

 陽太自身から、千秋の分は陽太が担当していると聞いてはいた。でも、チームメンバーで分担する予定だったというのは初耳だ。


「千秋のプログラムは俺が担当する。絶対に、他の人にはやらせないー! って、言い張って。岡本さんに諭されても、叱られても。結局、譲らなかったんだよ」


 恋脳こいのー先輩が苦笑いで言った。


「あの量を一人でやって、きっちり定時に帰るんだもんな」


「一応、確認したけど、相変わらず処理はちゃんとしてたよ。コメントは何言ってんだか、さっぱりわからないんだけど」


 パチンコ先輩とポテオリ先輩が、顔を見合わせてため息をついた。


「日頃から、あれくらい真面目にやってくれればいいんですけどね」


「短期集中だから、なんとかなったんだろ」


 舌打ちするアニオタくんに、パチンコ先輩は苦笑いした。

 と、――。


 ポンポン……と、背中を叩かれて振り返ると、恋脳こいのー先輩がにこりと笑っていた。

 こんな感じだから、あんまり気にするな。そう言っているようだった。


 そして――。


「百瀬のやつ、結構、独占欲強いみたいだから。きっと小泉くん、苦労するよ」


 他のチームメンバーに聞こえないように耳元で囁くと、


「まぁ、がんばれ」


 ポンポン……と、もう一度、背中を叩いて。恋脳こいのー先輩は自席へと戻っていった。

 その背中を見送って、


「……アイツ」


 千秋は恥ずかしさやらなんやらで、奥歯を噛みしめて。たぶん、赤くなっているだろう顔を手で覆ったのだった。

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