「このスマホは着信、発信合わせて百件まで履歴が残る仕様なんだ。その履歴が小泉くんが休んだ当日、百瀬くんの名前で埋まったんだよ。百件、全部……」


 千秋はぎこちない動きで顔を上げた。岡本の無駄に優しい声と微笑みが怖い。


「お客さんから掛かってきた不在着信もすごい勢いで流れていくし。打ち合わせ中もスマホが鳴り続けるし。プロジェクトメンバーに恐妻家だったのか。不倫がバレたのか。もしかして前日に彼女と別れ話でもしたのかって有らぬ女性関係を疑われるし。今は独身で恋人もいないのに、とんだ濡れ衣だよ」


 千秋は口元が引きつるのを感じながら、再び、うつむいて奥歯を噛みしめた。


 千秋を心配して、仕事を休んでまで駆けつけてくれたり。千秋が遅れた分の作業を引き受けてくれたり。それでも、心配をかけないようにと早めに作業を終えて帰ってきてくれたり。

 そういう気遣いや優しさにはすごく感謝している。


 している、のだけれども――。


「と、いうわけで合鍵を渡しておくように」


「はい! 大変なご迷惑をおかけしました!」


 テーブルに額をぶつけかねない勢いで頭を下げながら、


 ――ヒナのバカ、アホ! やっぱり迷惑だ!!


 すべてのことを一旦、脇に避けて。千秋は心の中で、陽太に全力で罵声を浴びせかけた。

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