日曜日にようやく一人暮らししている部屋に戻り、翌日の月曜日に約一週間ぶりに出社した。始業開始のチャイムが鳴ると、岡本がフロアの端にある打ち合わせスペースへと手招きした。


「体調はもう大丈夫?」


 イスに座るなり、岡本が心配そうに尋ねた。


「大丈夫です。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」


「うん、それならよかった。でも無理はしないで、健康第一で働くようにね」


 テーブルに額が付くくらい深々と頭を下げる千秋に、岡本はにこりと微笑んだ。


「作業のことなら大丈夫だよ。百瀬くんが珍しく本気出してくれたから。……いつもあれくらい本気でやってくれるとうれしいんだけど」


 岡本が天井を仰ぎ見ながらぼやいた後半部分については、千秋は聞かなかったことにしてあいまいに微笑んだ。


「今回の件で百瀬くんが引き継いだ部分や、スケジュールを変更した部分があるから説明をしたいんだけど。その前に――」


 真剣な表情で前置きする岡本に、千秋は思わず背筋を伸ばした。


 ――次で契約切られる、とか……!?


 ただでさえ、遅延で足を引っ張っていたところに、無断欠勤、入院、そのまま一週間の休暇だ。相当に迷惑をかけた自覚はある。

 岡本や陽太は大丈夫と言ってくれるけれど、さして優秀でもなく、自分のところの社員でもない人間と契約を続けるメリットはない。


「小泉くん……」


 岡本の次の言葉を想像して、千秋はため息混じりにうつむいた――のだが。


「百瀬くんに合鍵、渡しておくようにね」


「はい……はい!?」


 想像とまるっきり違う言葉に、千秋はすっとんきょうな声をあげた。

 当の岡本は、口元の前で手を組んて真剣そのものだ。


「合鍵。作って渡しておいて。本当に。冗談抜きで」


 本当に。冗談抜きなのだろう。 

 岡本の妙な威圧感に耐えらずに、千秋は思わず引きつった笑みを浮かべた。


「えっと……岡本課長?」


「この着信履歴、見てごらん」


 すぐにでも見せられるように用意していたのだろう。

 重要資料を開いたパソコンを客に見せるような、機敏で美しい動作で、岡本はスマホをすっと千秋の前に差し出した。


 画面をのぞき込むとズラッと“百瀬 陽太くん”と、いう登録名が並んでいた。

 着信、不在着信が入り乱れているけれど、一分や五分といった短い間隔で電話がかかってきていたことがわかる。

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