**06-02 病み上がりの身体に胃痛の種が堪えます。**

 退院後、千秋は母親に首根っこをつかまれて実家に戻ってきていた。


「どうせろくなもの、食べてなかったんでしょ! それともお母さんが見てないのをいいことに、夜更かしでもしてたの!?」


 と、怒鳴る母親の前でひたすらに小さくなりながら、お腹に優しくて栄養満点のご飯を食べて、寝て、という日々が続いていた。


 自分の分の作業だけじゃなく、千秋の遅延分までやってくれている陽太は、それでも二十時頃には帰ってきていた。

 通勤時間を考えると、ほぼ残業なしで上がってきているようだった。


 毎晩のようにベランダ伝いに千秋の部屋にやってきて。チームメンバーからの差し入れをどさりと置いて。

 それから、暇つぶしにと買ってきた漫画を置いていくのだ。たまに数日前に買ってきたのと同じ巻が混ざっているとこが陽太らしい。

 同じ表紙を並べて千秋はくすりと笑った。


「ほい!」


 そう言って、食べかけのポッチーを千秋の口に突っ込んで、部屋に帰っていくこともあった。


 ――家の中だから……よしとしよう。


 自分に言い聞かせるように心の中で呟いて、千秋は大人しく陽太がくれる食べかけのポッチーを飲み込んだ。

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