2
電車が速度を落とした。目的の駅についたのだろう。
茶髪の子はいきおいよく、短髪の子はのんびりと座席から立ち上がった。
「俺、ダッシュで帰るから!」
「わかった、わかった。……野郎の幼なじみのこと、よくそこまで心配できんな。ただの風邪だろ?」
「そうだけどさ! でも、だって……」
電車を飛び下りた男子高校生二人の会話は、プシュー……と、音を立てて閉じるドアに遮られて聞こえなくなってしまった。
でも、続きは簡単に想像できた。
陽太も、千秋が休んだ日に、友人に向かって同じことを言ったから。
――だって……心配なもんは心配なんだもん!
そうかよ、とっとと帰れ! と、呆れ顔で手を振った友人の顔を思い出して、陽太は苦笑いした。
どうしようもないのだ、この気持ちは。
と、――。
「あれ、絶対にお見舞い相手の子と付き合ってるパターンだよね!」
女性たちの声に陽太は目を丸くした。
必死に声を押し殺しているようだけど、ほとんど人のいない車両では、否が応でも耳に入ってしまう。
「だって……なに? なんなの、続きは!?」
「そんなの決まってるじゃん!」
女性二人は興奮したようすで額を突き合わせ、手を握り合うと――。
「だって、俺がそばにいてやらないと心細いだろうから……――でしょ!」
「ですよね! んで、そのあとは――」
「俺がいないとダメなんだよ、アイツは……――でしょ!!」
「でーすーよーねぇー!」
なぜか満面の笑顔で、首振り人形のようにコクコクコクコク……と、うなずき合った。
女性二人のようすを遠目に眺めながら、
――大ハズレー。
陽太は苦笑いを深くした。
学生時代の陽太は、一方的に千秋に好意を寄せているだけだった。片想い。付き合ってなんて、いない。
そして、それは今も変わらない。
それに陽太がそばについていなくても、千秋は何の心配もない。千秋の母親が看病しているし、例え、そうじゃなくても千秋はしっかりしている。一人で、どうとでもしてしまうだろう。
陽太が心配する必要なんて、なんにもないのだ。
――それでも、顔を見るために定時で帰るし……。
陽太は手にしたビニール袋を開いて、中身に目を落とした。
パチンコ先輩のキャラメル。
それから――岡本が持たせてくれた、シンプルだけど、ちょっと高そうなプリン。
チームメンバーから預かったお見舞いを渡したら、千秋はもうしわけなさそうにしながらも大喜びするんだと思う。
岡本からのプリンを見たら、
「さすが、大人……」
なんて、目をキラキラさせながら言うんだと思う。
そんな千秋を見たくないと――。
――俺以外からの贈り物なんて、渡したくないなって思うんだけどね。
電車の天井を仰ぎ見て、陽太は自嘲気味にため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます