電車が速度を落とした。目的の駅についたのだろう。

 茶髪の子はいきおいよく、短髪の子はのんびりと座席から立ち上がった。


「俺、ダッシュで帰るから!」


「わかった、わかった。……野郎の幼なじみのこと、よくそこまで心配できんな。ただの風邪だろ?」


「そうだけどさ! でも、だって……」


 電車を飛び下りた男子高校生二人の会話は、プシュー……と、音を立てて閉じるドアに遮られて聞こえなくなってしまった。


 でも、続きは簡単に想像できた。

 陽太も、千秋が休んだ日に、友人に向かって同じことを言ったから。


 ――だって……心配なもんは心配なんだもん!


 そうかよ、とっとと帰れ! と、呆れ顔で手を振った友人の顔を思い出して、陽太は苦笑いした。

 どうしようもないのだ、この気持ちは。


 と、――。


「あれ、絶対にお見舞い相手の子と付き合ってるパターンだよね!」


 女性たちの声に陽太は目を丸くした。

 必死に声を押し殺しているようだけど、ほとんど人のいない車両では、否が応でも耳に入ってしまう。


「だって……なに? なんなの、続きは!?」


「そんなの決まってるじゃん!」


 女性二人は興奮したようすで額を突き合わせ、手を握り合うと――。


「だって、俺がそばにいてやらないと心細いだろうから……――でしょ!」


「ですよね! んで、そのあとは――」


「俺がいないとダメなんだよ、アイツは……――でしょ!!」


「でーすーよーねぇー!」


 なぜか満面の笑顔で、首振り人形のようにコクコクコクコク……と、うなずき合った。


 女性二人のようすを遠目に眺めながら、


 ――大ハズレー。


 陽太は苦笑いを深くした。


 学生時代の陽太は、一方的に千秋に好意を寄せているだけだった。片想い。付き合ってなんて、いない。

 そして、それは今も変わらない。


 それに陽太がそばについていなくても、千秋は何の心配もない。千秋の母親が看病しているし、例え、そうじゃなくても千秋はしっかりしている。一人で、どうとでもしてしまうだろう。

 陽太が心配する必要なんて、なんにもないのだ。


 ――それでも、顔を見るために定時で帰るし……。


 陽太は手にしたビニール袋を開いて、中身に目を落とした。


 パチンコ先輩のキャラメル。恋脳こいのー先輩の暇つぶし用恋愛漫画。ポテオリ先輩のポテチ。アニオタくんの音声が出る爆乳フィギュア。

 それから――岡本が持たせてくれた、シンプルだけど、ちょっと高そうなプリン。


 チームメンバーから預かったお見舞いを渡したら、千秋はもうしわけなさそうにしながらも大喜びするんだと思う。

 岡本からのプリンを見たら、


「さすが、大人……」


 なんて、目をキラキラさせながら言うんだと思う。

 そんな千秋を見たくないと――。


 ――俺以外からの贈り物なんて、渡したくないなって思うんだけどね。


 電車の天井を仰ぎ見て、陽太は自嘲気味にため息をついた。

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