「千秋が書いたプログラムは、丁寧で的確なコメントが入ってるから。途中で誰かに引き継いでも大丈夫って、岡本さんのお墨付き。それに千秋の遅延分を引き継ぐのは俺だから、なおのこと、何の心配もないよ。

 知ってる? プログラムって、その人の性格が出るんだよ」


 陽太は目を細めると、千秋の頬を突いてにやりと笑った。


「千秋が書いたプログラム、俺がわからないわけないじゃん。だって、何年の付き合いだと思ってるのさ。千秋がやりたかったことも、どこで悩んでたかも。全部、わかるよ」


 陽太の優しいまなざしに、千秋は掛け布団を鼻の上まで引き上げた。


 非常識で、子供みたいで、社会人やってるのが不思議なくらいで。

 そんな陽太の面倒を見るのが、千秋の役割だった。学生時代から、ずっと。


 千秋の役割、のつもりだった――。


 でも、時々。小さい頃から、時々。

 陽太は大人びた表情を見せることがあった。

 大人びた表情で、なんてことないかのように。千秋の沈んでいる心をすくいあげて、ふわりと微笑むのだ。


 それが、ひどく悔しくて。

 それなのに、どうしようもなく、ほっとして――。


「そういうの……どうせなら、可愛い恋人に言われたいんだけど」


 だから、悔し紛れにひねたことを言ってみたのに、


「じゃあ、俺が恋人になろうか? ……むぐっ!」


 さらりと返されて。千秋は陽太の顔面に枕を押し付けた。

 陽太がうめき声をあげているすきに、千秋はすっぽりと。頭まで布団に隠れてしまった。


 ――……熱の、せい。ぜったい。


 布団の中。火照った頬を押さえて、千秋はぎゅっと目をつむったのだった。

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