「大家さんですか? こちらです!」


 外が急ににぎやかになった。陽太の声もするけど、陽太の声だけじゃない。

 それに大家さんまで来ているなんて、どういうことだろう。不思議に思っているうちにガチャン、とカギの開く音がした。

 直後に勢いよくドアが開く音もした。


「千秋ぃ~!」


 にぎやかな足音を立てて部屋に上がってきた陽太に、千秋は抱きしめられた。


「生きてる? 千秋、息してる!?」


 ぜぇぜぇ……と、荒い息をしているのが聞こえないのだろうか。

 陽太の見当違いな質問に千秋は心の中で苦笑いした。


 と、――。


「警察です! 事故ですか、事件ですか?」


「自殺よ、自殺!」


「違うわよ、大家さん! 殺人事件よ!」


「救急です! 小泉さん、意識はありますか? 意識はありますか!?」


 雪崩れ込んでくるたくさんの足音に薄目を開けて、千秋は体調不良とは全く別の脱力感を覚えた。


 ――ヒナ、何をしたらこういう状況になるのさ。


 どういう状況かは、さっぱりわからない。

 でも、陽太がやらかして招いた結果だということだけは、よくわかった。

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