**05-04 はじめてのおつかいをさせる親の気分……だけでも、ない。**

 二十人ほどが入れる広い会議室の壁には、プロジェクト資料が映し出されていた。それを見つめていた岡本の手の中で、不意にスマホが震えた。

 ちらりと画面に目を落として、


「……失礼」


 岡本は会釈して、会議室を出た。


「はい、岡本です」


 廊下に出るなり急いでスマホを耳に当てた、瞬間――。


『岡本さぁ~ん! 千秋の部屋まで来たんですけど、カギがかかってて入れないんです!』


 スピーカーの音量調整がバカになったんじゃないかと思うほど。大音量で、陽太の涙混じりの声が響いた。

 今日、何度目かの陽太からの電話だ。毎回、大音量でかかってくるとわかっているのにどうしても驚いてしまう。

 バクバクと跳ねる心臓を押さえ、岡本は恐る恐るスマホを耳に近づけた。


「百瀬くん、合鍵とかは預かってないの?」


『ないです! こういうときって警察ですか? 救急ですか!?』


「うん、ちょっと落ち着こう。こういうときはどっちでもないよ」


 陽太の切羽詰まった声に、岡本は見えていないとわかっていながらも全力で首を横に振った。


「まずはご近所に大家さんがいないかを確認して――」


『いるそうです!』


 陽太の声以外に聞こえる女性らしき複数の声に、岡本は首を傾げた。

 陽太の物言いからして、誰かといっしょにいて。その人からの伝え聞きなのだろう、ということはわかった。

 一体、誰を、何人くらい巻き込んだのやら。


「それじゃあ、大家さんにカギを借りておいで。警察や救急には絶対に連絡――」


『はい、おばさんたちがしてくれました!』


 しないように、と注意するよりも先に、陽太が力強く答えた。

 それが事実であることを証明するかのように、受話器からは救急車のサイレンの音と、


『警察です!』


 と、いう凛々しい声が聞こえてきた。どうやら後の祭りだったらしい。


『岡本さん! あと何を呼んだらいいですか!?』


「うん。小泉くんの胃のためにも、これ以上は呼ばないようにね。それから、状況がはっきりわかったら、きちんと皆さんに謝るようにね」


『……謝る?』


「うん、謝りなさい」


 不思議そうに聞き返す陽太に言い聞かせながら、岡本は額を押さえた。

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