**05-03 心配している本人はいたって真面目なんです。**
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フロアを飛び出した陽太は、非常階段を二段飛ばしで駆け下りた。エントランスを全力疾走して、自社ビルを飛び出して、最寄り駅へと向かった。
タイミングよくホームに入ってきた電車に飛び乗って、息が整うのも待たずに千秋の電話番号を選択してスマホを耳に当てて。呼び出し音が十回鳴るのを数えて電話を切って、またかけ直して。
「車内で電話をするものではないですよ」
と、老紳士に
千秋と連絡が取れないまま、陽太は千秋の部屋の前にたどり着いた。
「千秋、いる~! 千秋、おーい、千秋~! 大丈夫か、千秋~!」
陽太が千秋の部屋のドアをガンガンガンガン! と、叩いても。大声で名前を呼んでも反応はない。
千秋が住んでいるのは一人暮らし用のマンションだ。十時過ぎという時間もあって、陽太がこれだけうるさくしても他の部屋の住人が怒鳴りに出てくることはなかった。
ただ――。
「ちょっと、ちょっと! そんなに大声でどうしたの?」
「そこの部屋のご家族? なぁに、連絡つかないの?」
ご近所のおばさま方がマンションの下にわらわらと集まってきた。二階にいる陽太を見上げて野次馬根性丸出しの視線を向けている。
千秋なら逃げ出すところだけど、ここにいるのは陽太だ。
二階から一階まで駆け降りると、
「千秋と……あそこの部屋のやつと連絡が取れないんです~! カギもなくて入れないし!」
涙目で叫んで、コンクリートの歩道にしゃがみこんだ。
若いとはいえスーツ姿の社会人が、泣きながら地面に突っ伏したのだ。尋常じゃないと思ったのだろう。
「あらあら、大変! ちょっと、奥さん! 角の交番まで行って警察、呼んできて!」
「任せて! 自転車でさーっと行ってきてあげるから!」
「カギも必要よね! 大家さんところ行ってくるわ! 三軒先だからすぐよ!」
おばさま方は慌てふためきながらも、テキパキと動き始めた――と、いうか事を大きくし始めた。
千秋なら慌てふためきながら止めるところだけど、ここにいるのは陽太だ。
「会社にも来てないし、最近、残業ばっかりだったから……もしかしてって思ったら、俺、心配で~!」
止めるどころか火に灯油のポリタンクごと投げ込んだ。
「過労死!? 自殺!? え、ちょっと、自殺してるかもしれないの!?」
「大変、救急車呼ばなきゃ!」
「死んじゃってたらどうしよ~!!」
本気で泣き出す大の男相手にオカン根性――もとい母性本能が刺激されたらしい。
陽太の背中をバシバシと叩いて、
「大丈夫よ! おばさんたちが絶対に助けてあげるから!」
「救急車も五分で来るそうよ!」
「大家さんもすぐに来るから!」
「警察もよ!」
おばさんたちはグッと親指を立てた。
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