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スマホを片手に岡本のデスクに駆け寄ると、
「岡本さん、千秋から休暇連絡あった!?」
陽太は大声で聞いた。岡本はひと睨みしたあと、首を横に振った。
先輩であり、上司でもある岡本に対してタメ口は問題だけど、しょっちゅうやらかすから、もう睨まれるだけで終わりだ。
岡本は落ち着き払ったようすで腕時計を確認した。
「まだ始業時間まで五分ある。寝坊して家を出るのがギリギリになったとか、電車が遅延しているとかじゃないかな」
「ないです! 千秋に限って絶対にない!」
デスクに積み上げられた書類を、陽太はバシバシと叩いて抗議した。
「コラ、書類を叩かない! 崩れたらどうするの!」
岡本は青い顔で、書類の山を抱きかかえた。
「まずは小泉くんのスマホにかけてみよう?」
「さっきから電話してます! でも出ないんです!」
「百瀬くん、叩かない! 本当に崩れるから!」
岡本が押さえてくれているなら安心だと、陽太はさらに激しく書類の山を叩いた。岡本の顔色が真っ青になるのを見て、陽太は手を止めるとぐいっと顔を寄せた。
「と、いうわけで俺、今日は休みます」
「…………ん?」
長い間のあと、岡本は微笑んだまま首を傾げた。
始業開始のチャイムが鳴った。
岡本の隣に座っているはずの千秋の姿はまだない。
「休んで、千秋のようすを見に行ってきます! だって、電話も出ないし! 既読にもならないし! もし、倒れてたら……死んでたら……!」
「わかった、わかったから……」
涙目の陽太に思い切り肩をつかまれ、揺さぶられて、岡本はため息混じりに頷いた。
「そうだね、連絡がないなんて珍しい。最近、残業が続いてたみたいだし。百瀬くんもそんな調子じゃ仕事にならないだろうし。……うん。百瀬くんと、小泉くんも。今日は休暇扱いにしておく。小泉くんの状況がわかったら僕に連絡するように。いいね?」
「はい!」
ビシッ! と、手をあげてお行儀よく返事をして。
結局、陽太は一度もカバンを下ろさないまま、フロアを飛び出した。
「百瀬くん、走らないー!」
フロアを全力疾走で出ていく陽太に、岡本は声をひそめて注意してみたけれど。もちろん聞こえているわけがない。
バタン! と、大きな音を立ててドアが閉まるのを聞いて、岡本はため息をついて。
隣の、千秋の席に目を落として――もう一度、今度は小さくため息をついた。
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