**05-02 だって、十五分前行動なやつだから。**

 千秋がプロジェクトに来て五か月――。

 大手メーカーの子会社らしく、一週間強とたっぷりの夏季休暇を経て。八月も終わりに差し掛かろうとしていた。


 プロジェクト全体で見れば、まだ大きな遅延はない。

 個人単位、チーム単位の遅延はちょこちょこと発生しているけど、リリース予定まではまだ一年ある。十分、リカバリーできるというのが管理職たちの見解だ。


 だから二日ほど遅延している千秋の作業も、大した問題にはなっていなかった。

 他のチームメンバーは、むしろ前倒し気味に作業を進めている。千秋の遅延分については他メンバーに割り振ろうと岡本も考えていたし。その旨を千秋本人にも伝えていた。


 でも、千秋は少しでも遅延分を取り戻そうと残業を続けていて。

 でも、陽太は岡本に言われた、


 ――あんまりしつこくし過ぎると、本気で嫌われて……逃げられてしまうよ?


 と、いう言葉に怖気おじけづいて。

 千秋に言われた、


 ――もう終わるから。ヒナ……百瀬くんは先に帰ってて。


 と、いう言葉を鵜呑みにして。


 ――次の報告会までに、少しでも遅れを取り戻しておきたいんだよ。


 そう言って残業する千秋を止めなかったことを、フロアに入った瞬間。

 いつも先に来ている千秋が席にいないのを見た瞬間。


 陽太はひどく後悔した。


 カバンも下ろさずにフロアを出た陽太は、廊下の隅っこで千秋のスマホに電話をかけた。

 呼び出し音が十回、二十回と鳴っても一向に出ない。

 一回切って、もう一度。二十まで数えたところで、陽太はフロアに引き返した。

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