打ち合わせから戻ってきた陽太は、目を丸くした。千秋の席にチームメンバー四人が集まっていたからだ。


「何? なに、なに、なに!? 何してんの、千秋たち!」


 満面の笑顔で駆け寄ると、


「コミットできるようにエラーつぶし中」


 パチンコ先輩がぼそりと答えた。


「この処理、確かにややこしいな」


 恋脳こいのー先輩が眉間にしわを寄せた。


「明日、詳細設計書から見直すか」


 ポテオリ先輩はそう言うと、深々とうなずいた。


「同じ処理、どこかにもありませんでしたっけ」


「これから着手するやつですね」


 首をかしげるアニオタくんに、千秋はプリントアウトしたスケジュールを指でなぞって答えた。

 誰も陽太の方を見ようとしない。打ち合わせ、お疲れ様! の、一言もない。

 ムーッと唇をとがらせた陽太は、


「俺も! 俺も混ざる!」


 と、叫んで拳を振り上げた――瞬間。


「百瀬くんはまず、今の打ち合わせの議事録作成」


 遅れてフロアに戻ってきた岡本が、陽太の肩をポン……と、叩いた。

 振り返ると、岡本はにーっこりと笑っていた。目だけは笑っていないやつだ。


「……は、明日でいいから。小泉くんのことはみんなに任せて帰りなさい」


「えぇ、やだ! 俺も千秋の手伝いする!」


 子供のように駄々をこねる陽太を見もしないで、


「いや、いい」


「そんな大人数でやることじゃない」


「て、いうか百瀬がいると話が脱線して長くなる」


「帰れ」


 パチンコ先輩、恋脳こいのー先輩、ポテオリ先輩、アニオタくんは冷ややかな声で言った。

 最後に、ようやく顔をあげた千秋が


「もう終わるから。ヒナ……百瀬くんは先に帰ってて」


 そう言った。

 少し疲れているようだけど、きっと聞いたところで“大丈夫”という答えしか返ってこないだろう。


「……はーい」


 陽太は千秋には聞こえないほど、小さな声で返事をして。

 チームメンバーに囲まれて。パソコン画面をにらみつけて、眉間にしわを寄せている千秋を見つめて。


「……」


 そっと、ため息をついたのだった。

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