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「いつからって……」
陽太はきょとんとして千秋を見つめると、首を傾げた。
「最初からあそこだよ。ずっと社内作業」
あっけらかんと答える陽太に、千秋は、ん? と、首を傾げた。
「……社内?」
「うん、社内。ずっと岡本さん配下。最初は別の先輩が
岡本の配下。
つまり、岡本の部下。
つまりつまり、大手メーカーのシステム開発事業を担当している子会社の、QBシステムズの正社員。
つまりつまりつまり――。
「俺は派遣で、ヒナは
「そういうこと。入館証の紐の色、俺と千秋だと違うでしょ?」
あっさりと頷く陽太に、千秋はガバッと頭を抱えた。
今までのことを思い出すと、意識が遠退きそうだった。
陽太も、千秋と同じように、どっかの小さなのシステム会社から派遣契約で来ていると思っていたのだ。
それがQBシステムズの正社員そのもの――!
同じようなことをしていても、自社の社員と他社からの請け入れ社員では扱いが全然、違う。契約の打ち切りと解雇じゃ、しやすさが全然、違ってくる。
陽太があれだけやらかしていて大丈夫なのだから、千秋がやらかしたミスくらい……なんて甘い考えだったのだ。
「このまま行くと三か月で更新切られて、自社に戻されて……!」
「え……千秋、自社に戻っちゃうの!?」
「そんでもって先輩や上司から役立たず扱いされて、やっぱり文系プログラマー使えないなって話になって……!」
「ねぇ! 千秋、自社に戻っちゃうの!?」
「めちゃくちゃ難しい仕事ばっか振られて自主退職に追いやられて、実家に戻って、再就職に失敗して、家族の冷たい目に耐えられなくなって、部屋に引きこもって、自宅警備員になる運命なんだーーー!」
「自社に戻ったら、実家に戻ってくるの? なら、いいや」
頭を抱えて仰け反っていた千秋は、陽太の明るい笑い声に凍り付いた。
ならいいや?
真剣に悩んでいると言うのに、その一言。
たったの一言で片づけられてしまった。
あれも、それも、どれも、これも――。
「ヒナのせいで自宅警備員になっちゃうのに!」
バシーン! と、テーブルを叩いて、勢いよく立ち上がった千秋を見上げて、陽太はパクリとフレンチトーストを頬張った。きょとんとした顔をしている。
どうして千秋が怒っているのか、さっぱりわからない……といった表情だ。
――……だよね。
陽太の表情に脱力して、千秋はすとんとイスに座り直した。
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