翌々日――。


 定時を告げるチャイムのあと、一時間ほど経つと――以下略。


「千秋、仕事終わりそう?」


 陽太の大きな声にも周囲の方が慣れてしまったらしい。

 フロアに残っている人たちは短く息を吐いただけだった。周囲の反応に千秋は引きつった笑みを漏らした。


「今日も千秋の部屋、泊っていい?」


 千秋のとなりにやってきた陽太は、食べかけのお菓子を千秋の口に押し込みながら尋ねた。チョコレートがかかった棒状のお菓子――ポッチーだ。


「……もう泊るのは決定なんだな」


「千秋の部屋だと朝遅くまで寝てられるし。夕ごはんも朝ごはんも美味しいのが出てくるし」


「俺の部屋を旅館かなにかと勘違いしてない?」


「まさか。旅館っていうより実家?」


「俺はお前のオカンか」


 口の中のポッチーをもぐもぐと咀嚼そしゃくしながら、千秋は陽太に白い目を向けた。

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