【証言4】


 次に口を開いたのは、二十代らしき男性メンバー……と、いうか。このチームは男性ばかりなのだけど。


 白のYシャツにグレーのスーツ。上着も羽織ってるし、ネクタイもつけてる。Yシャツにアイロンもかかってる。

 物静かというか、暗そうな感じだけど……それは千秋も同じだ。ようやく波長の合いそうなメンバーが現れたと千秋はほっと息をついた。


「大学受験のときにインフルエンザに――それもA型、B型、別の種類のA型って三回、かかって。センター試験も、志望してた大学も、ことごとく受けられなくて。全く予定してなかった近場の三流大学の文学部に入ったとか」


「俺は千秋と同じ大学でうれしかったー!」


 のんきにバンザイをしている陽太に殺意を覚えていると、


「五分、お貸ししましょうか。癒されますよ」


 慈愛に満ちた目とともに、そっと何かが差し出された。


「あ、ありがとうご……」


 パチンコの景品、あやしげな恋愛指南、ポテチとオリーブオイル……。

 最後に差し出されるのはなんだろう。まともな物だといいな……と、淡い期待をこめて目を落とした千秋は、


「…………」


 仮称・アニオタくんが笑顔で差し出してくれたアニメキャラの爆乳マウスパッドを、無言で押し戻した。

 パソコンの上やらモニターの前やらに、爆乳フィギュアがずらっと並んでいる席がある。間違いなく。絶対に。仮称・アニオタくんの席だ。

 念のために言っておくが、ここは職場である。


 無言でチームメンバーの顔を再度、見回して。

 このチームをまとめている岡本が、千秋に向ける疲れ切った微笑みに深くうなずき返して。


「千秋はどっちかっていうと貧乳派だしな……っ、ぐぇ!」


 千秋は黙って。見もせずに。陽太の顔面に裏拳を叩き込んだ。

 そういうことじゃない。

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