【証言2】


 次に口を開いたのは、三十代らしき男性メンバー。


 この業界だとあんまり見かけない、スリーピース・スーツ姿。髪もきっちり整えていて、無駄に歯がキラキラしている。


「中学校の文化祭でいっしょに実行委員やって子に勘違いされて。好きでもないし、告白してもいないのにクラスメイト全員の前で振られたんだって?」


「俺、あれは怒っちゃったよ! だから、後夜祭で。スピーカー使って。全校生徒の前。きっちり訂正してやったんだよ! 千秋が好きなのは、お前みたいな女じゃないって!」


 違う。

 後夜祭で。スピーカー使って。全校生徒の前で――までは合ってるけど。

 陽太は言い間違えた。いや、言い漏らしたというべきか。


 “お前みたいな”――の、部分を。


 おかげで仲の良い友達からは卒業した今でも、好きなのは女じゃないんだよな、と、にやにやと笑いながら聞かれ。

 仲の良くないクラスメイトや他学年の人からは、好きなのは女じゃないんですか、と、真顔で聞かれ。

 訂正するどころか、訂正箇所を増量しやがったのだ。


「彼女いない歴、年令らしいけど……もしかして、それがトラウマになっているのか! なんて、もったいない! 恋は世界を美しく見せる! 愛は人生を美しく彩る! 恋愛相談なら任せて、いつでも相談に乗るよ!」


 中学時代の黒歴史を掘り返されて、白目を剥いていた千秋は、仮称・恋脳こいのー先輩のいきおいに苦笑いした。


 ――ありがとうございます、結構ですー。


 そう言おうとして――。


「異性、同性、人外。あらゆる存在と恋に落ち、愛してきた俺が徹底的に相談に乗ろう!」


「あ、はい……人外……え、人外? 人外?」


「さぁ、いっしょに美しきバラ色の人生!」


 千秋は真顔で二度聞きした。

 仮称・恋脳こいのー先輩はあっさりとスルーしたけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る