第9話 覚悟を決めて

―――彩葉side


 葵葉がベットの方へ歩いてくる足音がする。

 ああ…もう…私はここで…


 その時、扉が開く音がした。


「湊から起きたって聞いて走ってきたんだけど!」


 天童さんがバタバタとやって来て、冷や汗が一気に止まって、安心したのを感じる。

 なんとかバレずに済んだのだから。


「小鳥遊先輩、何してるんですか?まさか、寝込みを襲おうとか…」

「な!?ご、誤解だーーー!!」


 天童さんと葵葉が、楽しそうな会話をする。

 うるさいな、と内心思いながら。


「そういう天童は何しに来たんだ?」


 もう会話が進んでいたようだ。


「ああ、私は彩葉に会いに」


 え?

 あ、終わった


 さっきは名前を出してなかったからバレなかったけど、

 多分、これで…


「もう一度、言ってくれ」

「え?彩葉に会いに来た!」

「彩葉…だと?」

「?はい、小鳥遊先輩の前で寝てる、その子ですよ?」


 完全に詰んだ。


不躾ぶしつけで悪い、この少女の名前は…?」

「え、確か先輩と同じ、たか…」


 もうこれ以上は無理だ。

 そう思ってベットから起き上がってすぐに葵葉から遠ざかった。


「彩葉…彩葉…、なのか?」


 今は、

 ここから逃げること。

 それだけを考える。


 此処は保健室なのに何故か少し高い二階のフロア。


 最悪窓から飛び降りれば逃げられるはず。

 多分死にはしない。運が悪ければ折れるだけ


 だけど、

 この後どうしよう。


「え、彩葉…?小鳥遊先輩…?」

「…天童さん、ごめんなさい」


 私は天童さんを向いてそう告げると、

 窓の方へ葵葉をなるべく避けながら走って、手を掛けた。


 その瞬間

 後ろに物凄い力で引っ張られる感覚があった。


「何しようとしているんだ…、!」


 ……葵葉、もう良いって。


「さわんないでよ、手、離して」

「彩葉!一旦落ち着くんだ…!」


 うざいよ…嫌われてるってわかってんなら離せよ!

 そう言おうとしたが、ここは天童さんもいる。そんな汚い言葉を使ってしまったら流石に引くだろう。


 私のこの前切った髪の毛が風に揺れる。


「このままだったら…葵葉も一緒に落ちるよ?いいの?」

「だから落ち着け!!!!」


 もういいか、引かれても


「落ち着けるわけないでしょ!!!!!触んないでよ!!!!!!!!」


 いつも葵葉に当たるときより強く、何倍も強く、そう言った。


「…っ」


 葵葉の息を飲む音がする。


「私は…っ、」

「私は!」


「あんたと家族だなんてこれっぽちも思ったことない…っっ、!!!!」


「……っ、」


 傷ついたような顔をされる。

 やめて

 私を悪者みたいにしないで


 先に傷つけたのは…


「葵葉の、くせに」


「先に裏切ったのも、一人ぼっちにしたのも」

「あんたなのに!!!!!!!」


 そう言って私は


「彩葉、!!!!!!」


 ありったけの力で葵葉を振り切って


「う、っ」


 二階の窓から



 ――飛び降りた。

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