第10話 間に合わなかったこと、手遅れなもの
―――湊side
あいつ、学校持ってきてるもん本当に少ねえな。
B組に彩葉の荷物を取りに言った時、祥が丁度居たからつい話し込んじまったが、
大丈夫か、あいつは。
バタバタバタ
俺が色々整理していたら、前から勢いよく走ってくるやつがいる。
「湊、湊!!大変、彩葉と小鳥遊先輩が、っっ!」
「あ?なんだよ」
「ちょっと来て!保健室にっ!」
「くそ、っ…!」
間に合わなかった
いや違う
俺がもっと早く行けばよかったんだ。
呑気に祥と雑談をしていた俺を心底殴りたくなる。
彩葉のスクールバックを持ちながら、俺達は保健室へと急いだ。
―――保健室
「葵葉センパイ…!!」
「小鳥遊先輩っ、!」
俺は千夏とほぼ同時に湊センパイの名前を呼んだ。
「湊、それに天童も。何故…此処に、?」
保健室に行くと
彩葉は居なくて
葵葉センパイだけがいた。
そして
放課後で戸締まりをしているはずの窓は開いていて
カーテンが風に揺れていた。
「…彩葉は?」
俺は迷わず葵葉センパイに問う。
「……」
センパイは黙ったまま。
「おい答えろよ!!!!」
いつもあの五月蝿い葵葉センパイは何処に行ったのか
胸ぐらを掴んでも
悲しそうな目をするだけで
何も喋らなかった。
「なんか喋ろよ…」
「……」
すると、急に喋りだした。
「……オレには、彩葉に触れる権利すらない
彩葉を傷つけ、一人にしてしまったのは変えられない事実だ
だから…だからもう、
オレは彩葉との接し方がわからない…」
葵葉センパイは、いつもよりすごく小さい声で、静かにそう語った。
いや、葵葉センパイは知ってるはずだ。
俺なんかよりもっと、
もっとずっと、
いろんなあいつを。
俺も純恋も父さんも母さんも
最初は彩葉に心を開いて貰えなかった。
あいつは一人で永遠に
泣いて、
泣いて泣いて
辛い時間を過ごして。
何回もおかしくなって。
それでも長い年月を掛けて俺たちに心を開いてくれた。
俺らに全部話して。信用して。
飯食って風呂入って寝て
たまに学校行って。
彩葉にとって普通、そんな普通を、きっと幸せと呼ぶんだろうな。
彩葉は、きっと誰よりも強い。
それを葵葉センパイ、
「あんたが一番よくわかってんだろうが!!
あいつのことを…彩葉を!一番良く見てきたのは…
お前だろ、?」
はは、っと涙まじりに叫んだ。
「拒絶されることがこんなに怖いことだとは…」
また小さな声で言うセンパイ。
「今まで…わからなかった彩葉の痛みを…
オレは今になってやっと……」
絶望したような
何かを失ったような
そんな顔をして
葵葉センパイは告げた。
「じゃあ…追いかけないんですか?」
今まで黙っていた千夏が口を開いた。
「わかったなら…追いかけてやってくださいよ…」
千夏は涙をポロポロ流しながら葵葉センパイよりもっともっと小さい声で言った。
「オレには…追いかける資格などない」
「なんでですか!!!!」
「だから…お前らに、行ってほしいんだ」
なんで
「お前が行くところだろそれは…!!!!」
普通ここは兄が行って…
兄妹同士で仲直りする場面じゃねえのか?
普通、って何だっけな…
なんて考えていると
「早く行けよ!!!!!!!!」
葵葉センパイが、いつもと同じくらいの声で叫んだ。
でも何処か、悲しそうに。
「オレは彩葉をそんなふうに守ってくれるやつを、今まで見たことがなかった
彩葉はずっと絃葉の看病を手伝ってくれていて、友達が出来なかった
勿論それは絃葉もだ。
だがそうなってしまったのは誰のせいでもない」
何が…言いたい?
「何が言いたいんすか」
「……」
少しの間沈黙が続く。
「もういい
早く…彩葉を追いかけてやってくれ」
はぁ、わかったよ、
「じゃあこれは貸一つで」
「嗚呼、善処しよう」
滲む汗を拭いて
俺はまた走った。
行く宛もなく
ただ小さな背中を追って。
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